和歌山大会 発表要旨

第1日目 6月24日(土) 
自由研究発表
英語教育法セミナー
シンポジウム


第2日目 6月25日(日)
自由研究発表
ポスター・セッション
英語教育法セミナー2A・2B
問題別討論会
課題別研究プロジェクト


第1日目 6月24日(土)

自由研究発表
自由研究発表  第1日 第1室(G-205) 1番目

日本の高校生英語学習者に対するライティング指導―Dicto-Compの効果的利用に関する実証的研究―
   稲原祐子(富山県立富山東高等学校)

 本研究は、日本の高校生英語学習者に対するライティング指導において、Dicto-Comp(ディクトコンポ)活動を取り入れた場合、生徒のライティング力にどのような影響があるかについて実証的に研究したものである。
 高校2年生、普通科3クラスにおいて、Dicto-Comp・自由英作文・和文英訳のいずれかの活動を10分程度取り入れた授業を、週1回ずつ3ヶ月間行った。実験の前後で、生徒に同じテーマで自由英作文をさせ、全体的評価・流暢さ・正確さ・複雑さの観点から、生徒のライティング力の変化を測定した。また、実験後に文法・語彙テストを行い、その定着度に差があるかどうかを測定した。
 実験の結果、Dicto-Compクラスは、自由英作文クラス同様、全体的評価に関して和文英訳クラスの伸びを有意に上回った。また、正確さ(総節数に対する誤りのない節数の割合)に関しては、自由英作文クラスのみ有意な伸びが見られたが、Dicto-Compクラスの方が新しい表現を使おうとする傾向があった。
 高校生に対するライティング指導では、内容面の充実と言語形式習得の促進が不可欠である。和文英訳では内容面の指導を十分行うことができず、また自由英作文では生徒は既知の言語知識で無難に文章を書こうとする。Dicto-Comp活動は、これら2つの活動に足りない部分を補い、生徒のライティング力を伸ばしていくのに効果があると言える。
 さらに、生徒のアンケート結果から、Dicto-Compは自由英作文よりも心理的負担が少ない活動であることが分かった。教師にとっての添削の手間を考え合わせると、Dicto-Compは生徒・教師双方にとり簡便に活用できるライティング指導法であると言える。



自由研究発表  第1日 第1室(G-205) 2番目

30-Minute Timed Essays:  Assessing University Freshman and Sophomore English Writing Proficiency
    Howrey John(南山大学)

  In April 2006, over 300 student writing samples from the writing classes in the Department of British and American Studies at Nanzan University were collected.  The samples came from the Writing I/II (freshman) and Writing III/IV (sophomore) classes in which students had to respond to a writing prompt in a 30-minute timed essay based on the Test of Written English used for the TOEFL.  This presentation will explain the rationale for collecting the writing samples, how the writing samples were administered and assessed, the results of the samples, and their implications for both the writing program at Nanzan University and other area universities and high schools.

自由研究発表  第1日 第1室(G-205) 3番目

「英語鑑賞」的授業からの脱却―トレーニングとしての英語授業
    鈴木基伸(豊田工業高等専門学校)

 「『英語鑑賞』的授業」とは、学習者の授業時での活動の大半が、英語教材の「解説」を聞き、それを「理解」することに終始する授業のことを指す。このような授業における学習者の「役割」は、予習してきた英文の和訳(あるいは自分が聞き取った英文の意味内容)と教師の解説を照らし合わせ、自分の誤りを訂正することによって、その教材を「理解」する、という段階にとどまっている。このような役割はあたかも音楽を鑑賞する「観客」に類似している。何時間名曲を鑑賞しても、その演奏家のように楽器を演奏できないのと同様に、何時間このような「解説→理解」の形式で英語を「鑑賞」しても、それは英語を使いこなす力に即座にはつながらない。現行の英語教科書や一般に出回っている英語テキストの大半は「解説→理解」を前提にして作られており、このようなテキストによって「『英語鑑賞』的授業」が依然として行われている。本発表では、このようなテキストを批判するのではなく、現行の英語テキストをどのように「活用」すれば、「『英語鑑賞』的授業」から脱却できるか、その具体的な指導方法を紹介したい。そして、学習者を「観客」から「トレイニー(trainee)」に、教師を「解説者・演奏者」から「トレイナー(trainer)」に役割を替え、授業を「鑑賞型」から「トレーニング型」に替えることの重要性をあらためて強調したい。

自由研究発表  第1日 第1室(G-205) 4番目

学生同士のコミュニケーションを促進するライティング授業
   三浦 孝(静岡大学教育学部)

 本発表は、高校~大学での自由英作文の授業方法の改善を提案するものである。従来、自由英作文授業は、個々の学生の作品を教師が読んで添削指導を行うことを中心としてきた。こうした授業の問題の1つは、クラスの中に大勢の学生がいるにもかかわらず、授業のコミュニケーションが学生個人対教師という孤立した関係に終始してしまう点である。これに対して、学生同士で互いの作品を添削しあうpeer evaluationを用いることが提唱はされているが、筆者の指導経験で言えば、クラスメートの作品について自信をもってevaluateできる学生は少ない。こうした意味で、自由英作文授業での学生の孤立をどう解消して、書くことの持つコミュニケーションとしてのポテンシャルをどう高めるかが、作文教師の大きな課題だと言える。
 本発表では、こうした課題を解決するために筆者が開発してきた、インタラクティブ・ライティングの手法を紹介する。この手法の骨子は、
(1)作文の「お題」を学生が発案する
(2)複数の「お題」を用意し、各自が好きな物を選んで書く
(3)同じ「お題」で書いてきた者同士が集まって、作品をシェアする
(4)シェアする中で、関心した点、うまく伝わっていない点を互いに指摘しあう
(5)もらった指摘をもとに、自分の原稿を手直しして教師に提出する
という流れである。
 本発表では、実際に授業で学生に人気の高かった「お題」や、学生作品の実例を紹介する。この手法の持つ魅力は昨年度受講生の次の言葉に集約されている:
「このインタラクティブ・ライティングで一番良かった点は、周りの人の意見・考え方を知ることができたことです。すごく良い意見・考えを持っている人とは友達になりたいと思うこともあり、自分の中で多くの良い発見ができました。」             

自由研究発表  第1日 第2室(G-206) 1番目

フリーライティングにおける語彙数と運用能力の関係に関する一考察
   畑下仁美 (京都ノートルダム女子大学)
   東郷多津(京都ノートルダム女子大学、言語学習センター)
   新井康友(京都ノートルダム女子大学)

 京都ノートルダム女子大学では、学生の語学力、特に英語の能力の向上を目的とし平成16年4月に言語学習センターが開設した。ここでは、英語能力の多様な学生に対して個人のニーズに応じたプログラムの開発を行うため、これまで個人学習や英語能力の中でライティングの授業について考察を行っている(東郷 2005、畑下 2005)。今回は引き続きライティングの授業を取り上げる。本研究では、個人によって書かれた英文を基に能力のレベルを診断し、それぞれの能力に応じた指導法について考察する。
 英語の運用能力が高い学生にはフリーライティングをさせるのが良いという結果(畑下2005)から、フリーライティングを使用すると、単に単語を暗記するのではなく実際の文章の中で運用することができているかを確認することができる。今回はP学部1年次生のライティング上位クラスの学生について実際にフリーライティングを行い考察する。
学生に対する指導は主に内容を中心とした指導を行うが、実際に英語が運用できているかどうかは、内容に左右されない英語の運用能力をとらえるメジャーが必要となる。そのメジャーは、個人に左右されない客観的で、しかも簡単に判断できるものがより有用であろう。そこでフリー英作文を構成している文章数、一文を構成している平均単語数に着目する。
 フリーライティングの長い人と短い人を比べると、あきらかに語彙数が違う。長くかける人は1文の長さが比較的長く、1文に含まれる語彙数も多い傾向ある。また短い文章、1文を構成する語彙数の少ない人は英語の運用能力が低いようである。したがって、英語運用力の中で語彙力が大きな要因となっていると考えられる。今回は、継続的に行った実際の英語フリーライティングを用いて検証する。また、そこから得られた上位と下位の結果を第三者評価テストの結果と比較検討し、その妥当性を見ることとする。
 参考文献:B. Laufer, P. Nation “Vocabulary Size and Use: Lexical Richness in LS Written Production” Applied Linguistics, Vol. 16, No. 3, 1995, pp.305-322

自由研究発表  第1日 第2室(G-206) 2番目

多様化する学生を対象とした英語の授業の試み―再生産活動を取り入れたリーディング授業
   東郷多津 (京都ノートルダム女子大学、言語学習センター)
   畑下仁美(京都ノートルダム女子大学)

 京都ノートルダム女子大学では平成16年4月に言語学習センターを開設し、英語を専攻としない学部、学科の英語の授業を統括している。ここでは多様化する学生個人の言語能力を向上させるために、さまざまな問題、要求に応じたプログラムを提供している。
 さらに、日本の国内的な要求として、「英語の使える日本人」の育成があげられている。これは、平成14年の文部科学白書によると、経済・社会等のグローバル化の進展の中で、国際的共通語としての「英語」でコミュニケーションを図ることのできる人という意味であり、その行動計画(平成15年)の中では、大学に求められる英語力を、「専門分野に必要」で、「国際社会に活躍する人材等に求められる」力と定め、卒業時には「仕事で英語が使える」レベルになるよう目標設定されている。
 国際社会で「英語が使える」とは、文法や語彙などについての知識を持つほかに、コミュニケーションを目的として英語を運用する能力を駆使できることである。文部科学省では現状の問題点を「日本人の多くが英語力が十分ではない」こととして、オーラル・コミュニケーションを強化したり、より実践的な場面設定で英語を身近に感じられる工夫がなされている。一方、TOEIC(R)などの第三者評価テストで点数が高くても、企業では実践に使えない社員がいたり、TOEFL(R)で高得点を取って留学しても、実際の授業には参加できない学生がいるという。これらのテストで高得点を取る人は「英語力は十分ではない」人なのだろうか。日本人学習者は英語力が不十分なのではなく、英語力を駆使する能力が不足している、またはその経験が不足していることが、効果的に英語の知識が運用されない大きな原因といえるのではないだろうか。現に、企業が求めるが新人には不足する力は「相手の意見を聞いたうえで自分の意見を伝える力」だと言われている。
 今回はこれらの点に着目したリーディングの授業を報告する。

自由研究発表  第1日 第2室(G-206) 3番目
 
初級学習者を対象とする英文法理解度の測定において有効なタスクに関する一考察
   坂本智香(神戸学院大学人文学部―非常勤講師)

 日本の英語教育において,(1)誤文訂正や(2)語句の並べ替え,(3)穴埋めといったタスクは,英文法指導を定着させるためのタスクとして用いられていると同時に,定期テストや入学試験等において,英文法の理解度を測定する手段としても広く用いられている。しかしながら,英文法指導において一般的に用いられている上述のタスクを英文法理解度の測定にまで拡張して用いることにより,学習者の英文法理解度を正しく測定することができているのかという問題については,これまで詳細な検討が行われてこなかったように思われる。実際に,初級学習者を対象に誤文訂正問題と語句並べ替えタスクの比較を行った研究(坂本2005)では,2つのタスクの結果の間に相関関係はあまり見られないとの結果も報告されている。さらにこの問題は,2006年5月以降に実施されるTOEICの出題内容から誤文訂正問題が削除されたこととも無関係ではないだろう。以上の問題を踏まえ,本研究では,初級学習者(高校1年生)に対して誤文訂正・語句並べ替え・穴埋めの3種類のタスクを課した結果と,これらとは独立して測定された学習者の英文法理解度との間にどのような関係が見られるかについて分析を行った結果を報告する。

自由研究発表  第1日 第2室(G-206) 4番目

英文読解における困難点に関する自由記述分析
   宮本由美子(長野県上田東高等学校・信州大学大学院生)
   奥村信彦(長野工業高等専門学校)

 本研究の目的は、高校生英語学習者が読解において感じる困難点は何か、また、上位群、下位群で感じる困難点に差はあるか、高校生の英文読解の阻害要因を明らかにすることである。L2リーディング研究において、語彙検索や文法処理などの下位レベル処理技能の効率的な使用が読解力に欠かせないことが知られている。高校生学習者の英文読解におけるつまずきが、下位レベル処理能力の欠如によるものか、今回は学習者自身の意識の点から探ることにした。
 本研究では高校生120人を対象に、読解における困難点についての自由記述のアンケートを実施した。得られたプロトコルから困難点をカテゴリー化し、その頻度を調べた。英文読解テストのスコアに基づいて分けられた上位群と下位群の間には、読解における困難点にどのような差違が見られるか検証した。本発表では実験の結果、およびその考察の報告を行う。

自由研究発表  第1日 第3室(G-207) 1番目

シャドーイング実践とリスニングスパンとの関わり
   建内高昭(愛知教育大学)

 認知研究に基づく第1言語習得や第2言語習得の研究のなかで、聴き手の持つ処理資源容量の重要性が強調されてきている。この処理資源容量とはBaddeley(1990)が「ワーキングメモリ」と呼ぶ体系で扱われる要素のひとつである。「ワーキングメモリ」という用語は広義な意味内容を含み、個人が常時利用できる有限の処理資源容量とも捉えられ、入力情報を同時に保持したり作業したりできる容量である(Just and Carpenter, 1992)。たとえばリスニングにおいて、個人レベルの処理資源容量とはどのようなものであろうか?音声情報を聴き、その音声保持のみを行なうわけではない。既に聴いた内容を踏まえながら、次に聴き取る内容と既に聴き取った内容とを照らし合わす作業をしながら聴いて理解しているのである。つまり限られた処理資源容量の中から情報の保持と作業という両方を行なう活動である。この保持と作業を行なう場所については中央実行系のみで行なわれていると考えられてきたが、記憶保持に関わり注意資源も利用している(Engle et al., 1999)とも指摘されている。
 スパン容量を構成する主要因としてリハーサルと記憶想起が挙げられている(Henry & Millar, 1991)。このリハーサルとは言語情報を声に出して反復したり、心の中で構音化し反復する作業を指している。そして「ワーキングメモリ」内で行なわれる情報の忘却を防ぐための記憶維持機能であると考えられる。ここで示された声に出して反復するメカニズムを、意図的に言語習得に応用したのがシャドーイングである。すなわちリスニングスパンとシャドーイング(聴いた音声に随伴して発話を行う)とはリハーサルという共通のメカニズムが基盤となっている。そこで共通のメカニズムである記憶維持リハーサルに着目する。本研究は、リスニングスパンによる指標を用いて、シャドーイングとリスニング力との関わりをリハーサルとの関わりから捉えようとするものである。

自由研究発表  第1日 第3室(G-207) 2番目

音読練習の速読促進効果を検証する
    浅野敏朗(明治鍼灸大学)

 情報化時代の今日、限られた時間で多くの英文を読み、その要点を読み取ることの必要性はより大きくなってきているといえる。速読とまではいかなくても、7割程度の理解で大切な事柄をできるだけ素速く読み取る力を育成することは、英語教育の重要な課題である。
 本発表は、音読練習が英文をより速く読む力をつける上で有効かどうかを検証することを目的とする。医療系の大学生70名を、35名ずつの実験群と統制群に分け、実験群には自主学習として音読トレーニングを課し、授業においても音読練習を実施した。統制群には音読トレーニングを課すことなく、授業でも通常の読みに関わる学習を行わせた。実験群の音読トレーニングは、4月当初の授業時間から毎週トレーニングペーパーを与えて各自で行わせ、計10回実施したが、毎回、音読回数、それにかかったWPM(Word Per Minute)などを自主申告させた。一方、速読テストは両グループに毎授業時間に実施し、与えられた英文を読むのに要した時間をもとにWPMを計算させ、また英文の内容チェックに関わる問題の正解数をもとにRE(Reading Efficiency)を算出させた。速読テストは計11回実施した。
 初回の速読テストにおいては、WPM並びにREの両方において、2グループ間で平均点に有意差(有意水準=0.05)は認められなかったが、以降のテストでは、WPMにおいてもREにおいても10回中8回まで有意差(有意水準=0.05)が確認され、音読トレーニングを実施したグループの速読力向上が検証された。先行文献では、音読練習は速読力育成の上で障害になるとの議論もある一方で、速読力が十分についていない段階の学習者においては、音読練習はむしろより速く読むことに向けて有効であるということも指摘されている。今後、より多様なレベルの学習者を対象に、さらに検証が進められなければならない。

自由研究発表  第1日 第3室(G-207) 3番目

正書法・音韻処理、語彙・統語処理と英文読解力の関係
   藤田 賢(三重県立飯野高等学校)

 本研究は、日本人高校生における英文読解のコンポーネントスキルに関する考察を行ったものである。Nassaji and Geva(1999)に基づく、下位レベル処理(正書法処理・音韻処理)、上位レベル処理(語彙・統語処理)と英文読解力の三層モデルとその検証を通して、日本人高校生における英文読解の構成要因の関係を探った。
 三重県内の高校3年生32名に、上位レベルテスト、下位レベルテスト、英文読解テストを実施した。そして、各テスト9観測変数の相関関係を行列にまとめた。その後、下位レベル処理(正書法処理効率、音韻処理効率の2変数)、上位レベル処理(語彙力と統語文法力の2変数)、それに英文読解力を加えた5変数に集約し、その関係を重回帰分析で行った。
 結果として、英文読解と最も関係が強いのは「語彙力」であった。重回帰分析の結果、英文読解力の説明として、語彙力が唯一の有意な変数となり、全変数で約54%が説明できることが明かになった。また、5変数の相互作用を三層モデルのパス図に描いてみたところ、下位レベル処理は、英文読解に直接影響するのではなく、語彙力を通して英文読解に貢献することが明らかになった。
 以上の結果から、日本人高校生にとっては、正書法・音韻処理などの下位レベル処理と語彙力が相互に発達し、その発達した語彙力が英文読解力に影響を与えるのではないかと考えられる。統語文法力の影響が比較的小さかったことは今後の検討課題となった。また、被験者の層と数を拡大し、発達段階を考慮したモデルの検討を行うことが総合的な理論の構築には必要となろう。

自由研究発表  第1日 第3室(G-207) 4番目

英文読解における定型表現の処理に関する研究-定型表現の末尾語の読解速度
   村木恭子(名古屋大学大学院生)
   杉浦正利(名古屋大学大学院)

 本研究の目的は、日本人英語学習者が英文中に含まれた定型表現を一つのチャンクとして処理しているか否かを心理学実験の手法を用いて検証することである。学習者の使用する定型表現に関する研究は、近年コーパスを用いた研究が盛んになっている。Milton (1998)やSugiura(2002)などでは、学習者及び母語話者の定型表現の産出を種類・頻度の面から分析し産出の特徴を明らかにしようとしているが、「本当に定型表現が1つのまとまりとして処理されているのか」という問題はコーパスを用いた研究だけでは解明できない。
 本研究では、定型表現が一つのチャンクとして処理されているとすれば、読解速度に影響が出ると仮定して、定型表現の処理に関する研究であるUnderwood et al. (2004)やSchmitt and Underwood (2004)をふまえ、自己ペースの読みの課題を用いて定型表現を含む英文を読解するプロセスを分析する実験を行った。
 4語から成る定型表現22個を選び、それぞれの表現を含む文を作成した。文の提示は、文を単語単位でかつ被験者のペースで読み進めることが出来るようにプログラムを作成し、大学生・大学院生45名を被験者として単語毎の読解速度を記録した。
 被験者毎のデータを回帰分析を行うことで期待読解速度(ある文字を読解するために必要とされる読解速度)を算出し、記録された読解速度と期待読解速度を比較分析した。定型表現の末尾語(4語目の語)の読解速度について分析を行った結果、定型表現の末尾語は定型表現内の他の語に比べて読解速度が有意に速くなることが明らかになった。これは、4語から成る定型表現については、3語目まで読んだ段階で次に来る4語目を推測できている、すなわち定型表現を認識できているということを意味していると考えられる。

自由研究発表  第1日 第4室(G-304) 1番目

言語学習ストラテジーの意識化が学習効率、動機づけに与える影響
―短大生の話せるようになりたいにどう応えるか―
    永倉由里(常葉学園短期大学)

 前回の山梨大会では、「短大生の話せるようになりたい」に応える授業の実践例として、主に、1.意味あるコミュニケーションの展開を促す、2.そのための興味・関心を引くトピックの選択、3.提供するタスクの吟味、4.自己評価の奨励などを中心に発表した。前期15回の授業を終え、その効果を確認したが、後期に同様の実践を継続できなかったこともあり、期待したほどには学習者としての自律性・自主性を養うに至らなかった。
 そこで今回は、vicious-circleからの抜け出すには、心理面でのサポートと、学生がストラテジー・トレーニングにより、学習スタイルの変容が可能であると期待することが大切だと考え、ラーナー・トレーニングの色合いを強めた。すなわち、
1. 年度当初に、各自の目標、学力、学習スタイル、学習習慣を確認させた上で、
2. 次の2点について明示した後、使用するストラテジーを意識させた授業実践を行うことにした。
(1) 言語学習ストラテジーとは何か、
(2) ストラテジー・トレーニングに期待できることは何か(言語学習ストラテジーは教授が可能である、言語学習ストラテジーは転用・応用が可能である、学習者としての自立につながるなど)
タスク活動の中で言語学習ストラテジーを意識させた実践と、それぞれのストラテジーの使用効果と他への転用、および動機づけへの影響についてのアンケート調査の結果を報告する。

自由研究発表  第1日 第4室(G-304) 2番目

日本人ESL / EFL学習者の動機付けと学習ストラテジー使用の関係
    佐藤博晴(山形県立米沢女子短期大学)

 筆者は先にESL / EFL学習環境で英語を学習している日本人英語学習者の認知・性格要因(曖昧さに対する耐性、場依存・場独立的認知スタイル)と学習ストラテジー使用(OxfordのSILL)の関係を調査し、学習者が生得的に備えている要因によって、学習環境の違いから受ける恩恵が全く逆のものとなってしまう可能性があることを示した(佐藤 2004)。本研究は、先に使用したデータに新たに英語学習に対する動機付け(久保 1997)に関するデータを加え、ESL / EFLという学習環境の差が日本人英語学習者の動機付けに対してどのような違いを生じさせるのかについて調査したものである。その結果、我が国では充実・訓練志向に比べ自尊・報酬志向の動機付けが僅かながら高くなる傾向が四大・短大いずれにおいても見られたが、ESL環境では統計的有意に英語の学習が楽しいからという充実・訓練志向の動機付け(内的動機付け)が高いことが明らかとなった。またEFL環境においては、将来高い報酬や得るためとかプライドを保つためといった自尊・報酬志向の動機付け(外的動機付け)! が短大に比べ四大で高くなっていた。さらに、ESL環境における動機付けの強さと学習ストラテジーとの関係からは、充実・訓練志向の動機付けが強い学習者ほど効果的に学習ストラテジーを使用していることが明らかとなった。学習者要因との関係からは、曖昧さに対する耐性が強いESL学習者ほど自尊・報酬志向の動機付けが弱いことが分かった。曖昧さに対する耐性の低い人間は一般に権威主義的(プライドや自尊心が強い)であるとされているが、この結果は心理学における人格研究の見地と一致するものとなった。

自由研究発表  第1日 第4室(G-304) 3番目

動機づけが高い生徒はテスト得点も高まるのか?
    橋本秀徳 (福井県松岡中学校講師)

 動機づけの研究が以前から行われてきたことの大きな理由の一つは、動機づけが学習者の英語学力を予測するという仮説によるものである。 そこで、本研究では、動機づけが高い生徒のテスト結果は、後のテスト結果を高めるかどうかを検証した。調査は、広島県のある中学校の全生徒を対象にし、5月のテストと11月のテストを行い、その直後にそれぞれアンケートを行った。 結果は、動機づけが高くてもテスト得点が高まるわけではないことが示唆された。 調査結果の詳細は、発表時に行う。 

自由研究発表  第1日 第4室(G-304) 4番目

「ストラテジー意識化タスク」を用いた学習ストラテジー指導と英語の授業
   大和隆介(京都産業大学)

 実践的コミュニケーション能力と同時に自律的学習能力を育成する手段として、学習ストラテジーの指導を英語の授業において体系的に導入する試みが、近年注目されている。本発表では、「ストラテジー意識化タスク」を取り入れた体系的な言語学習ストラテジー指導の実践とその効果について報告する。
  この「ストラテジー意識化タスク」とは、学習者が自らの学習ストラテジーの使用や他者の学習ストラテジーの使用を(できるだけ)英語で評価し合う言語活動(タスク)である。言語習熟度が未熟な学習者が、このような活動を無理なく楽しみながら遂行できるように、「学習ストラテジー自己診断表」、「学習ストラテジー早見表」、「学習ストラテジー・ワークシート」などの材料を活用する。このような活動が、学習ストラテジーの自律的使用、学習意欲の向上、コミュニケーション能力の向上について、どのような効果をもたらすことができるかについて、授業実践の結果を報告する。
参考文献
1.伊藤崇&大和隆介,(2005),「コミュニケーション活動と文法指導が融合したメタ認知的活動を伴う授業実践とその効果に関する研究」,『岐阜大学教育学部研究報告(教育実践研究)』,第4巻, pp. 199-214
2.岸貴彦、山下敦子&大和隆介, (2005),「ACTFLモデルに基づいた授業実践とその効果に関する研究」,『岐阜大学教育学部研究報告(教育実践研究)』第4巻, pp. 181-198
3.JACET学習ストラテジー研究会, (2006), 『学習ストラテジーハンドブック』, 大修館書店
4.JACET学習ストラテジー研究会, (2005), 『言語学習と学習ストラテジー』, リーベル出版

自由研究発表  第1日 第5室(G-305) 1番目

英語習熟度とprogressive markingの関連
   松井 正(樟蔭高等学校)

 言語習得の初期段階において、学習者のverbal morphemesが示すのは時制や文法相ではなく、当該の動詞に固有のlexical aspectであるとする論考がある。すなわち、the aspect hypothesis(Andersen, 1991; Robison, 1990)である。これは英作文や動詞形選択テストなどにおいて、学習者が文脈とは無関係に、ある一定の性質を共有する動詞グループを特定の形式と結びつけて多用したり、誤用したりする傾向から、英語教師が経験的に認識していることでもある。しかし、EFLの環境下における日本人学習者を対象としたthe aspect hypothesisの検証となると、まだ解明されなければならないことが多く、特に英語習熟度との関連はそのひとつである。
 そこで本研究では、日本の高校新入生67人を上位群(22人)、中位群(23人)、下位群(22人)に分け、Vendler(1967)の分類によるactivity verbs(ACT)を中心にaccomplishment verbs(ACC)を含めたprogressive markingを単純時制との対比において調査し、英語習熟度とthe aspect hypothesisの関連を考察する。調査問題は旧版の中学校検定教科書から、単純現在形、現在進行形、単純過去形、過去進行形の4つの動詞タイプで各6問を作成した。先行研究では、ACTは初級、中級段階では進行形との共起が多く、単純過去時制の領域でも誤答の最多は進行形であり、上級段階でもこの傾向は維持されることが報告されている。この点をふまえ、本発表では、1)英語習熟度と動詞タイプの関連、2)習熟度ごとの解答傾向を調査により明らかにし、その考察をおこなう。

自由研究発表  第1日 第5室(G-305) 2番目

Common Sense Oral Testing Standards
    Quinn Kelly(名古屋工業大学)

 This presentation reports the results of a short research project dealing with the use of oral interviews.  A number of standardized oral interviews exist which attempt to codify language ability around a number of linguistic functions. The research question that this research hoped to answer was whether or not common sense standards of language functions exist without formal codification or training. This research project took a number of samples of oral interview tasks including the use of the past, present, future tenses and a summarizing task.  The samples of these tasks were presented to a number of English teachers none of whom had any formal interview training.  The teachers were asked if they thought the sample represented adequate mastery of the language function in question.  This presentation will present the results of this research project.

自由研究発表  第1日 第5室(G-305) 3番目

The Minimal English Test in High School: A Case of Kamo High School
    牧 秀樹  (岐阜大学)
   森田祐佳(岐阜大学学部学生)
    市原賢優(岐阜県立加茂高等学校)
   古川真哉(岐阜県立加茂高等学校)
   笠井千勢(岐阜大学)
   後藤健一(岐阜大学学部学生)

 Maki et al (2003) developed a simple English test which they call the Minimal English Test (MET). The MET requires the test taker to fill a correct English word into blank spaces of the given sentences, while listening to the CD. They found a relatively high correlation between the scores on the MET and the scores on the University Entrance Examination (English Part) 2002 administered by the University Entrance Examination Center (r = .68, n = 154) (CT 2002). Further, Maki et al (2004) found a strong correlation between the scores on the MET and the scores on the CT 2003 (r = .72, and n = 629).
 In these two surveys, they provided a correlation analysis to the scores on the CT, which the subjects took in January of each year when they were high school students, and the scores on the MET, which the same subjects took between April and July of each year after they became university students. Therefore, there was at least a three-month time span between the time when the CT was administered and the time when the MET was administered.
 The purpose of this study is to investigate whether there is a statistically significant correlation between the scores on the MET and the scores on a test different from the CT, but similar to it in its components, while circumventing the time span problem mentioned above. For this purpose, we employed the Shinken-Examination (SE) 2005, and administered the MET to high school students who had taken the SE 2005 within three weeks after it was administered. 11th graders of Kamo High School in Gifu Prefecture participated in this project. Through this survey, we found a relatively high correlation between the scores on the MET and the scores on the SE 2005 (r = .63, n = 135). This indicates that the MET could predict not only one’s score on the CT, but also one’s score on the SE, to a certain degree. Thus, the MET is considered to be able to make significant contributions to English education even at the high school level.

自由研究発表  第1日 第5室(G-305) 4番目

Exploring the Relationship between English for General Academic Purposes (EGAP) and English for Specific Academic Purposes (ESAP): Research Article Introductions in Economics
   マスワナ 紗矢子(京都大学大学院生)

  What English instruction should be provided at the tertiary level? The present study attempts to answer this question in a framework for English education described by Tajino (2004), using Swales’s (1990) CARS model. There have been increasing efforts in English for Specific Purposes (ESP) programs at the undergraduate and graduate levels to seek common language characteristics inherent to all disciplines, as well as subject-specific English from a genre-analysis perspective. In other words, English for General Academic Purposes (EGAP) and English for Specific Academic Purposes (ESAP) are expected to be taught in productive collaboration. However, studies on the relationship between EGAP and ESAP remain very limited. Understanding the relationship might promote effective instruction for university students who are about to enter professional studies. This study analyzed 30 economics research article introductions from three sub-disciplines as a case study. The basic elements and logic of the CARS model were found in all articles, while some variation was also identified across the sub-disciplines. The results imply that there are common features which could be located within EGAP; sub-disciplinary variation could be located in a range between EGAP and ESAP, suggesting an organic linkage of EGAP and ESAP. The findings may have some pedagogical implications for tertiary-level English instruction.
References
Swales, J. M. (1990). Genre analysis: English in academic and research settings. Cambridge: CambridgeUniversity Press.
Tajino, A. (2004) Nihon ni okeru eigo-kyoiku no mokuteki to mokuhyo ni tsuite. [Objectives and goals of English education in Japan]. MM NEWS, Vol. 7. pp.11-21.

自由研究発表  第1日 第6室(G-306) 1番目

大学生に授業あるいは英語活動の目標を明確に示すためのアクション・リサーチ
    三上由香 (三重大学非常勤講師)

 本研究では、大学の英語授業において、授業あるいは英語活動の目標を学生に明確に示すことによって、学生の授業に対する満足感・達成感をいかに高めることができるかを調査する。発表者は、大学における英語授業「英語Iコミュニケーション」において、平成17年10月から12月まで同上のテーマでアクション・リサーチを行い、授業あるいは英語活動の目標を学生に明確に示すことで、学生がその目標を意識して授業に取り組むことができ、授業に対する満足感・達成感を高めることができるという結果を得た。また、その目標と照らし合わせて、学生は自分の到達 度を把握することができるようになることも確認された。しかし、その効果の検証結果から、授業あるいは英語活動の目標提示に更なる改良の余地が残されていることがわかった。つまり、より具体的な目標を示すことによって、授業あるいは各活動の目標に対する学生の理解を促進させ、学生の満足感・達成感をさらに高めることができると考えた。同時に、自己評価における基準をより明確に示すことにつなげることができるとも考えた。そこで、同授業において、平成17年12月から平成18年1月まで、新仮説を設定してアクション・リサーチを再度試みた。本発表では、主に、新仮説に基づいて行ったリサーチの経過と結果を報告し、授業あるいは英語活動の目標を明確に示すための最も適した方法を探し出すとともに、その可能性について考察を行う。

自由研究発表  第1日 第6室(G-306) 2番目

アクション・リサーチ教員研修のあり方
    三上明洋 (近畿大学)

 発表者は、平成15年度より3年間に渡り、文部科学省科学研究費の助成を得て、アクション・リサーチ実践者育成のためのオンライン英語教員研修実施システムの開発を試み、英語教員による円滑なアクション・リサーチの実践を目指して、自主的に参加を希望する教員を対象に必要な研修・支援を行ってきた。その主な目的は、アクション・リサーチの円滑な実践を可能にするために、(1) インター ネットを活用したアクション・リサーチの実践者(teacher-researcher)育成のための英語教員研修プログラムとその実施サポート・システムを開発すること、(2) 研修プログラムの参加教員に対する効果を検 証すること、(3) 各参加教員によるアクション・リサーチ実践研究経過と結果のまとめをデータベース化し、ウェッブ上で広く他の英語教員に公開することの3つである。しかし、研究開始初年度(平成15年度)の取り組みから、多忙を極める現場の英語教員にとって、アクション・リサーチの実践は予想以上に困難であることが明らかとなった。そのため、アンケート調査に基づいて、アクション・リサーチを困難にしている要因を探り、その結果を踏まえた平成17年度版教員研修実施システムを構築した。本発表では、平成17年度版教員研修実施システムについて、その活用例とともに紹介をし、アクション・リサーチ教員研修のあり方について考え、同システムにおける今後の課題についても明らかにしたい。

自由研究発表  第1日 第6室(G-306) 3番目

メンタルヘルスの悪化が英語科教師のやる気に与える影響(1)
    森 一生(福井県立丹南高等学校)

 過去7年連続で全国の自殺者は3万人を越え、その多くが心の問題、特にうつ病であったと言われている。また、全国で病気休職する教員の数が年々増加し、その中で精神疾患によるものがここ3年50%を越えている。北陸3県でみると、福井県の教員が精神性疾患で休職に追い込まれている率・実数共に高い。福井県の教員は心を病んでいる。
 本論の目的は、1)長時間の超過勤務や多忙感がメンタルヘルスに悪影響を及ぼしているのではないか、2)福井県の中学校・高等学校の英語科教員がどの程度うつ状態やバーンアウトに陥っているのか、3)英語教師のメンタルヘルスの悪化が教師のやる気にどのような影響を及ぼしているのか、以上3点をアンケート調査することである。


自由研究発表  第1日 第6室(G-306) 4番目

A possible proposal for effective in-service teacher education programmes - from teacher training to teacher education
    吉川実樹(愛知県立昭和高等学校)

 The aim of this presentation is to put forward key principles of effective in-service teacher training programmes.  Various kinds of teacher training programmes have been conducted by both public organizations and private institutions.  In those programmes participants (in-service teachers) are inspired with new input such as new teaching methods, new kinds of materials and so on.  At the same time, however, many of participants seem to think that those new methods and materials cannot be used at their own teaching contexts because of many constraints.  Some may say, “Well, task-based approach is interesting, but we don’t have enough time to do these activities…”  Others may feel discouraged, saying “I’d like to try out this new activity, but my students’ level is not that high.” 
   In order to encourage all participants to implement new teaching methods and materials irrespective of their teaching contexts, training programmes need to be designed in a careful manner.  In this presentation, I would like to argue both theoretical notions and practical methods of effective in-service teacher training programmes.  Based on Kant’s theory, I especially focus on the importance of utilizing teachers’ existing belief and knowledge to foster in-service teachers’ professional development.


英語教育研究法セミナー
    コーディネーター 浦野 研 (北海学園大学)

 本セミナーは、英語教育に関する研究をこれから始めようとする方や、既に研究を行っているものの、課題設定の仕方や研究手法等に自信の持てない方を主な対象に、研究を行う上で注意すべき点や取るべき手段など、特に研究方法に焦点を当てて提案、議論することを目的とする。また、既に英語教育研究を数多く行ってこられた方々にもぜひご参加いただき、活発な意見交換、質疑応答を期待したい。セミナー1および2Aは昨年度山梨大会のセミナーと基本的に同内容の発表を、セミナー2Bは和歌山大会のために新たに用意した発表を行う。発表内容および発表順は次の通り:
セミナー1: 24日(土)11:00-12:00
 (セミナー1は昨年度山梨大会のものと基本的に同内容)
 (1)「よい研究」の条件と種類 (浦野 研)
 (2)研究論文の書き方・まとめ方 (田中武夫)
セミナー2: 25日(日)12:15-13:15
 (セミナー2は2会場で同時進行。2Aは昨年度と基本的に同内容で、2Bは新しい内容。)

セミナー2A
(1)実験研究をすすめるときに (酒井英樹)
(2)調査研究をすすめるときに (本田勝久)

セミナー2B
(1)p値の意味すること、しないこと (浦野 研)
(2)実例に見る、実証研究を行う上での注意点 (浦野 研)

セミナー1: G-205室
  研究法、データ分析法、論文を書く際の注意点
   コーディネーター:浦野 研(北海学園大学)
         提案者:浦野 研(北海学園大学)
              田中武夫(山梨大学)
              酒井英樹(信州大学)
              本田勝久(大阪教育大学)

提案者1
 「よい研究」の条件と種類
     浦野 研(北海学園大学)

 英語教育に関わる研究を行うとき、まずはその研究を何のために行うのかを明確にする必要がある。その上で、その目的を達成するために適切な研究課題を設定し、さらにその課題に対して適切な研究手法を選択、決定することが重要である。本発表では、特に実証研究(何らかのデータ・情報を集めることによって研究課題に対して答えを導き出す研究)を中心に取り上げ、英語教育研究の文脈における「よい研究」の条件について具体例を交えながら提案する。同時に、研究の種類として考えられる主な手法を紹介し、研究立案の段階で研究課題にふさわしい研究手法の選び方についても議論したい。

提案者2
 研究論文の書き方・まとめ方
     田中武夫(山梨大学)

 どのような研究であれ、最終的には研究論文の形にまとめることになる。この論文作成は、研究プロセスの最終段階とも言え、内容が優れた研究であっても最終段階の論文作成がまずければ良い研究にはならない。本発表では、英語教育に関する研究論文をどのようにまとめればよいのか、どのように研究論文を書くべきなのか基本的な事柄についてポイントを提示する。具体的には、(1) 研究論文によくあるケースにはどのようなものがあるのか、(2) 良い研究論文の規準とはどのようなものか、(3) 良い研究論文の構成とはどのようなものか、(4) 読者にとって読みやすい論文をどのようにして書けばよいのか、について、これまでの個人の経験や大学院等での指導経験をもとに、自分の反省をも含めて提示することにする。


セミナー2A: G-201室
  実験研究をすすめるときに・調査研究をすすめるときに

提案者1
 実験研究をすすめるときに
     酒井英樹(信州大学)

 実験研究を進めていくときに留意すべき点を、(1) 研究課題の設定、(2) 研究方法の決定、(3)データの処理、に関して提示する。具体的には次のような疑問が生じたときに、指針を得られるようにしたい。リスニングを研究してみたいが、テーマがなかなか絞れない、どうしたらよいか。先行研究を検索するためにはどんな方法があるのか。十分な先行研究が必要だと言われるけど、どんな先行研究が必要か。タスクについて研究しよう、でもタスクって何だろう、定義を押さえるためにはどうしたらよいか。論文を読むときに配慮すべき点はあるか。実験計画をたてるときにどんなことに注意したらよいのだろうか。統計処理を意識して計画しなさいといわれるけど、どう意識すればよいか。予備実験って何のためにやるのか。統計処理を行うときの注意点は何か。統計に関して、わかりやすい参考書はないか。これら、すべての疑問に、的確に答えを示せるわけではないが、自分の経験や大学院等での指導経験をもとに、参考となる情報を参加者と共有したい。

提案者2
 調査研究をすすめるときに
     本田勝久(大阪教育大学)

 2002年4月の文部科学省初等中等局長通知『指導要録の改善』では、評価方法に関する改善が強く求められ、これまでのペーパーテストによる評価に偏ることのないよう、観察法や面接法、質問紙法や学習者の学習記録などの様々な手段の利用が提言されている。本発表では、これらの手段によって得られた資料を分析するための調査研究 (survey) を取り上げる。実験研究と同様に、調査研究を進める上での留意点を (1) 研究課題の設定、(2) 研究方法の決定、(3) データ処理に関してそれぞれ提示していく。データ処理については、相関研究 (correlational study) と質的研究 (qualitative study) によるカテゴリカルデータ分析を中心に論を展開していく。 本年度は、昨年度の分析手法(χ2検定とウイルコクスンの順位和検定)とは異なった検定を取り上げる予定である。また、本発表で扱う調査研究とは、主に以下の2種類を意味するものとする。
1) 観察によるもの→「見ること」により学習者を理解しようとするもの
観察法: 学習者の行動を観察・記録・分析し、行動の質的・量的特徴や行動の法則性を解明すること
2) 言語を媒介とするもの→「聞くこと」により学習者を理解しようとするもの
質問紙法&面接法:行動そのものよりも学習者の感情や価値観・動機など、心の内面を理解すること
  しかしながら、たとえデータ処理が優れていても「知りたいことが調べられなかったり」「無理な調査を行ったり」ということにならないために、できるだけ教室環境を考慮したリサーチ・デザインを取り上げたいと思っている。学習者をより多面的に理解し、これまで軽視されがちであった学習者の個人差を的確に把握するための調査研究になるように、参加者の方々とともに論議していきたい。


セミナー2B: G-301室
  p値の意味すること、しないこと・実例に見る、実証研究を行う上での注意点

提案者1
 p値の意味すること、しないこと
     浦野 研(北海学園大学)

 実証研究のうち、何らかの数値をデータとして扱ういわゆる量的研究では、英語教育に関わる研究論文や学会発表においても、「p < .05」や「有意差が見られた」といった表現がよく使われる。また、研究を行う側も読む(聴く)側も、統計処理の過程を見ずにp値のみを確認し、それに基づいて結果の解釈・議論・批評を行うことが多い。ところが、実際の研究には被験者数 (sample size) が極端に少ないものや多いものがあり、p値だけを見て研究結果の解釈を行うことには問題がある。そこで本発表では、統計手法の中でも比較的イメージしやすいt検定と相関を用い、p値がどのように導き出され、それが何を意味して、何を意味しないのかを解説したい。主にp値と被験者数の関係に注目し、効果量 (effect size) や検定力 (power) といった概念を紹介しながら、被験者数が特に少ない(多い)ときの結果解釈における注意点や、先行研究の結果を比較・分析する方法(メタ分析)も紹介する。

提案者2
 実例に見る、実証研究を行う上での注意点
     浦野 研(北海学園大学)

 本発表では、英語教育研究法セミナーでの他の発表内容を踏まえて、実証研究を行う上での注意点を具体例とともに検討・議論する。過去に発表された研究論文の実例を見ながら、研究を計画する段階で気をつけるべき点や研究中に犯しやすい間違い等を紹介することで、ある研究課題に対してどのような研究手法やデータ分析方法が利用可能か、そしてそのうちどれが最もふさわしいのかを議論する。これによって、研究法セミナーの内容をより実践的なものとして理解することを目標としたい。


シンポジウム        G-103室
 アジアの英語教育最前線から日本の英語教育を見る

    司会者: 渡邉時夫(清泉女学院大学)
          江利川春雄(和歌山大学)
   パネリスト:大泰泰照(大阪大学名誉教授・滋賀県立大学名誉教授)
          相川真佐夫(京都外国語短期大学)
          橋内 武(桃山学院大学)

司会者:渡邉時夫 ・江利川春雄
 現在わが国では、韓国、中国、台湾などアジア諸国の英語教育が注目されている。
 小学校からの教科としての英語教育の導入、教員研修、教材開発、英語スペシャリスト養成校の開設、英語留学の奨励、「英語村」の建設など、わが国にとって、参考になりそうな改革が進められている。しかし、一方、過熱する英語ブームによる子どもへの重圧と学力格差の拡大、教育費の高騰などによる少子化の加速など、課題もありそうである。
 わが国でも、小学校英語の必修化の実現性が高まり、これに伴って小中や中高の連繋のあり方の見直しの必要性、実質的なコミュニケーション能力育成の方法や学力の目標、教員養成や教員研修のあり方など、アジア諸国から学ぶべき点が少なくない。
 そこで本シンポジウムでは、この分野の第一人者である3名の先生方をお招きし、アジア英語教育最前線の現状と諸問題をご報告いただくと同時に、同じアジアに属する日本の英語教育を総覧し、わが国の英語教育改善のためのご意見をご発表いただくことにした。単に、アジア諸国の実情を拝聴するのではなく、分析結果をわが国の英語教育改善にどう活かすかに重点を置いて討論を進めたい。3名のご発表を基に、フロアからも積極的なご意見・ご質問をいただきながら、日本の英語教育の未来を共に考えていきたい。

韓国の異言語教育を調べると、何が見えてくるか
   大谷泰照

 1.日本人の対外姿勢の変容をどう考えるか
    ・近・現代の歴史的視点から
 2.韓国の異言語教育はどれほど先進的か
    ・外形と内容の視点から
 3.21世紀の異言語教育のあり方をどう考えるか
    ・AU (Asian Union) とEUの視点から

台湾の英語教育:日本の英語教育に資する点
   相川真佐夫

 台湾は日本と同じように、英語は外国語であり、学校教育で学ぶ科目のひとつである。近年、英語教育熱が非常に高く、その勢いはすさまじいものである。本シンポジウムでは、台湾における英語教育の現状と課題を紹介する。とくに、小学校における英語教育、小学校での英語が導入された後の中学校の様子、さらに高等学校における英語教育、という3つの学校種の現状をみる。そうすることで、日本の英語教育に資する点を考察しようと試みる。

EFLとESLの間で
    橋内 武

 近年アジアのEFLの国と地域(タイ、韓国、中国、台湾)で小学校から英語を正規の学校教育プログラムに導入する動きが認められる。それは、グローバリズム、経済の発展、情報化(インターネットの普及など)によるものであろう。その結果英語力による階層格差(English divide)が生じつつあるようにも見える。
 一方で、ESLの国々(シンガポール、マレーシア、フィリピンなど)では、英語と英語以外の言語(国語と民族語)との葛藤が存在する。にもかかわらず、EFL諸国台湾(特に台北市)と韓国はESL社会をモデルに英語学習を強化しようとする傾向が窺える。例えば、韓国では小学生の英語留学や公設英語村の建設と運営で代表されるように、英語学習が過熱状態にある。
 そのような流れの中で、日本の英語教育政策は特に小学校への英語導入も巡って慎重派と賛成派が対立し、その政策は両者の間の妥協により中途半端なもとこころに収まる気配である。だが、義務教育の中で、研究開発校や英語特区がそれ以外の学区と並存しているのは、教育の機会均等という点で問題はないか。他方、後期中等教育では、韓国に設置されているように外国語高等学校を設け、英語科や中国語科を作る計画があってもよいのではないか。
 第2英語公用語論はESLモデルであったが、では、英語外国語案は何なのか。もはや旧来の外国語としての英語では間に合わないのならば、何か求められているのか。英語国際語教育論なのか。国の外国語教育政策はもっと明示的であるべきではないか。アジア諸国への視察を踏まえながら、現代日本の英語教育について考察してみたい。


第2日目 6月25日(日)

自由研究発表  第2日 第1室(G-205) 1番目

教科書のコンテクストを用いたリスニング練習
   岩本藤男(静岡県焼津市立大富中学校)

 平成18年度、大学入試センターが主催するセンター試験にリスニングテストが取り入れられ、リスニング指導の在り方が改めて問われるようになった。今まで以上にリスニング指導に関心が寄せられ、入門期から計画的に、継続的に練習を積み重ねて行くことの必要性にいっそう迫られることになった。コミュニケーション能力の基礎となるリスニング能力を身につけさせる指導については、それぞれの到達目標、授業の中の指導場面の位置付け、使用する教材、指導方法など、学習者の実態を考慮しながら考えていかなければならない要素が多い。本発表では、中学3年生に対して、リスニングの基礎力を身につけさせようと実践した教科書のコンテクストを用いたリスニング指導の実践報告をする。リスニング指導には、様々な教材が開発されているが、生徒にとって最も身近であり、学習のよりどころとなる教科書を使ってリスニング指導をしたいと考えた。リスニング指導に教科書のコンテクストを用いることに対しては、賛否両論あるが、実際にはどの程度リスニング能力の育成に有効に作用し、またどのような要素が足りないのかということも含めて、実践結果を検討したい。

自由研究発表  第2日 第1室(G-205) 2番目

異なった発話速度による提示が日本人中学生のリスニング・コンプリヘンションに与える効果
   伊藤 久(上越教育大学大学院生)

 本研究の目的は、異なった発話速度による提示が日本人中学生のリスニング・コンプリヘンションを高める効果があるかを検証することである。第二言語学習者や教師にとっては、発話速度が遅ければ非母語話者のリスニング理解を促進するという一般常識的な認識が存在している。これまでのL2における発話速度の研究では、Griffiths (1992), Kelch (1985), 富田 (1995)などその認識を支持する結果が多い。こうした研究では、被験者に1種類の速度を提示してその際の理解度を調査しているが、本研究では、これまでほとんど扱われることのなかった、被験者に2種類の速度を連続して提示した場合の理解度を調査する。これは、英語を聞く際に、初めに元々の速度より相対的に速い速度で聞き、次に元々の速度で聞き直すと実際よりもゆっくり感じられることから、この現象と聴解度との関係を検証しようとするものである。これまでの先行研究から、被験者が速度を「遅い」と感じた場合に聴解度が高まる可能性があることなどから、一定の効果が期待できるものと考えられる。本研究は、効果的なリスニング指導への示唆を得るという位置づけで捉えており、今後の研究の方向性も示したい。

自由研究発表  第2日 第1室(G-205) 3番目

英語発音指導の要点とその波及効果について
    荻原 洋(富山大学)

 英語の発音指導については「通じればよい」という考え方からきちんとなされないことが多い。またしたくても、内容が多すぎて普段の授業ではとても扱えないとか、指導の仕方が分からない、ということもある。今回の発表では、制約された授業時間内である程度の効果が期待できる発音指導の方法について提案してみたい。特に、指導のポイントを絞り、それをどのような手順で生徒に練習させるとどのような波及効果があるかということを実践例から紹介し、それが理論的な裏付けを得られるかどうかについても考察してみたい。

自由研究発表  第2日 第1室(G-205) 4番目

対話を継続させる活動―Bakhtinの論を用いたwritingによる”Dual Corresponding Activity”への取り組み
   松井孝彦(愛知教育大学附属名古屋中学校)

 英語を学び始めたばかりの学習者に対する,英語での会話練習の方法として、Skitを作成させることがある。中学1年生である生徒も、Skitの内容を上手に作成することはできる。しかし、実際にALTや友達と英語で会話をすると,話題を切り出すことはできるが,その話題に対して、どのように継続すればよいか戸惑っている。
 これは,現実の言語使用場面で見られるような対話を,英語を用いて体験させていないことが原因であると考える。確かにSkitは,設定された文脈上に登場する数人の対話から成り立っている。しかし,その対話は,作者によってあらかじめ予想された対話の流れをとらせることが可能であるが,現実の言語使用場面に目を向けて考えるとそうはいかない。この点が,Skitの中での対話と現実の言語使用場面での対話との違いである。
 本実践報告では,中学1年生を対象に,現実の言語使用場面で見られる特徴をもつ対話を体験させる活動を行い,その活動が対話を継続させる方法を学ばせる一手段となりうるかどうか,その可能性を検証する。
 具体的には,現実の言語使用場面を分析し,その言語使用の特徴を,Bakhtinが用いる"Voice"(「声」)と"Addressivity"(「宛名性」)及び、菅原(1998)の「反復」という三つの現象からつかんでいく。その言語使用の特徴をもった対話活動として,「手紙の交換」の形態をとったWriting Communicationを基盤に,"Voice"と"Addressivity"の観点から工夫を加えた"Dual Co-responding Activity" という活動をデザインする。そして,生徒が先に示した現象を起こしながら,対話を継続させることができているかどうかを分析する。
 また,Bakhtinの用いるappropriationという観点からも,"Dual Co-responding Activity"のもつ可能性も提言していく。

自由研究発表  第2日 第2室(G-206) 1番目

会話場面指導のあり方について
    石渡雅之(名古屋短期大学)

 新学習指導要領に基づく教科書編集は、学習者同士のスピーキング活動がしやすいような会話場面が多く出たものとなった。この流れは、本年度より採用されている改訂版でも同じであった。本発表においては、教科書内にある会話場面を利用し、学習者にスピーキング指導を行う際に何を考えなければならないのか、という点について語用論の種種の理論に基づき述べていきたいと考えている。
具体的には、Politeness・Face・Mitigating device・Speech styleなどについての語用論理論を用いながら、教科書内に登場する会話場面を分析し、実際の指導上の留意点を考えていきたいと考えている。 

自由研究発表  第2日 第2室(G-206) 2番目

The Benefits of Teaching Language Learning Awareness to College Freshmen
    Jarrell Douglas(名古屋女子大学)

  Many students enter university with simplistic ideas about foreign language learning. They believe that the only way to learn a language is to live abroad for a long period of time (in spite of evidence to the contrary: the large number of proficient English users among their high school and junior high school teachers who have learned the language in Japan). Others do not see the benefit of using English as a means of communication in the classroom, believing that mistakes, like the avian flu, are somehow fatally contagious. The presenter will discuss how these ideas, if left undisturbed, can discourage and demotivate language learners (Dornyei 2001, Barker 2004).
  This presentation describes an introductory freshman course designed to draw out unspoken beliefs about language learning and to make learners reflect on their reasons for studying a foreign language. Examples from students’ journals will be presented to show developments in their awareness of their own language learning processes. The presenter contends that greater awareness leads to greater autonomy among the students and better prepares them to make the long-term investment that is necessary if they are to succeed in foreign language learning.


自由研究発表  第2日 第2室(G-206) 3番目

日本人高校生による英語母語話者との電話スピーキングタスクの達成度判断とその基準
    井上千尋(東京外国語大学大学院生/ARCLE客員研究員)
    三原伸剛(開智高等学校)

 日本人高校生23人による、「旅行で行くステイ先のホストマザー(またはファザー)に初めて電話をかけ、必要な情報のやりとりをする」というタスクにおける発話を録音し、4人の英語母語話者に「通じるかどうか」「通じているなら、どのくらいうまく通じているか」を印象的に評価してもらった。このデータと、実際の発話の分析を通して、「どんな表現だと通じる/通じないのか」、「通じている中でも、どんなインタラクションが出来ている人が『よりうまく通じている』とされるのか」を調べた。

自由研究発表  第2日 第2室(G-206) 4番目

“communication strategies”と“teacher talk”
    滝沢 謙三(白鴎大学)

 「英語が使える日本人」の育成のための行動計画(文部科学省,2003)を促進するに当たり、英語の授業において英語をコミュニケーションの手段として使用する活動を多く取り入れる工夫が必要である。英語の授業で英語を用いて授業を行い、生徒が英語でコミュニケーションを行う機会を提供することが求められている。
  具体的に、教師はどのような“teacher talk”で生徒に話しかけ、どのように生徒の英語によるコミュニケーション活動を引き出すのか。ここで教師の側にも生徒の側にも“communication strategies”が求められる。本研究発表は、“communication strategies”と“teacher talk” に焦点を当て、コミュニケーション能力育成のプロセスを探る。
  教師は、生徒が理解できるように“communication strategies”を使って“teacher talk”を行い、学習者に多くを問いかける。学習者は、不十分な文法力・語彙力を“communication strategies”で補い、コミュニケーションを成立させようとする。
発表の内容
1.“communication strategies”の定義
2.“teacher talk”に取り入れる“communication strategies”
3.生徒が使う“communication strategies”
4.“teacher talk”のコミュニケーション能力育成に果たす役割
5.英語コミュニケーション活動を引き起こすteacher talkは?
6.学習者の英語コミュニケーション活動を妨げる要因は?
7.いかに“teacher talk”から学習者のアウトプットを引き出すか、ひとつの仮説。

自由研究発表  第2日 第3室(G-207) 1番目

小学校英語活動の評価―ポートフォリオの活用を考える―
    東 悦子(和歌山大学)

 中央教育審議会の外国語専門部会は、小学校5年生から週1時間程度の英語を必修化する必要があるという提言をまとめた。小学校の英語教員養成、カリキュラム作成、実際の指導方法など、多くの課題への取り組みがなされつつ、多くの公立小学校で英語活動が実施されているが、今後「英語活動」から「教科としての英語」へと向かうのだろうか。そうであるならば、これまでの課題にもう1つ「評価」という重要な課題が加わることになろう。
本発表では、これまであまり取り上げられることのなかった評価についての一提案を行う。総合的な学習の中で、他教科においては、すでに活用されている評価方法の1つにポートフォリオが挙げられる。教科としての英語のみでなく、英語活動においても、ポートフォリオの活用を提案し、教師による評価、学習者の自己評価等の具体的方法例を示したい。さらに、1)学習者個々の英語学習の成果の足跡を示す、2)学校全体の英語活動の取り組みを振り返り、その成果を示す、3)小学校から中学校への連携を円滑に進めるためのデータとなる、以上の3つの観点から評価を実施し蓄積してゆく意義を考える。

自由研究発表  第2日 第3室(G-207) 2番目

小学校英語教育に対する現場の声
   小川一美 (清風高校-非常勤講師)

 平成12年度の学習指導要領移行措置に伴い、公立小学校においても英語活動を実施することが可能となった。この決定に伴い、文部科学省は平成13年より、毎年400~500名の指導主事ならびに小学校において指導的な立場にある教員を対象に、小学校英語活動支援のための研修を行っている。さらに、都道府県・政令指定都市、市町村においても研修が実施されるようになった。しかしながら、研修(対象人数×実施年数)、ならびに平成18年3月27日文部科学省より報告された『小学校英語活動実施状況調査結果概要(平成17年度)』の英語活動の実施率(93.6%)を考えた場合、活動に従事している小学校教員のほとんどは、護送船なしに英語活動を行っていることは明白である。
  小学校英語教育について考えるとき、目的やカリキュラム、開始学年、目標など考えなければならないことは多々あるが、やはり一番の大きな問題は指導者である。目標にそって児童に英語を教えることができるのは、小学校(英語)教員以外に存在しえない。しかし、先述したようにほとんどが研修経験なしに英語活動に従事しているのが現状である。そこで、本研究の目的を以下の二点とする。
1) 小学校教員はどのような状況下において英語活動に従事しているのかを明らかにする。
2) 必修化される際に伴う懸案事項を、学級担任の立場から明らかにする。
文部科学省は平成18年3月37日に、英語活動の実施率と国際社会における英語が果たす役割の重要さを踏まえ、高学年(5~6年)を対象に行う週一回の英語を共通の教育内容にする検討の意思があることを表明した。ここで、上記の現況を踏まえ一つの結論が導かれたが、実際のところ「表面的な数字」を考慮したに過ぎない。本研究は「表面的な数字」に「現場の声」という付加価値をつけ、小学校英語教育の必修化に伴う問題を今一度確認するための材料となるであろう。


自由研究発表  第2日 第3室(G-207) 3番目

発達段階に応じた小学校英語活動での効果的な歌
    手嶋浩之(兵庫教育大学大学院生)

 小学校高学年からの週1時間の必修化に向け、小学校英語活動はカリキュラムの早急な整備が必要となってきている。2005年度の英語活動における特区と研究開発学校でのアンケート調査によると、特に頻繁に使用されている活動内容が「歌」であった。
 このことから、本研究では、小学校英語活動で使用されている歌について、教材研究と、現状の導入方法と指導内容、また、学習者の意欲、態度等の問題点などについて論じる。 研究手段としては、(1)研究開発校で実施されたシラバスを活用して、歌の教材研究を行ない、(2)児童の発達心理学や言語習得論の知見から、英語の発話に対して効果的な歌の学習が可能である特徴を各発達段階に応じて分析する。(3)その結果をもとにして、小学校英語活動において、学年を考慮した適切な歌をテーマ別に提示する。
 研究過程としては、はじめに、それぞれのシラバスから歌だけを抽出してリスト化し、低学年、中学年、高学年と各発達段階別の歌シラバスを作成する。次に、それぞれのレベルで、リズム、メロディーが歌いやすい、日本に親しまれている歌、語彙やセンテンス、コミュニケーションとして替え歌ができる、TPR、繰り返しがあり覚えやすい、歌詞内容が具体的か抽象的であるかなどの観点から、学年と経験年数を考慮して、使用されている英語の歌の特徴を分析する。さらに、それを踏まえて各学年に効果的な歌とは何かという疑問に対する以下の3つの仮説を検証する。
仮説①単にリズムなどを伴った具体的なフレーズを含む歌が、低学年に効果的である。
仮説②抽象的な表現、フレーズを含む歌が、中学年に効果的である。
仮説③精神的に刺激する歌詞内容を含む歌が、高学年で効果的である。

自由研究発表  第2日 第3室(G-207) 4番目

自立的学習を可能にする近未来の教科書編集-体育科・数学科の視点を入れて
    岩本昌明 (富山県立海洋高等学校)

 日本の英語の教科書は今のままで良いのだろうか。題材は不易なものは別としても、めまぐるしく変化する現実の状態に間に合っているのだろうか。教科書の編纂には文部科学省の様々な制約があるのは分かる。しかし、一体使用者である生徒の立場になって構成されているのであろうか。教科書で自立的な英語の学習者の観点で構成されていると言えるであろうか。また、学習方法を獲得できるような内容になっているのであろうか。特に低位の学習者には、本当に不親切な代物でしかない状態である。英語は実技教科の面が昨今強調されてきている。家庭で自宅で4技能を獲得できるような手だてが、どの程度教科書の中で扱われてきたであろうか。
 体育科や数学科の教科書または参考図書と英語の教科書との違いや相違点などを比較することによって、英語の教科書の「常識」「非常識」を問い直し、低位の学習者本意の近未来の教科書を探ってみたい。

自由研究発表  第2日 第3室(G-207) 5番目

Global Issues in Junior High School English Textbooks
    山田晴美 (仁愛大学)

    The junior high school English textbooks from six publishers have been revised and re-published this year. This presentation looks at how global issues are treated in the 18 revised textbooks and offers suggestions for their classroom use. The research questions here are: (1) What kind of global issues do the textbooks raise? (2) How are these global issues treated in the textbooks? (3) What can we conclude from comparing how global issues are treated in different course books? (4) What suggestions can we make to promote both global awareness and language acquisition through the actual classroom use of these textbooks?
   There are both pedagogical and linguistic reasons for using global issues in language teaching. By dealing with global issues, we aim to help students grow up as world citizens who understand and willingly assume social responsibilities. Secondly, as psycholinguistic researches show, language acquisition is promoted by using language in real-life communicative situations. Global issues provide students with problems to think about, to discuss with their peers or to make decisions in real-life situations using the target language. Thus global issues can promote language acquisition, if used skillfully.
   Our analysis of the 18 textbooks reveals that, although the number of global issue topics raised generally increases from the first to the third year, the degree of "global issue content" varies from publisher to publisher. Since junior high school students are in the process of adapting from their immature inner world to a more mature outer world, it can be difficult for them to relate global issues to their daily life. The limited English capabilities of many junior high school students can further increase the challenge of using global issues for language activities in the classroom. Many of the junior high school textbooks reviewed here feature only display questions on the global issues they raise. In this case, teachers need to think about what can be done in actual classroom situations to use the materials as real-life issues to be thought about and discussed in the target language. Suggestions are made as to how this might be accomplished.

自由研究発表  第2日 第4室(G-304) 1番目

Storytelling in junior high school in Venezuela
    Mendez Edgardo(三重大学教員研修留学生)

  The main aim of this presentation is to give teachers a different approach to literature. Stories based on personal matters or imaginative lives are means to arise interest in people’s own values and personal history. The stories told from many experiences of the people who lived them help to enhance students’ comprehension of the times and ways they lived their own lives. Listening to stories nurture our capacity of making space to new and diverse knowledge, as well as of opening our senses through the heart and imagination. Students learning English as a foreign language can listen to stories told by their own English teachers. Moreover, our students can play with their imagination and connect the new vocabulary and grammar with the images offered in the tradition of foreign folklore or even of their own culture.
  Telling stories is neither an easy task nor an impossible one. However, teachers can learn new forms of making their audiences more interested in reading literature by using storytelling as a powerful tool. Today’s presentation will give you some ideas and suggestions on how to use and teach storytelling using the information collected by the presenter and also his own experience in the classroom with his junior high school students in Venezuela.

自由研究発表  第2日 第4室(G-304) 2番目

速読技術を利用した物語教材の「リーディング」授業実践報告
   安達理恵(名古屋外国語大学-非常勤)

 大学のリーディング授業において、多読か精読のどちらに主点を置くかは、意見の分かれるところである。文法訳読方式が重視された従来の英語教育では、教養を高め、また将来、専門書を読めるようにするための精読が中心であった。生徒に予習をさせ、授業で訳を確認するスタイルである。しかし、最近はKrashenらが提唱するような英語のリーディング力獲得にはインプット量が重要とする考えなどもあり、専ら多読を中心とするリーディング授業を実践しているところも多い。また、教材として、どのようなものを選ぶべきかについても重要な課題となる。生徒の社会性・視野を広げる意味でも、教師の専門とする分野から選ぶべきか、それとも生徒の興味・関心に合わせて選ぶべきか、悩むところである。筆者は、現在、読み方としては、多読と精読の両方を行ない、教材については、実用的と思われるものや生徒の関心のありそうなものと、教師の専門とする分野(異文化理解・日本における異文化受容)の両方を併せて使用している。今回は、生徒に比較的関心の高そうな教材として、日本語版の出版も間近いハリーポッタ-を使った、物語の速読の授業実践の試みについて報告する。速読の技術にはいくつかあるが、今回はScanningを使い、物語の中心的な部分を読み込めるような質問を用意することで、筋を追えるような工夫をした。さらに、今後のより良いリーディング教材選定の参考にするため、授業後に生徒に対し物語教材についてのアンケート調査も行なった。この結果に基づき、今後のリーディング授業のあり方についても考察したい。


自由研究発表  第2日 第4室(G-304) 3番目

中学生へのまとまった期間での自由英作文指導:peer feedback を応用して
    占部昌蔵(兵庫教育大学大学院生)

  現在、中学校では多くの英語教師がコミュニケーション能力の育成を目指して、以前にも増してリスニング、スピーキング能力の伸長を目標の中心とした授業を進めている。しかし、4技能のうちの1つであるのに、公開授業、教科研究会等ではライティングが扱われることは少ない。そして、ライティング指導のうちの1つである自由英作文の指導は、時間がかかったり、教師への負担が大きかったりする等の理由から、教師から敬遠されることもあるが、それに見合った成果が得られるのも事実である。
 本研究は、中学生が約2ヶ月の間、自由英作文に焦点を当てた授業を受け、その生徒達が書いた英作文がどのように変化したか、その間にどのような指導をその生徒達に行ったかを報告するものである。中学3年生対象の週1回の選択授業で、合計8回の英作文指導に的を絞った授業を計画した。その内4回の授業でテーマの違う3種類の自由英作文を書き、残りの4回は英作文指導にあてた。英作文指導では、ピア・フィードバックを応用した手法、パラグラフ・ライティングの手法等を導入した。発表では、具体的な授業内容、指導方法、成果等について報告したい。

自由研究発表  第2日 第4室(G-304) 4番目

高校英語におけるシラバス作成の効率化
    藤原 剛(山梨県立山梨高等学校)

 英語に限らず高校教育において、シラバス作成が盛んになっている.学区制の撤廃などにより学校選択の自由度が増し、各高校がどのような生徒を育てようとしているのか、これまでいじょうに具体的に表す必要が生じていることがその背景の一つとして考えられる.
 英語科においても学校が目指す生徒像を受けて、各科目でどのような技能を身に付けさせるのかをシラバスという形で具体的に表す取り組みが増えている.
 研究にあたって県内の英語教員にシラバス作成についての予備的なアンケート調査を行ったところ、多くの教員がシラバス作成を負担に感じていることが分かった.更にいくつかの高校や教科書の出版社が作成した英語シラバスを見てみると、個々の項目は言語習得に向けて重要な学習内容や目標となっているが、全体として見てみると文法・構造、機能、場面、話題、スキルが混在し網羅的で焦点化されておらず、言語習得を却って阻害している可能性がある。これを問題点として指摘したい。
 その上で本研究では生徒のニーズや言語習得のゴールを明確にしながら、教科書に依存するのではなく、教科書を活用するという教員の意識改革がシラバス作成を効率化し、言語習得につながるということを提案したい。

自由研究発表  第2日 第5室(G-305) 1番目

英米語彙の頻度差---Longmanの辞書を比較して---
    松尾眞志(和歌山市立商業高等学校)

  コーパスを利用した英語辞書が作られるようになり、私たち教師も、それら辞書にある頻度表示をみて、これは重要な単語だから、しっかり生徒に教えようと思う。 では、私自身は、頻度についてどれくらい知っているのだろうか。例えば、イギリスとアメリカでは語彙の頻度がどれくらい違うのだろうか。 そこで、今回、英語系のLongman Dictionary of Comtempray English3、4版と米語系のLonmman Advanced American Dictionaryの見出し語の頻度を比較して、その実態を明らかにしようとした。この語彙と頻度の違いを知れば、きっと明日の授業に生かせるはずだ、と思いながら調べた結果を報告する。

自由研究発表  第2日 第5室(G-305) 2番目

高校生と高専生の未知語推測における語彙サイズについて
    種村俊介(沼津工業高等専門学校)

 ESL/EFL学習者の読解ストラテジーの特徴に関する研究が多く行なわれてきた(Hosenfeld, 1977, Block, 1986, 津田塾大学言語文化研究所読解グループ, 1992)。その中で読解力の優れた学習者は、トップダウンリーディングを用いていることが示唆された。従って効果的なトップダウンリーディングを用いた読解ストラテジーを習得する訓練が、ESL/EFLにおける読解力養成に広く行なわれるようになった(高梨・卯城,2000)。しかし、トップダウンリーディングを用いた読解ストラテジーを強調しすぎる指導方法を警告する研究もある(Eskey, 1988, Haynes, 1993, Segalowitz, 1991)。それは、読み手の語彙の自動的認識力(ボトムアップレベルの言語処理能力:語彙力)の欠如が未知語推測などの読解ストラテジーにともなうトップダウン処理を妨げていると考えられるからである(Stanovich, 1980, Eskey & Grabe, 1988, Huckin & Block 1993)。それでは、どれだけの語彙力があれば、トップダウンレベルの読解ストラテジーを有効に活用することができるのだろうか。
 そこで本研究では、読み手の語彙サイズとトップダウンレベルの読解ストラテジーの一つである未知語推測力の関係について分析を試みた。語彙サイズを測定するのに望月テスト(望月,1998)を、未知語推測力を調べるのに筆者が作成した未知語推測テストを用いた。被調査者は、高校3年生(3クラス、計71名)と高専3年生(1クラス42名)と高専5年生(1選択クラス21名) の合計134名である。実験の結果、望月テストの推定語彙サイズと未知語推測テストのスコアには、強い相関関係が見られた。さらに、推定語彙サイズから未知語推測力をある程度予測できるという結果が表れた。本発表では結果と考察の報告を行なう。

自由研究発表  第2日 第5室(G-305) 3番目

コアイメージを意識した語彙学習についての考察
    今井隆夫(愛知みずほ大学)

 認知言語学では、言語能力も認知能力の現われの1つであり、言語表現の意味は、認知主体としての人間の身体性・感性・捉え方に動機づけられていると考える。この理論が英語学習に貢献するところは非常に大きいと思われる。文法・語彙・イディオムのいずれも、認知的な動機付けから説明すると、表層的な理解にとどまらず、深層的な理解につながり、学習に役立つものが多い。
 人は新しいものを学習する場合、既存の知識構造(frame of reference)との関連で推論を行ない関連性理論で言われる認知環境の改善を行う。外国語学習の場合は、母語としての日本語で身につけたframe of referenceを参照するため、学習がうまくいかない場合が多いと考えられる。したがって、文法・語彙などの学習が英語の母語話者の場合のように、何度も同じ表現に繰り返し出会うことで記憶されるというsubconsciousな学習というわけにはいかない。また、目標言語に接する時間が母語話者の場合とは比べものにならないほど少ない点も念頭に置く必要がある。外国語学習といえども、状況、場面と合わせて、できる限り多くの英語に触れることは上達には欠かせないことは事実であるが、①言葉は文化であり、同じもの対する認知の仕方が異なること、②人は言葉にできないものを表現するために比喩を用いており、比喩は日常言語の中にありふれていること、を認識し、外国語としての英語学習に取り入れていくことが効果的だと考える。
 今回はメタファー・メトニミー・シネクドキーという3種の比喩のメカニズムから、多義語の学習に役立てることを検討する。また、これらの現象を生態心理学で近年注目されているアフォーダンス理論の視点からも検討し、数名の母語話者へのアンケート結果とも合わせて、いくつかの英語の語彙を例に、認知言語学及びアフォーダンス理論の考え方を利用した訳語ではなくイメージで単語の意味が捉えられるような語彙指導の実践例を紹介する。

自由研究発表  第2日 第5室(G-305) 4番目

意味的処理の違いが語彙学習に及ぼす影響
    紺渡弘幸(仁愛大学)

 言語習得における語彙学習の重要性が注目されるようになるにつれ、処理水準、精緻化の度合いや動機づけといった語彙習得を促進するさまざまな要因について研究がなされてきている。本発表では、アウトプットにおける意味的処理の違いが語彙学習に及ぼす影響を調べた研究について報告する。学習でしばしば用いられる2種類のアウトプット課題、すなわちターゲットワードを使用したセンテンスレベルの和文英訳と自由作文の2つの課題を取り上げ、短期および長期の学習効果(記憶保持)を比較した。この研究の結果から、アウトプットの質的違いや保持のためのリハーサルの必要性に関連して、効果的な指導についての示唆が得られた。

自由研究発表  第2日 第6室(G-306) 1番目

第2言語としての英語の明示的及び暗示的文法知識
    酒井英樹(信州大学)

 Ellis (1994) によれば、第2言語の文法知識は明示的知識 (explicit knowledge) と暗示的知識 (implicit knowledge) に区分される。明示的知識とは、分析されていて、抽象的で、説明的な知識である。求められれば、学習者は明示的知識を述べることができるとしている。一方、暗示的知識とは、直感的な知識である。求められれば,学習者はある文が文法的か非文法的かについての判断を行うことができるが、その判断の根拠となる規則を説明することができない。明示的知識と暗示的知識の関係について、Green & Hecht (1992)、久保田・板垣・杉山 (1999)、酒井 (2004) が実証研究を行っている。本研究は、これらの先行研究の追研究である。2006年4月に、教育学部2年次の共通教育英語演習において、授業の一環としてテストを実施した。承諾を得られなかった学生、欠席をした学生、英語教育分野の学生を除いた18名の回答を分析対象とした。テストは、Green & Hecht (1992) と久保田・板垣・杉山 (1999) で実施された実験課題に基づいて作成された文法性判断テストは、12 の英文からなり、各英文には、平叙文の語順、過去時制、未来を表す助動詞 will、否定文などの文法規則に関連する誤りが1つ含まれている。この12の英文に対して、英文の提示のみのヒントなし課題と誤りの部分に下線が引かれたヒントあり課題を作成した。ヒントなし課題では、非文法的な箇所の特定とその修正を求めた。ヒントあり課題では、誤りの説明とその修正を求めた。同一学習者に両方の課題を受けてもらい、ヒントなし課題とヒントあり課題の結果の比較を行った。修正と説明の比較、ヒントなし課題とヒントあり課題の比較、文法規則ごとの分析を実施し、発表する。

自由研究発表  第2日 第6室(G-306) 2番目

文法指導における自己関与の重要性
    田中武夫(山梨大学)

 目標とする文法項目に学習者自身を関連づけて文法指導を行うこと(本発表では、これを「文法指導における自己関与」と呼ぶ)が重要であることは、これまで経験的に認識され、英語授業の中で日常的に実施されてきている。この「自己関与」がなぜ重要なのかという問いを理論的に整理してみることは、英語授業における効果的な文法指導のあり方を考える上で有益であると考える。そこで、本発表では、この「自己関与」に着目し、認知心理学や第二言語習得研究における関連概念を取り上げ、文法指導においてなぜ「自己関与」が重要であるのかを追究し、効果的な文法指導の方法に関する議論のヒントを提示する。
 先行研究の中から、「自己関与」を考察するためのキーワードを探ると、自己照合効果(self-reference effect)、自己選択効果(self-choice effect)、自己生成効果(self-generation effect)、自己効力感(self-efficacy)、偶有性(contingency)などの概念がある。これらから、文法指導にける自己関与の重要性を考察すると、少なくとも次の5つになる。1) 目標とする文法項目に対する学習者の学習動機を高める、2) 文法項目に対する学習者の気付きを能動的なものにする、3) 学習者にとって身近な文脈の中で文法項目を関連付けることで、実際の言語使用につながる文法知識が身につく、4) 学習者自身に文法項目を関連付けることで、その文法項目を学習者の記憶に長く保持することができる、5) 授業における文法学習に対する学習者の集中力を高める、などである。これらのキーワードと、第二言語習得研究での文法指導に関するこれまでの議論で扱われてきた概念を関連付けながら、どのように文法指導の実践指導の中に「自己関与」という概念を生かすと、より効果的な文法指導につながるのかを考えてみたい。

自由研究発表  第2日 第6室(G-306) 3番目

中学生の英語代名詞・再帰代名詞の解釈について
    白畑知彦(静岡大学)

 日本語を母語とする英語学習者を対象に、彼らが英語の代名詞(例:him)と再帰代名詞(例:himself)をどの程度、そしてどのような過程で習得していくのかを調査した研究成果(の一部)を発表し、ならびに英語教育への応用を考える。英語の代名詞は中学1年の一学期に主格をまず学習する。目的格も遅くとも二学期には学習し、3年間を通じて頻繁に出現する文法項目の1つとなる。一方、再帰代名詞は、中学3年間でほとんど出現しない(例えば、平成14年度版のSunshineでは3回しか出てこない)。もし、両文法項目の出現頻度だけで学習者の習得度を予想すれば、代名詞の解釈の方が再帰代名詞の解釈よりも圧倒的に容易となる。一方で、英語のheに相当する日本語の語彙は、「彼」であると我々は中学校の英語の時間に習う。しかし、「彼」は「コ、ソ、ア、ド」ことばと同様に指示詞といってよく、その振る舞いは英語の代名詞とはかなり異なるものである(Hoji, 1991, 神崎, 1994)。
 実験対象者は中学3年生で、彼らの卒業時の3月に実験をおこなった。したがって、教室でちょうど3年間英語を学習してきた学習者が対象ということになる。実験問題は(1)に示すようなもので、問題用紙に描かれている絵とそこに提示されている簡単な英文の内容が同一の内容であるか否かを問う質問である。
(1) a. Ken is washing himself.
    b. Ken is washing him.
 実験結果から、再帰代名詞の解釈は容易で、代名詞の解釈は困難であることが判明した。本発表では、この実験結果の詳述と英語教育への応用を考えて行きたい。


自由研究発表  第2日 第6室(G-306) 4番目

具体語によるインプットの効果
    千田誠二(和光大学)

 具体語は抽象語に比べ、アウトプットにおいて想起にかかる時間が短く、質・量双方に富むことが母語における過去の研究結果で報告されている(Goetz, Sadoski, Kealy& Paivio, 1997)。本研究では、英語教育におけるインプットとアウトプットの関係においても上記と同様の結果が得られるか実証を試みた。
 ショートストーリーによるインプットにおいて、本文をオリジナルのまま、本文を認知的に単純化した文、本文を具体化した文をそれぞれのグループに聞かせ、実験を行った。認知的に単純化したグループは、因果関係、状況の明確化などを伴い、言語上は本文の複雑さを伴った文章を使った。それに対して、具体化したグループは、本文中の抽象的な部分に具体語による言い換えを伴ってインプットを与えた。
 上記のインプットを3グループに与え、後に自由筆記再生によってアウトプットさせ、総語数やT-unit数などを計測した。発表では、上記の結果に加えて、それぞれのグループがどの程度ことばの概念を密接に構築しているかを合わせて報告する。


ポスターセッション1  G-107/108

小学校英語活動におけるスピーキング指導
   高橋美由紀(兵庫教育大学)
   柳 善和(名古屋学院大学)
   米田尚美(岐阜聖徳学園大学)
   清水万里子(トライデント外国語専門学校)
   柴田里実(名古屋学院大学)

 小学校英語活動は、児童が国際コミュニケーションの手段である英語を体験的な学習を通して学ぶことを目的としている。将来的には、英語のスキル面についても、英語の音声や基本的な表現に慣れ親しみ、リスニング能力を育てることも考慮されるものと考えられる。
しかし、いわゆる教育特区などで実施されている小学校での英語の教科化の試みや、社会的に英語教育のさらなる充実を求める声を考慮すると、その先を見越した小学校英語活動を構想する必要がある。その際には、一部の小学校で見られるような、単に現行の中学校教科書を使用した中学校の前倒し教育とは別のものを考えなくてはならない。
 本発表では、小学校の体験的な活動の中で、英語のスキル能力の育成、とりわけ、スピーキング指導に焦点をあてた授業のあり方について考察する。特に、「児童に自分で言いたいことを表現させるにはどうしたらいいか」ということに焦点を当て、単に文を暗記して言わせるのではなくて、本当に話す力に発展させるプロセスを中心に考察したい。
 具体的には、(1)児童に効果的なスピーキング指導の理論、(2)理論的背景に基づいた教材や教具、(音声教材、マルチメディア教材、視覚教材など)(3)諸外国での児童のスピーキング指導、(4)児童に効果的なスピーキング指導について述べ、(5)公立小学校での英語コミュニケーション活動としてのスピーキング指導のモデルを示す。

ポスターセッション2  G-107/108

英語活動に対する児童の関心、意欲、態度についての一考察
   宇高まゆみ(兵庫教育大学大学院生)

 英語活動は,文部科学省によれば,高学年で週に1回程度,共通の教育内容を設定するなど,早ければ平成20年度から必修とするという内容を決め,小学校段階での英語教育の目標・内容については,「英語を用いて言語や文化に対する理解や積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度,国際理解を深めること」を基本目標とするが,小学生の柔軟な適応力を生かして英語の音声や基本的な表現に慣れ親しみ,聞く力を育てる内容も「教育内容として適当」としている。
八千代区では,平成15年度から,区内3小学校が同一カリキュラムで英語活動を実施してきた。17年度の活動時間は,3,4年生で2週に1時間,5,6年生で週に1時間の割合であり,指導は、HRTとALT,またはHRTとJTEのTTで行っている。英語活動においてどのような内容を扱い,どのような指導方法の工夫を行うことが適切かを考える指標の一つにするために,区内3小学校の3年生から6年生の児童271人に対して英語活動に関する意識調査のためのアンケートを実施した。具体的には,英語や外国に関する内容として,「外国人に英語で話しかけられたらどうしますか」「英語の勉強は大切だと思いますか」等8項目,英語活動に関する内容として,「外国の先生(または日本の英語の先生)と英語で話すことは楽しかったですか」等17項目であり,多くの児童が英語の勉強に意義を感じたり,ALTやJTEとの活動を楽しんでいたりする傾向が見られた。
 本発表では,アンケートの結果から,児童の英語活動に対する関心,意欲,態度について考察を行った結果を発表する。


ポスターセッション3  G-107/108
Grammatical Competence 獲得のストラテジー
   児玉玲子(皇學館大学)

 英語の基礎学力もなく、英語嫌いになっている大学生が多い。そのような大学生に、もう一度初歩から、英語学習を原則毎日させ grammatical competence を養成することを目的としたマルチメディア英語学習プログラムの実践とその学習結果を報告する。この学習の特徴は、
1.教室での学習とe-ラーニングによる学習とを組み合わせた形態で、学生は各自のペースで主体的に学習する。
2.マルチメディア学習CD-ROMによって、英語の4技能を総合的・系統的に学習する。
3.和文英訳・英文和訳は、一切しないようにし、Thinking in Englishを目指す。
4.課題の提出は、全て email による。これにより、一人一人の学生の学習進行状況や学習内容を把握する。
 学生は、まずCD-ROM を使ってマルチメディアで英語学習する。各syntaxの学習内容は英文composition で終わる。computer 上で compose した文は、その場で正誤が判断され、正しい文しか受け入れられない。それ以外に、当該学習シンタックスを含む質問文も準備する。質問文は、Yes, No, Question 形式の質問を意図的に多用したり、5W1H の形式の質問文では、選択肢を提示したり、正しく答えることができるように配慮しておく。正しい完全な文を数多く書かせることで、grammatical competence を養うことを目指す。質問の内容は、簡単な日常生活に関するものから、グローバルな教養に関わるものまで含む。また、質問文は、学生のレベルに合わせた難易度に、また、社会や時代にあった内容に変える事が可能である。学生は、これらの質問に答えたものを課題提出としてe-mail で送る。1年以上の学習の結果、多くの学生に英語力の上昇がみられたことを報告する。



課題別研究プロジェクト
 第1室(G-205)


英語教育におけるvocabulary learningの理論的・実践的研究:小学校英語のための学習語彙の選定をめざして
  司会者:船城道雄(静岡大学名誉教授)
  提案者:柏木賀津子(奈良市立三碓小学校)
       本田勝久(大阪教育大学)
       望月通子(Universite Catholique de Louvain, 関西大学)
       大野千鶴(浜松大学)
       佐久正秀(大阪信愛女学院短大)
       船城道雄(静岡大学名誉教授)

提案1
 Schematic Formationをめざした動詞の導入方法について
   柏木賀津子(奈良市立三碓小学校) 

 小学校では現在、音声を中心としたコミュニカティブな方法で様々な英語活動が行われている。積極的なコミュニケーションにつながる学びが期待される。
子どもが、積極的に耳から聞いた英語を応用する(自発的に言葉の一部を入れ替えて使おうとする)には、どのような足がかりが必要なのであろうか。この問いに沿って英語活動を語彙という側面で観察すると、インプットが名詞に偏りやすく動詞が比較的少ないことに気づく。名詞は視覚的に親しみやすいが、複数の場面で繰り返し使えることは少ない。一方、動詞は視覚的に捉えにくく、インプット時に子どもの注意を惹きつけることが難しいが、複数の場面にまたがって使うことが可能である。つまり、子どもがインプットの一部を入れ替えて使おうとする「鍵」は動詞の意味理解に内在するのではないだろうかと考えるのである。 そこで本発表では、子どもが授業で触れている語彙の現状を踏まえ、英語活動における動詞の果たす役割と子どものSchematic Formationをめざした動詞の導入方法についての試案を報告する。
 その理論的根拠として、最近の母語習得研究、『First Verbs』(Tomasello,1994,2003)から「動詞の島仮説」(the Verb Island Hypothesis)及び、VO-Combinationにおける子どもの言語の認知的営みに着目する。この研究では、2歳児の「個々の動詞」の意味理解や使用は、言語構築の基礎であり、Shematic Formationの現れであるという研究がなされている。
 実践としては、教室場面にそれらを照応させ、動詞のチャンキング、ストーリーを活かした動作化、Child-Child Interaction、動詞のビジュアル的導入(アニメーション教材作成)等を試みた実践授業を映像で追いながら、子どもの動詞の意味理解の揺れや幅について報告する。



提案2
 ローマ字指導と小学校英語活動における有機的な連携について
   本田勝久(大阪教育大学)

 中央教育審議会は、2006年3月27日の第14回外国語専門部会において、小学校における英語教育の教育課程上の位置づけとして「必修化」を求める報告をまとめた。中学校との円滑な接続を図るという観点から、小学校高学年で年間35単位時間(平均週1回)程度の共通の教育内容を設定することが検討された。しかしながら、日本の小学校における英語に関連する教育内容は多岐にわたり、全国の現状を正確に把握することは難しい。さらには、小学校段階の英語教育について、国語力の育成との関係を懸念する声も聞かれている。このような国語力の育成との関係について、外国語専門部会では、以下のような報告がなされている。
・英語を聞き、日本語と異なる音に触れることによって、日本語を注意深く聞こうとする態度が養われる。
・英語の構造や語彙を学ぶことによって、言語に対する関心が高まり、日本語の構造や外来語など、日本語という言語に関する意識が高まる。
 これら小学校英語教育の現状と課題から、本発表では、ローマ字指導と英語活動における有機的な連携に焦点をあてる。研究開発校以外にも多くの小学校で文字指導(主に「読み」)が行われている中で、ローマ字(読み)と英語(読み)における音韻的な違いを認識させるには、国語教育(ローマ字指導)と英語活動との有機的な連携が不可欠である。本発表では、小学生に対する「英語読み」に関するテスト結果から、ローマ字学習が与える小学校英語活動への影響について議論する。ローマ字学習での知識は英語を読む際の一助となっている反面、ローマ字読みをして英語を読み誤まったり、アルファベットの判別を間違えて混乱したりしている児童も見受けられる。本発表では、これら調査結果を報告し、小学校英語活動とローマ字指導との調和と相互理解の重要性を指摘する。さらには、新たな段階に入った公立小学校での英語教育をめぐる語彙指導のあり方を議論する。



提案3
 日英語のオノマトペの特徴と小学校英語活動
   望月通子(Universite Catholique de Louvain, 関西大学)
   大野千鶴(浜松大学)
   佐久正秀(大阪信愛女学院短大)

 日本語は音象徴語である擬声語・擬音語などの「擬音オノマトペ」に限らず、擬態語・擬情語などの「擬態オノマトペ」が多い言語であるといわれるが、オノマトペが積極的に英語教育の指導の対象となっているとはいえない。実際、大学生にオノマトペを含む文を英訳させると困惑することが多い。
 オノマトペの語彙化には一定の順序があり(筧1998)、第1段階はその場その場で創作される臨時語(nounce)、第2段階は臨時語に比べて慣用性(conventionality)の高い語、第3段階は「~する」形の動詞、最終の第4段階は更に語彙化が進み一般語と区別できなくなる。日英語のオノマトペの語彙化を比べると、総じて日本語は第2段階の慣用的、常套句的な語彙や、「~する」形の動詞が顕著で、他方の英語は第1段階の臨時語と語彙化の進んだ第4段階の動詞群に二分される傾向がみられる。
 子どもは幼児語や育児語に始まり、漫画、童話や文学、広告など豊富なオノマトペに触れている。しかし小学校の国語テキストではオノマトペに触れ音声やことばの働きを意識化する試みが散見されるものの、英語教育では指導の対象となっているとはいえない
 本研究では小学校英語活動において積極的にオノマトペの指導が必要であるという観点に立ち、(1)メタ言語能力を伸ばし、母語を言語体系の1つとして意識させる外国語活動、(2)インプット重視の活動、(3)子どもが関心をもっている身の回りにある語彙の増加、(4)絵本の読み聞かせや、読書(pleasure reading)の導入、(5)児童の多様な外国語への取組みなど児童の認知・情緒発達上の特徴を生かす、小学校英語活動の可能性を探ってみたい。



提案4
 フレイズオロジーから見た語彙学習
   船城道雄(静岡大学名誉教授)

 新出語が出てくるとフラッシュカードよろしくその発音と意味を繰り返し練習している光景を目にすることがあるが、結果的にその単語の意味と発音を覚えたとしてもコミュニケーションには直接つながらない。ただ単にそれぞれの単語を単一に習得しても文を作ることができるとは限らないからである。例えば、blowという単語の発音と意味を身に付けたとしよう。だからといってblowという語を使って文を発話できるとは限らない。意味を正しく伝えるにはblowとともに生じることのできる組合せの相手となる単語も習得していなければならない。自由な組合せはblow a trumpetであるが、制限的な組合せはblow a fuse, 比喩的な組合せはblow your own trumpet(自画自賛する), 純慣用語はblow the gaff(嘲笑に耐える)である(Cowie, 2005:164)。これで明らかなのは意味の主たる担い手は句(phrase)であって単語(word)ではないということである(Sinclair, 2005:21)。multiword unitの習得こそ言語学習の第一歩であるし、MWUの習得は話し手聞き手の言語処理を最小化することによってfluencyを促進すると言われている(Wray, 2005).
このようなわけで1980年代の中ごろから定型表現(prefabricated language, or prefabs)の使用が英語教育の主要な関心事の1つとなってきた。その大きな要因となっているのがコーパス言語学や英語学習者コーパスの進展であろう。コンピュータ処理によって語彙パターンを明らかにしたり、語彙間の共起関係にかんする豊富な情報を収集することが可能になったからである。
本発表では、英語教育の中でどの語彙をどれだけ習得することが望ましいのかという点についてphraseologyの知見を検討しながら考察を進めていきたい。小学校の英語活動から中学英語に連携するにあたって語彙選定をどのような根拠に基づいてすべきかは、重要な問題である。経験則に基づいて決めるのを非科学的とするならどのような根拠があるかをphraseologyをもとに提案を試みることにする。


課題別研究プロジェクト
第2室(G-206)

アジアの英語教科書比較研究
  司会者:八田玄二
       川畑松晴

第1部 13:15~14:25
 1.アジアの英語化と言語政策    河原俊昭
 2.韓国の英語教育政策の背景   樋口謙一郎

第2部 14:35~15:45
 1.ベトナムの英語教育政策と新編英語教科書 川畑松晴
 2. ベトナムにおける小学校英語教育の理想と現実のギャップ 八田玄二
 3.バングラデシュの教科書分析 室井美稚子

*「アジアの英語教科書展示」を同時開催します。

第1部 
提案1
 アジアの英語化と言語政策
  河原俊昭(京都光華女子大学)

 アジアでは、英語は英米の旧植民地を中心に使われていたが、次第にその他の地域にも普及して、現在ではアジアの共通語としての地位を占めている。ところで、英語の普及につれて、各地で特有の英語が生じているが、これらの英語をどのように評価すべきであろうか。英語の規範はイギリスやアメリカで使われる英語であるので、各地特有の英語は規範から逸脱したものであり、消えるべきもの、とする考え方がある。しかし、各地特有の英語をも評価して存在意義を認めるようとする考えもある。
 ここでは、後者の見解に基づいて論を進めたい。その場合、検討すべき課題として、(1)アジアの共通語は英語だけであると述べていいだろうか。例えば中国語や日本語やマレー語などが、同時にアジアの共通語となる可能性があるだろうか。(2)アジア各国で独自の英語が生じているのだが、これらの英語全体の共通の特徴は何だろうか。これらの英語全体を「アジア英語」と名付けていいだろうか。(3)各国の政府はアジア英語に対してどのような言語政策をとっているだろうか。(4)日本の最近の言語政策である「英語が使える日本人の育成」のための行動計画や小学校への英語教育の導入はアジア英語とどのように関連するのか。
 これらの課題を意識しながら、近年顕著になっているアジアの英語化と言語政策について報告を行う。

提案2
  韓国の英語教育政策の背景
   樋口謙一郎(早稲田大学国際言語文化研究所客員研究員)

 本報告では、韓国の英語教育政策のなかでも、日本でも注目度が高まっている初等英語教育を中心にすえ、その言語政策史的背景と、教科書分析の際の留意すべき点について検討する。
 まず、韓国の初等英語教育について、その実施に至るまでの経緯、実施内容、今後の方向性について概観する。特に、今日の韓国政治・社会の状況や韓国人の言語観に注目し、韓国で初等英語教育が実現・定着している理由、韓国の教育制度における英語教育の位置、現行の英語教育の問題点などについて考察したい。これらの点の理解があってこそ、韓国の英語教科書を教育制度や学校の状況といった現実に即して分析することが可能になり、また韓国の英語教育政策を日本および諸外国の事例と比較する際の意義や論点も明らかになると考えられるからである。
 その上で、韓国の教科書の外観的特徴と、教科書にはあらわれていないが留意しておくべき教育施策および考え方について論じ、教科書というモノの背後にある考え方や学習事情についても検討する。本報告では、特に韓国の「深化・補充型」教育の考え方や、ICT教育の現状について触れてみたい。
 時間が許せば、韓国における研究の現状や、報告者および諸研究者がこれまで実施した現地視察の成果について触れるとともに、今後検討されるべき課題や研究の方法論に関する私見も提示したい。


第2部
提案1
 ベトナムの英語教育政策と新編英語教科書
  川畑松晴(金沢学院大学)

  ベトナムの新編教科書、Tieng Anh 6, Tieng Anh 7について前回の大会で発表した。この2冊は日本の中学1年、2年に対応するが、その特徴は以下の通りである。
 1.ページ数が日本の教科書の2倍くらいである。したがって、
 (1)語彙及び文の繰り返し使用される頻度が非常に高い。言語の余剰性も高い。
 (2)文法事項、機能別表現などの導入・展開に余裕がある。
 2.7大テーマ*に基づく、整合性のある各ユニットの進展がみられる。
 (* 個人、学校、家庭、地域社会、余暇・労働、食・健康、世界・環境)
 一つのユニットの中でも、また次のユニットへの繋がりにおいても無理のない自然な展開がみられる。これは、学年間においても、各テーマについてより高次の展開が意図されている。
3.題材の多くが国内に関する内容で、登場人物にも外国人が少なく、会話の多くがベトナム人同士による。 英語を使用する必然性の観点からみると、これは非常に不自然である。外国の風物をよく扱い、外国人が沢山登場するわが国の教科書に慣れた目にはかなり奇異に映る。
 以上をやや好意的にまとめて、前回の発表で、筆者は「言語材料および題材が螺旋状に発展的に配置されている」と述べた。今回は、日本の中学3年生、中学4年生用(ベトナムの学制は5年-4年-3年-4年制)に相当するTieng Anh 8, Tieng Anh 9について、上記の1,2を中心に発表する。

提案2
 ベトナムにおける小学校英語教育の理想と現実――指導要領と教科書と現場
  八田玄二(椙山女学園大学)

 ベトナムでは、2002年までの旧カリキュラムでは英語は選択科目(Optional)として小学校1年生(6歳)から教えられていたが、2002年度以降は、3年生より、やはり選択科目(都市部では必須科目扱い)として国の教育訓練省が作成した教科書(TIENG ANH 1~3)を用いて教えられている。本発表では、2003年にベトナム教育訓練省がだしたEnglish Subject Programmeに書かれている英語教育の理念(rationale)と方法(methodology)が実際の教科書編纂にどのように活かされ、その精神がそれぞれの現場においていかに実現されているかをより多角的な視点から捉える目的で、次の3つのインタビューを紹介する。
1.ベトナム教育訓練省(MOET)、初等教育局長とのインタビュー
2.バクザン省(JICAの教育開発プロジェクトの実験地区)の教育訓練局(Department of Education and Training=DOET)と教育委員会(Bureau of Education and Training=BOET), 教員養成大学(Teacher Training College=TTC)の英語教育担当者、現地の小・中学校の英語教師の11名とのインタビュー
3.JICAと共同でバクザン省の教育改革に従事している、国際開発センター(IDCJ)の主任研究員田中義隆氏とのインタビュー

提案3
 バングラディッシュの教科書分析
  室井美稚子(木更津工業高等専門学校)

 日本における英語教育のあり方を模索するために、アジアの英語教育に関する関心が高まっている。各国の教育システムを研究することも有益であろうが、まずは数人で「アジアの英語教科書比較研究」の会を立ち上げた。発表者はバングラディッシュの教科書を担当することとし、今回は次の観点から分析する。  構成においては、 ①何を基準としているか:機能、文法、この両方 ②コミュニケーションに対する考え方 ③題材の選択・配列を分析する。また、特に③の題材については、次の観点で更に分析する。グローバルな問題意識の観点から、1)environment 2)human rights 3)peace 4)development 5)culture、 人文科学的な観点から6) science & technology 7)literature & arts history 8)others、の8つのカテゴリーに分けてその割合を見る。また、特出すべき内容を紹介する。
  まだ、現地調査も行っておらず英語教育の実情などがわかっていないため、教科書の内容分析を中心とする中間発表的な性格を有する。 

課題別研究プロジェクト
第3室 (G-207)
英語教育における小中連携
  司会者:松川禮子(岐阜大学)
  提案者:大下邦幸(福井大学)
       高橋美由紀(兵庫教育大学)
       野呂忠司(愛知学院大学)

提案1
 英語教育における小中連携:検討すべき諸課題
           大下邦幸(福井大学)

 本年3月に、中央教育審議会の外国語専門部会が、近い将来、全国一律に小学校5・6年生に英語を週1時間程度必修にするとの方針を打ち出した。これまでの小学校における英語活動は、平成16年度の実績で、英語活動の年間平均の実施時間数は、全国平均で第3学年11.7時間、第4学年12時間、第5学年12.4時間、第6学年12.9時間となっており、この程度の実施時間では、英語活動の内容はお遊び的なものにしかならず、現在の小学校の英語活動は中学校の英語教育にはほとんど影響を与えていないように思われる。しかしながら今後、小学校5・6年生で英語活動が週1回実施されるようになれば、小学校での英語活動が中学校での英語教育に何らかの影響を及ぼすことは必至で、小中の連携は、今後の日本の英語教育にとって避けて通れない課題になるものと考えられる。
  本提案では、今後の英語教育における小中連携を展望し、以下の4点について検討する。(1)なぜ英語教育における小中連携を進める必要があるのか、またそのメリットは何か。(2)小中連携を進める上で考慮すべき諸条件とはどのようなものか。(3)小学校の英語活動と中学校における英語教育では、どこがどのように違うのか。(4)小中連携を実現するには何が問題となるのか。


提案2
 小・中連携Enjoy English事業
     高橋美由紀(兵庫教育大学)

 平成17年度より小野市では、小学校・中学校の9ヶ年の英語教育のあり方を研究するために、「小・中連携Enjoy English事業」実施している。発表者は、推進委員として事業の立ち上げの時から指導・助言を行ってきた。
 昨年度は、1校の中学校とその地域の3校の小学校を「Eゾーン」として実施し、今年度は小野市全体(小学校8校と中学校4校)がこの事業を実施している。
 本発表では、昨年度の「Eゾーン」での取り組みの事例研究から、小・中連携についての現状と課題を述べる。具体的には以下に挙げた内容である。
(1)児童と生徒間での小・中連携の取り組み
・ 中学校の生徒が母校の小学校で英語活動「小学生と一緒に英語でコミュニケーションしよう」を実施した。
・ 「あさひ祭」(旭が丘中学校の文化祭)で、小学生が英語活動の発表を行った。
(2)教師間での小・中連携の取り組み
・ 毎月1回の「Eゾーン推進会議と指導講習会」で、各学校持ち回りで訪問し、受け持ちの学校の教師が授業公開を行い、その後、教員研修で研修を受講し交流した。
・ 夏季指導者研修会8講座の内、小野市の中学校英語教員と小学校教員が最低1回は参加した。
<小学校の効果>
①英語活動の意識が教員全体に拡がり、浸透した。②他校の教員との交流や他校の教師が掲示や教材等をみることができ、他の学校での英語学習環境が認識できた。
<中学校の効果>
①中学校で新1年に実施している英語調査とローマ字や英語の試験の結果だけでなく、実際に小学校で行われている英語活動の実態が一部だが把握することができた。
②中学校英語教育のカリキュラム、とりわけ入門期の生徒の英語教育において、ヒントを得ることができた。
(3)平成18年度の取り組みと課題
中学校教員の専門的な支援・助言が不可欠であることが全体の共通認識となった。したがって、今年度は中学校の先生を積極的に巻き込みながら展開する。また、小・中連携カリキュラムの開発を行う。


提案3
 小中連携を視野に入れた文字指導について
      野呂忠司(愛知学院大学)

 『小学校英語活動実践の手引き』には「小学校段階では、音声と文字を切り離して、音声中心にした指導を心がけることが大切とある」が、小学校で英語活動を実践してきた多くの教師は、「文字を用いない」指導は小学校高学年のこどもの知的発達にそぐわないと感じている。従来、中学校では新しい音声と文字をほぼ同時に導入してきたが、これは学習者に大きな負担であり、英語嫌いを助長してきた。中学校では音声と文字の関係を教える十分な時間的余裕がない。4年生から毎週1時間英語学習を実施することを前提にして、何時から文字指導を導入するべきか?何故文字指導をする必要があるのかについて論じる。
1. 中学校から文字と音声を同時に導入された学生で、英語力不振者は文字の音読ができないし、スペリングを正しく覚えられない。(古田、2006)
 (a)英語は文字と音声の関係が不透明(opaque)な言語である。
 (b) 英語の音読は難しい。<―――Orthographic depth hypothesis
2. 文字指導の前に、目標言語の音声に十分触れることが必要である。
 (a)L1のリーディング発達研究から分かることは、文字を読めるこどもは音韻認識力が発達している。
3.週1時間では十分ではないが、5年生ぐらいから文字を導入しても良いであろう。
 (スペリングを学ばせる時間的余裕がないが、書きたい子供には止める理由はない。)
 (a)4年生の10月頃にローマ字が国語に時間に導入され、アルファベットを習う。
    ローマ字読み、アルファベット読みとphonetic alphabet読みの違いを認識させる。
 (b)英語のアルファベットは身の回りに溢れている。
 (c)小学校高学年のこどもは抽象的概念を理解し、分析的に学習ができるようになり、文字に関心を示す。<――多くの研究開発校指導者の証言
 (d)時間をかけてゆっくりと音声と文字の関係を教えるのが良い。――>phonics
 (e)韓国では、5年生の教科書から文字が入ってくる。
4.小学校で文字の読み方の指導がなされていれば、中学校での英語学習で音読やスペリングにつまずく子供の割合は少なくなるであろう。


問題別討論会 


第1会場 (G-304室)
習熟度別クラス編制の現状と問題点
   司会者:柳 善和(名古屋学院大学)
   提案者:桐井 誠(松本市鉢盛中学校)
        熊ノ郷朋子(和歌山県有田川町立白馬中学校)
        佐々木敏光(和歌山県立海南高等学校)

 柳 善和 (名古屋学院大学)
 「習熟度別クラス編制」はある時には当たり前の制度であり、また、別の時には「やってはいけないこと」として封印されてきた。ところが昨今の「学力低下」論あるいは「学力二極化」論によって蘇り、さらに文部科学省の唱える「確かな学力」論によって、当然の制度になってしまった観がある。現状の能力別クラス編制は、文部科学省が述べる「児童生徒一人一人の実態に応じたきめ細かな指導の一層の充実を図る」具体策の一つとして、研究・実践されていることが多い。「学力フロンティア事業」による研究開発校などはまさにこの好例であろう。確かに、一定レベルの学力の確保は、児童生徒の未来を支える最も基本的な財産の一つである。その意味では私たちがそれを保証してやる方法を考えることは当を得ていると言える。ただ、それが「習熟度別クラス編制」によってどこまで実現できるのか、あるいはまた、「習熟度別クラス編制」によって阻害される面も含めて、慎重な検証が必要である。
 この討論会の3人のパネリストは、習熟度別クラス編制の企画、立案、実践、評価を経験し、それに関する様々な効果と問題点を語る言葉を多く持っている。それぞれの先生方が経験された習熟度別クラス編制には個別の事情があり、それぞれの物語があるが、それを越えて共通する論点が見出せるはずである。
 「習熟度別クラス編制は本当に学力を向上させるのか」という根本的な問題や、「実際にどのようにクラス編制がされていて、生徒たちあるいは保護者にはどのように説明されているのか」「生徒の情緒的な部分に及ぼす影響はどうか」といった具体的な問題まで幅広い議論を展開したい。合わせてフロアからのご意見も積極的に受け入れて活発な討論会としていきたい。

提案1
 10年の歩みから見えてきたもの
  桐井 誠(松本市山形村朝日村中学校組合立鉢盛中学校・前信州大学教育学部附属長野中学校)

 長野県では平成5年度より、文部省(当時)の個に応じ個をのばす学習の充実を図るティームティーチング加配計画を前倒して、ティームティーチングとあわせて「習熟の程度の応じたコース別学習」を取り入れる学校が増え始めた。私自身は平成7年より赴任した学校より研究を始めた。当初は2クラス3コース、1クラス2コース、週3時間、週1時間、期間限定型などの運営上の形態が話題となった。この習熟度別学習の第一の目的は、個に応じた指導・支援の充実を図り、どの生徒も「おおむね満足できる状況(B規準)」のに到達し、のびる生徒はさらに伸ばし「十分満足している状況(A規準)」に高めることがであった。このことは平成14年度からの「目標に準拠した評価(絶対評価)」になってからいっそう強調されることともなった。
 この習熟の程度に応じたコース別学習の成果としては、次のような点が挙げられる。
・日本の英語教育では必ず話題となるクラスサイズの縮小が図られ、生徒一人にかかわることのできる時間が増え、音読や発言の回数が増えた。
・同程度の英語学力の生徒が互いに競い合ったり、リラックスしたりして学習に取り組む学習集団が見られた。

反面、次のような問題点が浮き彫りとなった。
・学級集団を母体とする日本人中学生の学習形態に合わずに、生徒指導上の問題が起こったり、コミュニケーション活動が停滞したりすることがあった。
・クラスサイズが縮小されたということ以外、指導方法が全く変わらないというような授業が見られた。しかもその指導法も講義調やプリント学習中心という場合もあり、習熟の程度に応じたコース別学習以前に、英語教師としての見識や力量が問われた。
・必修教科でありながら、内容もレベルも、さらには到達目標までもが異なる授業が展開されるようなことがあった(と聞く)。
・成績下位の生徒の学級で授業が成立しなかったり、上位を避けて中位に生徒が集中したり、生徒の自主選択が「友人関係」に左右されての講座編制につながったりした。単純分割の少人数学習編制も現れ始めた。 これらの現場の悩みや声は今もって全国で聞かれることである。そこでこの10年の歩みを振り返り、形態の工夫から始まり、実際にどのような差異をもたせた授業を展開したのかなどについて、生のエピソードを交えながら示していきたい。

提案2
 中学校英語科における習熟度別クラス編制の実践を通して
    熊ノ郷朋子(和歌山県有田川町立白馬中学校) 

 2003年に文科省が策定した「英語が使える日本人の育成のための行動計画」は,英語教育改善の方策として少人数・習熟度別指導の導入を謳っている。それを受けて、全国に配置された「学力向上フロンティアスクール」や学力向上研究指定校などを中心に、習熟度別クラス編制が急速に拡大した。
 しかし、習熟度別指導についての問題点も指摘されている(佐藤学、2004)。本提案では、中学校英語科における習熟度別クラス編制の実践を報告し、その成果と課題について述べる。習熟度別クラス編制は、はたして効果的な授業形態なのだろうか。留意点や改善点はどのようなものなのだろうか。活発な意見交換を図りたいと思う。


提案3
 英語Ⅱにおける習熟度別授業の効果と問題点―県立Y高等学校での追跡調査から―
    佐々木敏光(和歌山県立海南高等学校)

 本研究の目的は、Y高等学校の2年生における習熟度別授業が成績向上に効果があるか否かを検証することである。まず、習熟度別授業の先進国であるアメリカでの実情を紹介し、習熟度別授業が本家のアメリカですら大きな転換期にさしかかっていることを、著名な教育者の意見を中心に据えて考察した。
 日本では文部科学省の研究指定校を受けた学校が次々と習熟度別授業の成果を発表する中で、習熟度別授業の実施校が2003年度では小学校で86.5%、中学校で86.8%に達し、高校でも大幅に増えている。しかし、その効果に関しては必ずしも十分な検証が行われてはいない。そこで、県立Y高等学校2年生の「英語II」を対象にした習熟度別授業についての2年間にわたるデータに基づいて、その効果と問題点を考察したが、習熟度別授業では上位グループ、下位グループとも、生徒の成績向上に効果があると言う明確な証拠を得ることはできなかった。習熟度別授業は下位の生徒の自尊心を傷つけるおそれがあること、また、少人数クラスになっているが、等質の生徒が集まっているので下位クラスでは生徒間の相互作用(Interaction)が期待できず、成績向上が望めないという批判的な意見も多くある。
 以上のことから、少なくとも高等学校の英語Ⅱに関する限り、習熟度別授業の扱いには慎重を期すべきであることを述べる。


問題別討論会
第2会場(G-305室)

TOEFL・TOEICで英語教師の力量が測れるか

司会者:林 桂子(広島女学院大学言語文化研究科)
提案者:脇田博文(龍谷大学)
     三岩晶子(和歌山県立日高高校)
     古家貴雄(山梨大学)

林 桂子(広島女学院大学言語文化研究科)
 文部科学省は、平成15年3月31日に、『英語が使える日本人』の育成のための行動計画において、英語担当教員の採用選考に当たって、コミュニケーション能力の育成を図る授業を行うことのできる英語力として、英検準1級、TOEFL550点、TOEIC730点程度以上および教授力を備えていることを設定しました。教師の力量という側面からTOEFL・TOEICによる数値目標の設定については、さまざまな危険性や問題点が考えられます。そこで、本討論会では、TOEFL・TOEICスコアの設定に対して、賛成および反対という見解を超えて、次の2点に焦点をあてて検討します。
(1)TOEFL・TOEICテストが教員採用試験にいかに利用されているのか、それが一般の教員採用試験とどのように異なるか。
(2)教師の質はTOEFL・TOEICで測ることができるのか、真の教師の力量とは何か。

提案者1
 日韓の英語教員採用試験の比較分析による教員採用試験(一次筆記)で図るべき能力及び
 日本の中高英語教員のアンケートの分析結果による英語教員に求められる英語力について提案
  脇田博文

提案者2
 英語教師のTOEFL・TOEICの必要性の立場から、高校英語教育現場における高等学校英語指導内容とTOEFL・TOEICの問題傾向との関連性、高校生が期待する英語教員の英語力、英語教員研修とTOEFL・TOEIC スコアの問題点
  三岩晶子

提案者3
 教師の力量とは何か、教員採用試験におけるTOEFL・TOEICテストの利用の可能性を探る
  古家貴雄

 本討論会は、参加者との論議を中心により良い英語指導者を目指して討論ができますように願っております。


提案1
 英語教員に求められる能力とは何か―日韓英語教員採用試験に関する意識調査からの示唆―
   脇田博文(龍谷大学)

 近年、国家的な戦略構想の一環として実践的コミュニケーション能力の育成を図ることが強く要請され、この中で英語教員にはTOEFL・TOEIC等の具体的な目標数値の設定、5か年英語教員悉皆集中研修等の施策が次々と打ち出されている。この状況の中で今後ますます英語教員には高い英語力・専門的指導力が求められる方向にある。だが、高い英語運用能力をもつことは、よい授業を行う上での必要条件であっても、十分条件ではない。それでは、英語教員にはどのような能力が求められるのかといえば、経験則で漠然と理解していても、大学での英語教員養成カリキュラムが示すように、一定の共通認識がないのが実情である。
 この点は教員採用試験にもよく反映されている。教員採用試験とは優秀な英語教員を確保するためのシステムであるが、現行の教員採用過程に目を向けると、二次試験においては、リスニング、インタビュー、ディベイト、模擬授業等、選考方法や選択尺度の改善が図られている。だが、多くの受験者をふるいにかける一次の英語試験(筆記)については、ほとんど手つかずの状態にあり、試験としての信頼性や内容的妥当性が十分に備わっているのか、選考試験全体の中でどのように活用されるべきなのか等、多くの課題がある。加えて、文部科学省のガイドラインにそって、各都道府県教育委員会がTOEFL・TOEICの活用を図り、各自一定の得点を一次英語試験等の免除要件に設定している事実がある。しかし、本当に一次試験の免除要件としてよいのだろうか。
 この問題別討論会では、良質な英語教員採用試験の研究開発を目的とした日韓英語教員採用試験に関する意識調査に基づいて、授業を実践する上で求められている能力とは何か、優秀な指導力のある教員を採用するためにどのように教員採用試験を改善すべきか、明らかにしたい。これを踏まえて、TOEFL・TOEICの英語教員採用試験での活用方法とその波及効果について言及する。


提案2
 英語教師のTOEFL・TOEICの必要性の一考察~高校英語教育現場から~
   三岩晶子(和歌山県立日高高等学校)

 2003年3月末、文部科学省の「『英語が使える日本人』の育成のための行動計画」の公表により、英語教師の英語力の具体的な数値目標がTOEFL・TOEICのスコアで具体的に示された。これ以来、この数値によって指導能力が明確に数値化されるのではないかと議論を呼んできた。TOEFLは英語圏の大学・大学院等への留学に必要な語学能力、TOEICはビジネスコミュニケーション能力を測る試験であり,日本の中等教育段階の生徒への英語指導内容・目標との差は大きように思われる。
 本提案では、高校英語教育の現場から、以下の順でTOEFL・TOEICの必要性について考察する。この両試験は2006年5月に改訂されたことにも触れる。
(1) TOEFLの問題傾向と高等学校の英語指導内容との関連性
  TOEFLの各セクションの問題と、高等学校で一般的に履修されている科目の英語Ⅰ,Ⅱ、OCI、リーディング、ライティングの教科書の指導内容との比較を行い、指導内容の差を検討する。
(2) TOEICの問題傾向と高等学校の英語指導内容との関連性
TOEICの各セクションの問題を、(1) の方法と同様に行う。
(3) 高校生が期待する英語教師の英語力
 多様な学力差のある生徒を対象にアンケート調査を行い、その結果を報告する。これをふまえて、教師に必要な英語力を見直す。
(4) まとめ
 英語教師にかかる諸問題に触れ、今後私たちのTOEFL・TOEICへの取り組み方で結ぶ。

提案3
 TOEFL・TOEICで英語教師の力量が測れるか
   古家貴雄(山梨大学教育人間科学部)

 「TOEFL・TOEICで英語教師の力量が測れるか」というテーマについて、主に英語教師の力量とは何か、そして、文部科学省の言う「英語を使用する活動を積み重ねながらコミュニケーション能力の育成を図る授業を行う」のに必要な英語の中身は何か、ということを中心に考察し、その後に、そのような教師の英語力、力量とTOEFL・TOEICというテストとの関係を考えてみたい。ただ、これらの2つのテストで英語教師の力量なんか測れないとする立場を前提としてこのテーマに迫るのではなく、これらのテストが日本の英語教員の英語力に寄与する可能性や、教員採用試験での利用価値をも考える中で、バランスの取れた視点の中でこのテーマにアプローチしてみたい。
 なお、このテーマには2つの方向からの接近が可能である。1つは、TOEFL・TOEICというテストの性質や本質は何かということからはじめて、それと英語教師の力量との関係を探るという方向、もう1つは、英語教師の力量とは何かからはじめて、それに必要十分な英語力を検討し、最後にそれと2つのテストとの関係を探る方向である。本発表は後者の方向からのアプローチになろうかと思われる。
 いずれにしてもかなり難しい議論になるであろうことは間違いない。力量に対するテストの妥当性をある根拠をもとに断言するのがかなり難しいと思うからだ。


問題別討論会
第3会場 (G-306)

入試センター試験へのリスニング導入を検討する
 司会者:杉野直樹(立命館大学)
 提案者:小栗裕子(滋賀県立大学)
       近藤泰城(三重県立桑名高等学校)
       吉本悦子(和歌山県立那賀高校)

杉野直樹 (立命館大学)
  この問題別討論会では、昨年度の山梨大会から引き続き、「大学入試センター試験へのリスニングテスト導入」をテーマとする。まず、吉本悦子先生(和歌山県立那賀高等学校)・近藤泰城先生(三重県立桑名高等学校)に、SELHi・進学校でのリスニングテスト導入を受けた指導実践における変化を、続いて小栗裕子先生(滋賀県立大学)に、リスニングテストを実際に受験して進学した学生の実態を、それぞれご報告いただく。大学入試を間に挟む「送り出し側」と「受け入れ側」のそれぞれの立場から、センター試験へのリスニングテスト導入が高校での英語教育にもたらした影響や意義を検討することを通して、今後のリスニング指導に対する示唆を得ることを目指したい。

提案1
 The DNS Listening Comprehension Test: Has it Had Any Effect on Improving Ability?
 小栗裕子(滋賀県立大学) 
 この発表は、今春センター試験のリスニング・テストを受験したある公立大学1年生と、現在彼/彼女らの「英会話」を担当している外国人講師に対して行った次のような(暫定的な)アンケート調査の結果とその分析である。新1年生に対して、このテストの難易度、それに備えた学習法などついて質問紙による調査を行なった。具体的には、彼/彼女らがどの問題により困難を感じたか、高校でどのようなリスニング指導を受け、どのような点が試験で役立ったのか(または役立たなかったのか)、また個人的にどのような準備をしたかを調べた。
  一方、大学でこれらの学生に「英会話」を教えている4人の外国人講師を対象に、今年度の学生が過去の学生と比較してクラスで何らかの違いを示していると思うか(または思わないか)を調査した。この発表では、これらの調査結果からセンター入試の第1回リスニング・テストが英語の学習や教授に与えた波紋を探ってみた。

提案2
 DNC's Listening Comprehension Test: A Giant Step Forward in Improving High School English Education in Japan
 近藤泰城(三重県立桑名高等学校)

 「リスニング導入」は間違いなくよいことだ。なぜなら、どちらかと言えば保守的と思われる進学校がいっきにリスニング対策に乗り出したからである。リスニング対策の教材の市場規模はいっきに拡大したと思われる。筆者は現在、受験の3年生に映画を題材に授業を行っている。これまでの進学校では批判を受けかねない設定であるが、好意的に受け入れられている。これを可能にしたのもセンター試験へのリスニング導入であると感じている。この授業の様子についても報告したい。しかし、指導方法については、改善の余地があるように思われる。「リスニング」だから「聞かせる」だけに終わっていないだろうか?三重の集中研修の内容を基に効果的なリスニング指導について考えたい。初回であったこともあり、2006年1月のセンター入試リスニング問題は易しかったと言われている。今後レベルアップが望まれるのではなかろうか?読み上げ速度を上げる、繰り返さないなどが考えられる。前回のレベルだと、「それほど対策しなくても」と考えられてしまうかもしれない。「大学入試は日本の英語教育のプレデタ(靜哲人)」の言葉通り、大学入試は高校英語教育に非常に大きな影響力を持っている。高校英語教育の改善のために、大学入試の力を借りたいと考える。

提案者3
  吉本悦子(和歌山県立那賀高校)

(1)DNC listening comprehension test の実施に際して
 大学入試センターテストへのリスニングテスト導入については、以前、某出版社の方から平成11年度から実施と聞いたが現実には17年度からの実施となった。予想される種々の問題をクリアするのに長い年月が必要だったのだろうが、今年度実施されたことは英語教育の現場にいる者にとっては歓迎すべき事である。ICプレーヤー・イヤホン・音声メモリーも工夫されている。492,555名の受験生中、453名( 2006年1月23日現在)が再受験を余儀なくされたのは残念なことだが、今後更に改善が加えられるものと期待している。
(2)DNC listening comprehension test の分析
 試行テストに準じた形式・設問数であった。読み上げられた英文の総語数は1024語で、試行テストに比べると40語程度増加し、読み上げられる速さは約140語/分(140WPM)程度で、試行テストと比べてややゆっくりとなっている。試行テストの平均点は30.42点、大学入試センターテストでは35.365点(大学入試センター公表値)で得点率は72.50%となっている。昨年度の試行テストの受験生が高校2年生で、その後リスニング対策が講じられたことを考慮すると、今回のテストの難易度は標準的である。
(3)DNC listening comprehension test は高校の英語教育を変えるか
    高校入試にリスニングテストが導入されて久しいが中学校の英語教育はどのように変化したのか。高校の英語教育現場はどのように変わるのだろうか。授業でリスニングテストが実施されるようになり、家庭での聴取用にCD付きリスニング問題集を持たせる学校が増加している。しかし、リスニングだけで終わらせないためには日頃の授業をどのように改善していけばよいのか。SELHi指定校に勤務するものとしての視点から考えてみる。
 (4)高校の英語教育を変えるカギは英語教師にある
   高校の英語教育は変わってきていると言える。改革の担い手は一人一人の教師である。DNC listening comprehension test の導入は改革を促進する一つの手段。