中部地区英語教育学会設立40年の節目に思う

大下邦幸会長

2010年度会長 大下邦幸

中部地区英語教育学会は,故鳥居次好先生,本学会名誉会長佐々木昭先生,故茨山良夫先生の語らいの中から生まれた。そして学としての英語教育を目指そうとの熱い思いを込めて1971年に本学会は設立された。『紀要』巻末の学会通信の冒頭に掲げられている「中部地区英語教育学会・設立趣意書」には,設立に寄せての熱い思いが切々と述べられている。

その趣意書の中でとりわけ注目したいのは,最後の段落に述べられている次のようなくだりである。

「以上は,本学会設立の一応の趣旨として掲げたものでありますが,この趣旨そのものにも,なお検討の余地がじゅうぶんにあるものと思われます。特に英語教育を一つの学問として樹立しうるとする根拠,あるいは,それを学問として追究する方法等については,なお幾多の異なった見解があるものと判断されます。本学会は,その設立後といえども,常に謙虚な態度をもって,これらに検討を加えていこうとするものであります。」

この設立趣意書には,学会は常に進化を遂げていかなければならないと明確に述べられている。実際この趣旨に沿って,中部地区英語教育学会は随時進化を遂げている。1999年には,2~3年をかけて特定のテーマを継続的に研究する課題別研究プロジェクトが開始され,2003年のポスターセッションの導入,2005年からは若手会員の研究能力アップを目指す英語教育研究法セミナーの実施,2007年の学会賞の創設等,時々の要請に応えて活動内容を充実させてきた。またそうした活動とは別に,本年度は学会設立40年を記念して,『紀要』1号から40号に掲載されているすべての研究論文と実践報告をDVD-Romに収録し,会員各位に送付することになっている。これも学会としては画期的なことである。

このように中部地区英語教育学会は,会員の支援のもと,着実に発展を遂げている。しかしながら学会の前途は洋々であるかというと,必ずしもそうではないかも知れない。教育環境の急激な変化や教育施策の目まぐるしい変更の中,英語教育に携わる教員も例外なく多忙を極めている。そのような中で,英語教育に研究的に取り組もうという気運が薄らぎ,ひいては学会に対する関心も薄らいできているのではないだろうか。またさらに学会のありようについても少々気になる変化の兆しが見られる。近年の論文を見ると,大学院の急増が影響してか,英語教育の理論面での研究は積極的に行われるようになってきているが,理論面を重視するあまり,地道な実践に根付いた研究は軽視されがちになっているようにも思える。

もちろん中部地区英語教育学会は,学としての英語教育を追求する学会である。英語教育の理論面での研究は重視されるべきではあるが,本学会には伝統的に大事にしてきた特徴がある。それは実践の重視ということである。言うまでもなく理論と実践ではどちらが上でどちらが下という議論は不毛である。理論は英語教育の諸々の事象を論理的に説明してくれる場合もあるが,それだけでは空理空論になり,研究が薄っぺらなものになりがちである。理論によって得られるいわゆる理論知は実践に裏付けされた経験知と相まって説得力を増すのである。

中部地区英語教育学会の実践を尊重するというこの伝統は,現場で日々実践を重ねている教師にとって大きな福音である。私自身も,中部地区英語教育学会のこの伝統に触発されて英語教育の改善を目指してきた者の一人である。教員になって程なく,恩師に勧められて,設立間もない中部地区英語教育学会に入会した。そして学会に参加し,いろいろな発表を聞き,また自分自身も発表を重ねる中で,貴重なアイディアや英語教育へのエネルギーを得ることができた。まさに本学会に育てられたのだと言っても過言ではない。

学会設立40年の節目を迎えるに当たり,本学会がこれまで大事にしてきた伝統を守り,英語教育の改善を目指すすべての人にとって大きな拠り所であり続けるよう,微力ではあるが力を尽くすことができればと考えている。