◇◆◇◆◇ 6月25日(土) ◇◆◇◆◇
自由研究発表 第1日 第1室 @
英語を苦手とする高校生はどのように英語ライティングに取り組むか
佐藤 雄大 (名古屋大学大学院)
英語学習においてアウトプット、特に英作文あるいは英語ライティング教育の重要性がますます見直されてきている。一方、英語を苦手としている学習者にとって英語でものを書くということはもっとも難しいと感じるものであり、教員もどのように教えるか悩まされる課題となっている。
今回基礎的な英語能力の到達度を測定するリーディング,
リスニング,
ライティングの三つのセクションで構成された英語コミュニケーション能力テストGTEC
for STUDENTS Basicを英語を苦手とする高校生が受験した結果をもとに、おのおの三つのセクションにどのような特徴があるか、そしてその特徴が英語ライティング能力とどのような連関を持つかを以下の観点を中心に報告したい。
第一にリーディングセクション、リスニングセクションとライティングセクションとのスコアにどのような相関関係があるか。
第二にライティングセクションにおける生徒が取り組んだプロダクトを語彙数、結束数などの特徴(要因)から何がプロダクトに対して有意な影響を与えているかを考えてみたい。
第三に英語を苦手と感じている高校生が実際英語ライティングに取り組むとき何を考え、どのように取り組んだか、そして書いた後何をしたかなどをアンケートを用いて調査した結果も併せて報告したい。
自由研究発表 第1日 第1室 A
日本人初級英語学習者の自由英作文能力の要因についての分析:パイロットスタディ
平林 健治 (愛知新城大谷大学)
第1言語(以下L1)、第2言語(以下L2)におけるライティングに関する研究は、過去数十年にわたって内外で行われてきている。人間がライティングという活動を行う際には、非常に多くの要因が絡んでいるため、言語的、認知的、社会的などさまざまな側面から研究がなされなければならなくなる。例えば、L1ライティングのメカニズム、ライティングのストラテジー、ライティング能力、指導方法、評価法などの側面から研究がなされてきている。
こうした先行研究を踏まえても、本研究で扱う日本人高校生のような初級英語学習者のFW能力の要因を明らかする研究はほとんどなされていないのが現状である。類似した研究にSasaki
& Hirose (1996)(そのパイロットスタディとしてHirose &
Sasaki ,1994がある)があり、日本人大学生を対象として言語的側面からのL1/L2のProficiency、認知的側面からのwriting
strategy、さらに過去におけるwriting experience やinstructional
background
からFW能力の要因を詳細に分析している。しかし、この被験者は大学受験のためにかなりの英語学習を終えており、初級の英語学習者とは言い難いと思われる。
そこで本研究では外国語としての英語でFW活動がある程度可能になったと考えられる高校生を被験者とし、初級レベルの日本人英語学習者のFW能力に影響を与える要因とその各要因間の関係を探求し、そのモデル化をはかることを目指すものである。これらが判明すれば、日本人高校生のような初級の英語学習者に対して、FW指導の導入期にはどのような指導を行っていけばよいのかも明らかになると考えられる。
自由研究発表 第1日 第1室 B
プロセスを重視した自由英作文指導:Scholes & KlausのElements
of Writingを応用して
西村 友紀子 (岐阜聖徳学園大学非常勤)
私たちにとって外国語である英語でのライティングは学ぶ上でも指導する上でも大変難しいが、ライティング指導の必要性は実用的な意味からも教育的な意味からもとても高い。中でも、自身の考えをまとまりのあるものとして書くことを目標とする自由英作文指導はライティング教育においてその高い意義が認められる。「書く」という行為は意味を発見していくことであるという考えに基づき「過程」を重視するプロセス・ライティングや、考えの「まとまり」であるパラグラフを中心に学んでいくパラグラフ・ライティングなど、自由英作文指導において重要なものと考えられ実践されている。
しかし同時に、英語で書くことを指導するとき、まだまだ多くの問題が残っていることも事実である。たとえば、パラグラフを構成していく一文一文をどうやって構築していけばいいのか、どのように文と文をつないでいけば英語として読みやすい「流れ」を作ることができるのか、あることを言い表すことのできる表現がいくつかあるとき何を指針に決めればよいのか、といったことなどである。こういった問題は、英語のライティングにおいて最も基礎的な行為についてのものであるにもかかわらず、説明するのは難しく、実際にはライティングの指導書においてもあまり触れられていないようである。
本研究は、外国語学部2年生対象の選択科目「中級英作文」において、ライティングのプロセスやパラグラフの学習に加え、ある英語母語話者向けライティング指導書を基にしてsentence
constructionやsequenceといった問題についても指導を試みた、その報告である。発表では、具体的な授業内容、授業目標を紹介するとともに、学生の実際の作文とコース終了時のself-reflectionをもとにその指導の成果について報告する。同時に、自由英作文指導の持つ可能性についても考察する。
自由研究発表 第1日 第1室 C
英文統語構造の理解の定着を促進する作業タスクについて:
統制型英作文におけるword-unit整序タスクとphrase-unit整序タスクの有効性の比較
坂本 智香 (神戸学院大学)、石川 慎一郎 (神戸大学)
いわゆる英作文には,自由英作と統制型英作がある.このうち,高校の指導現場で多く用いられるのは後者のタイプである.統制型英作では文要素を並べ替える作業が主となるが,整序させる文要素には語,句,文,段落などいくつかのバリエーションが見られる(高梨・高橋,1990,p.273-74).
大学入試に同種の問題が頻出することもあり,高校の英作指導として一般的にタスクとして与えられるのは語の単位の並べ替え,すなわちword-unitの整序である.しかし,こうしたword-unit整序タスクについては,苦手とする高校生が非常に多く,その実際的な効果は必ずしも明らかではない.word-unit整序は一から文を構築することが求められるため,総合的な作文能力の訓練に適している反面,局所的な語と語のつながりが重視され,SVOCといったより大きな文要素への意識が弱まるという問題も考えられる.だとすれば,英文統語構造の理解がいまだ十分ではない高校の初級段階では,word-unit整序タスクよりも,むしろphrase-unit整序タスクを与えたほうが指導の有効性が高いのではないだろうか.
以上の点をふまえ,本研究では,word-unit整序タスクとphrase-unit整序タスクのいずれが英文統語構造の理解の定着を促進する上で有効であるかを比較検証することとした.具体的には,2種類の異なる整序タスク(word-unit整序,phrase-unit整序)を用意し,2クラスにおいていずれか一方のタスクを一定期間指導し,word-unit整序型のプレテストとポストテストの結果を比較する.被験者は,私立高校の1年生(2クラス,各34名,合計68名)である.実験の結果,両クラスのテスト結果には一定の違いが表れた.本発表では結果,およびその考察の報告を行う.
自由研究発表 第1日 第2室 @
日本人英語話者におけるアスペクトの習得
奥脇 奈津美 (都留文科大学)
第二言語習得研究において、学習者は、習得過程で得られる肯定証拠に基づいて第二言語における「形式と意味」の関係を習得できるか、という問題がある。特に、アスペクト体系の発達に関する研究は注目されている。アスペクト仮説では、第二言語学習者が形式に付与するアスペクトやテンスの意味は肯定証拠に基づいて次第に発達していくと仮定する(Andersen
1991; Andersen and Shirai 1996; Bardovi-Harlig 1999)。このことは、学習者に内在するテンス・アスペクトに関する第二言語文法が、最終的にはネイティブスピーカーの文法に近づくということを示唆していると考えられる。一方、第二言語習得における第一言語転移理論に関する研究(Schwartz
and Sprouse 1996, Housen 2000)では、第二言語話者は特定の言語項目については第一言語の特徴を'unlern'するのは困難であるとされ、母語話者のもつ文法と同様のものを習得するのは難しいとされている。
本研究では、日本人の上級・中級レベル英語話者におけるアスペクトの習得を調べた。上級・中級レベル話者(それぞれ15人)と母語話者(15人)に、解釈許容度テストをおよび発話テストを行った。これらの言語実験を通して、1)アスペクト体系はどのような発達過程を経るのか、2)上級レベル話者の第二言語文法は母語話者のもつアスペクト体系に最終的にどこまで近づくか、3)第一言語の影響があるとすればアスペクト項目のどこに現れるか、を調べることを目的とした。
実験の結果を、第一言語の影響、最終的に到達できる第二言語文法、解釈と発話の違いに言及しながら考察する。
自由研究発表 第1日 第2室 A
英文法指導に関する一提案(X)−用法基盤モデルからSyntactic
structuresの習得を考える−
今井 隆夫 (愛知みずほ大学)
Tomaselloが用法基盤モデルを提示していることにも支持されるが、Langackerのカテゴリー化のモデルが言語習得にも当てはまると考えられる。初めに典型事例(prototype)としての構文を記憶する。これは、何度か触れることによって初めに擦り込まれた文であり、個人個人異なるものである。例えば、Have
you ever been to Europe?という文が初めにすり込まれたとする。この場合、抽象的なスキーマとしてはHave
you ever been to NP?というものが形成され、NPを入れかえることが生成的(generative)に行われる。その後、Have
you ever been awake all night?やHave you ever skied?などの文がすり込まれる。これは、その個人にとっての拡張事例と捉えられる。この段階でのスキーマは、Have
you ever V-en + α?というより汎用性の高いものに修正される。その後は、Vt+NPのCollocationsやAPなどを覚えることで、生成できる文の数が増加する。
英語の学習方法はESL環境とEFL環境では、それぞれの環境の利点を生かし、より効率的な方法で学習するためには、違った学習方法がとられることが必要であると思われる。EFLの環境では、@母語話者にとってはsubconsciousレベルの知識である「認知様式の違い」を学び、A多くの用例に触れながら、英語表現を摺り込むことが有効であると考える。
本研究では、上記Aの部分に関連して、学習者が言いたいことを英語で表現できるにはどのようなCollocationsを知っている必要があるかを調査により明らかにし、学習材発展に役立てようというものである。
自由研究発表 第1日 第2室 B
英語習熟度とtense/aspect markingの関連
松井 正 (樟蔭高等学校)
英語習熟度とtense/aspect markingの関連を考察するため、Bardovi-Harlig(1992,1998)、Bardovi-Harlig
& Reynolds(1995)、Robison(1995)の先行研究をもとに調査をおこなった。被験者は日本人高校2年生56名で、上位群(n=19)、中位群(n=18)、下位群(n=19)に分けた。調査問題はstate動詞(以下、STA)現在、STA過去、achievement動詞(以下、ACH)現在、ACH過去の4種類の動詞タイプで、各タイプ6問ずつ4択の解答形式で作成した。
分散分析の結果、習熟度(F=23.491)と動詞タイプ(F=4.533)の主効果は有意であったが(p<.01)、これらの交互作用は有意ではなかった(F=
.494)。また、習熟度間の平均値差は、上位群と下位群の間ではSTA現在、ACH現在、ACH過去が有意で(p<.01)、上位群と中位群の間ではACH現在が有意であった(p<.05)。中位群と下位群の間ではいずれの動詞タイプも有意ではなかった。
動詞タイプごとに習熟度間の解答傾向を検討すると、STA現在では下位群において現在完了との混同が見られた。また、ACH現在で複文の主節と従属節を比較すると、主節の方が正当率が低く、中位群では過去時制および現在完了の誤答が、下位群では過去時制の誤答が目立った。さらに、ACH過去においては、上位群と比較すると中位群と下位群で現在完了および過去完了との混同が見られた。これらの結果を踏まえて、本発表では英語習熟度に応じたtense/aspectの指導についても言及する予定である。
自由研究発表 第1日 第2室 C
授与動詞における文の書き換えについて
鏑木 修 (静岡市立商業高等学校)
学習英文法において、文型(特に動詞文型)が広く扱われている。そして動詞に基づく五文型の中で、第4文型の第3文型への転換(書き換え)がほぼ100パーセントの参考書等に記述されている。それらは全て、統語的な構造の記述・解説を行う一方で、統語的な違いはあるが、両文とも同義あるいは統語的に移動した語句の意味的な強調のみが生じるとの解説にとどまる。すなわち意味論的な記述・解説はほとんどない。
果たして、第4文型から第3文型への書き換えは、統語的な差異のみで、意味的には同義と認知されるのであろうか?
本論考は上記の疑問を究明し、学習英文法書および検定教科書等の記述を一考するところに一つの目的がある。
上記の考察を行うにあたり以下の2文の意味を例として吟味していただきたい。
I sent my son to the doctor. (第3文型)
I sent the doctor my son. (第4文型)
自由研究発表 第1日 第3室 @
A Comparative Analysis of Current Junior High School Textbooks in Japan and
China
穆 蘭 (信州大学大学院)
As a very important vehicle of foreign cultures, a good English textbook
undoubtedly can foster the students' intercultural understanding competence.
This study is to investigate 2 kinds of Chinese English textbooks and 3
kinds of Japanese English textbooks from the viewpoint of intercultural
understanding education. There have been some antecedent studies on the
comparison of the English textbooks these years, but the Chinese English
textbooks have been revised several times after that and the Japan ones have
been revised as well. This study is to investigate the latest versions which
have been authorized by those two countries.
The perspective of this study is on the setting situation, character,
utterance frequency and the classification of cultural matters dealt with in
the textbooks. The writer hopes this study can give a specific description
on the English textbooks currently used in Japan and China. By this
analysis, some valuable advices on Chinese English education and
intercultural understanding education can be given in future.
自由研究発表 第1日 第3室 A
Training Future English Teachers to Assess the Reliability of
Foreign-Culture Informants
Redford Steve (静岡大学)
As junior and senior high school English teachers are often expected to take
on secondary roles as teachers of cross-cultural understanding, it is
crucial that they themselves develop savvy in recognizing unreliable sources
of cultural information. Recognizing that unreliable cultural
"interpreters" are far from unusual is a key first step in
developing this savvy. This presentation introduces and discusses materials
used in teaching recognition of unreliable foreign-culture informants in
"Advanced Studies in Cross-Cultural Understanding" ("Hikaku
bunka tokuron"), for students majoring in English education at a
national university.
自由研究発表 第1日 第3室 B
発展途上国の英語教育に学ぶ―ベトナムの場合―
川畑 松晴 (金沢学院大学)
発展途上国において、英語はITと共に経済復興に直結する技能とみなされる傾向が非常に強く、多くの若者がこれらの技能を習得し、安定した職業に就き貧困から脱却することを夢見ている。ASEAN(東南アジア諸国連合)の多くの国がそうである。ベトナムをはじめ後発加盟国(ミャンマー、ラオス、カンボジア)は、これらの技能を備えた労働者の養成を国家戦略として位置づけ、対外支援も得ながら熱心に取り組んでいる。とくに英語はインターネットを駆使するための前提技能とも見なされ、市場性が高い。そのため「先進国」からの支援・投資も豊かで急速な進歩を見せており、その実情は必ずしも「遅れた後進国のレベル」として等閑視されるべきではない。
異文化との接触は自分を見る鏡の役割を果たす。EFL(外国語としての英語教育)の一つの事例として、わが国の英語教育をあらためて見直す材料として、ベトナムの中学校英語教科書(国定)の分析を試みる。
1.ベトナムの新・旧教科書の比較
2.日本の主要な教科書との比較
3.わが国の英語教育への示唆
自由研究発表 第1日 第3室 C
英語教育におけるCCM導入の可能性と問題点
東川 直樹 (大阪大学大学院)
英語教育の目的の一つは学習者の英語によるコミュニケーション能力・資質の向上にある。わが国の場合、大多数の学習者は日本語母語話者であり、英語は異言語である。従って、英語教育は異言語・異文化コミュニケーション教育といった側面を持つ。
本発表では、英語教育における異文化理解の深めるアプローチの一つとしてContrast
Culture Methodを取り上げ、その可能性と問題点について触れてみたい。
自由研究発表 第1日 第4室 @
Creating an English Curriculum for Engineers
Quinn Kelly (名古屋工業大学)
This presentation will discuss recent changes in the curriculum at Nagoya
Institute of Technology. This presentation will explain changes in the
entrance exam, the standardization and unification of the curriculum and the
use of a unified exam to confirm students' grasp of the key components of
the curriculum. Special emphasis will be given to a correlation study
comparing the results of the content based exam to the TOEIC scores the
students received when they entered the university.
自由研究発表 第1日 第4室 A
Japanese EFL Learners' Use of the Vocabulary in Oral Production: A Study
Based on The NICT JLE Corpus
石川 慎一郎 (神戸大学)
In 2004, National Institute of Information and Communications Technology (NICT)
released "The NICT JLE Corpus," which includes speech data of
1,200 Japanese EFL learners with various levels of language proficiency.
NICT JLE corpus, one of the largest learners' corpora of spoken English now
available, is expected to reveal new facts about features seen in Japanese
EFL learner's oral production (Izumi, Uchimoto & Isahara, 2004; Izumi,
2005).
In this paper, we will mainly discuss the vocabulary used by learners at
various proficiency stages. For example, the top ten most frequent words for
novice learners (SST Level 1-3) are "I, is, to, Yes, the, and, And, a,
my, you," and the total ratio of these ten words reaches 25.34%. In the
case of intermediate learners (SST Level 4-7), they are "I, the, to,
is, and, a, And, in, So, you" (23.22%), and in that of upper
intermediate and advanced learners (SST Level 8-9), they are "I, the,
to, a, And, and, you, it, was, in" (24.42%). This suggests that novice
learners tend to use high-frequent words more repeatedly (See Ringbom, 1998)
and their discourse is basically "I-centered" (Ishikawa 2005).
Meanwhile, advanced learners seem to pay more attention to "you"
as a hearer in the process of communicative interaction, which implies more
matured speaker/ hearer involvement.
In the paper, topics such as frequent words, lexical variety, word level,
usage of function words, and prefab phrases are examined.
自由研究発表 第1日 第4室 B
A Pilot Project on English Education in No.1 and No.2 Korean-Chinese Middle
Schools at Shenyang City PR. China
崔 岩 (金沢大学留学生センター)
Recently, more and more foreign students have entered into Japanese
universities. Among them, most of foreign students are from China, and some
of the Chinese students are Korean-Chinese who are native speakers of
Chinese and Korean with fairly good ability of speaking Japanese. They,
however, basically had not taken English education when they were in middle
schools.
In this presentation, the present situation of English education in
Korean-Chinese middle schools at Shenyang City, China, will be analyzed with
figures and charts.
In order to get these data, the author conducted a pilot project
including a questionnaire in two Korean-Chinese middle schools in Shenyang.
It is supposed to be useful for Japanese university teachers when they teach
Korean-Chinese students.
自由研究発表 第1日 第4室 C
A Study on Idiom Teaching--The ideal teaching method and the current one in
English II classes at senior high schools-
三岩 晶子 (和歌山県立日高高等学校)
Idioms, more often than not, play the part of stumbling blocks in language
acquisition and communication. So, the significance of idiom teaching cannot
be made little of. The author has concluded that "Idioms should be
taught not in isolation but in the context," and "Idioms should be
taught by means of problem-solving tasks," in her research in 2002 and
2003.
Although she has suggested that these points should be applied to
teaching idioms, she still questions the realization at senior high schools
in Japan. Therefore, the purposes of this study are to research the current
situation of teaching idioms in the classes and to suggest more effective
idiom teaching method in them. Since she was in charge of mainly English II
classes in the 2004 school year, she focuses on these classes in this study.
In the first part of this study, the ideal idiom teaching method is
reviewed based on the previous studies. In the second, the current idiom
teaching method in English II classes is researched from two viewpoints of
teaching procedures and teaching materials. The results are discussed and
compared with the ideal one. Lastly, suggestions are made on the effective
idiom teaching method in these English II classes.
自由研究発表 第1日 第5室 @
各種クラスルーム・スピーキングテストの性能評価法
佐々木 將 (静岡大学大学院)
本研究は、教室内で行われるダイレクト・オーラル・イングリッシュ・スピーキングテスト(以下、スピーキングテスト)が、どのような特徴を持ち、どの程度スピーキングテストが満たすべき条件を備えているのかを評価する分析項目および分析表を作成することを目的とする。「実践的コミュニケーション能力」の育成が謳われ、ことに音声面の能力の育成が重視されるようになってきている昨今、手軽に教室内で行えるスピーキングテストの開発が急務となっている。そこで、開発されたテストがどのような特徴を持っているかを評価する方法が必要だと考えた。
スピーキングテストの分析項目を考えるにあたって、本研究では主に
(1) Backman (2) Weir (3) Carol
らの提唱するテスティング理論を参考にし、@信頼性、A妥当性、B実用性、C真正性、D相互性、E影響という項目を採用している。彼らの理論に加えて、本研究ではさらに「F必然性」という分析項目を採用している。これは、「直接的面接法テストは、ほかのテストに比べて人的・時間的コストがかかるという難点があるため、スピーキングテストのタスクのうち、筆記テストやリスニングテストといったより簡便なテストで代行可能なものはそちらに移行させ、どうしても直接的面接法でしか扱えないタスクのみに集中して、スピーキングテストを行う」という発想である。本発表ではそれら7項目を利用し、既存のクラスルーム・スピーキングテストを実際に分析し、その結果を発表する。本研究により、理論と実践の架け橋を架けることができれば幸いである。
自由研究発表 第1日 第5室 A
大学入試の高等学校の英語授業に対する波及効果について
伊佐地 恒久 (岐阜県立土岐紅陵高等学校)
大学入試の高等学校の英語授業に対する弊害が指摘されるようになって久しい。教師は大学入試に対応するために、文法・訳読式の授業を行い、コミュニケーション活動に時間が割けないとは、よく耳にする言葉である。その一方、別府(2003)は、大学入試準備が必要ない学校でも「英文和訳」は多く行われているなど、進学率の高低による授業内容の差はほとんど見られず、授業内容は、個々の教師が大学入試をどれだけ意識しているかに関わっていると述べている。また、Watanabe(1996,
2003)も、授業方法には大学入試よりも教師の要因の方が大きく影響していることを示した。
本研究では、大学入試の高校における英語の授業、とりわけリーディングの指導への波及効果を、岐阜県下38高校の122名の英語教師から得られた、1「授業を行う際、考慮する事」、2「授業で行う言語活動」、3「生徒にとって有効だと考える読解ストラテジー」の3種類のアンケート結果から検討する。対象は英語T・Uの授業とした。これらは4技能を扱う科目であるが、その中心は英文の内容理解であるし、これら科目の授業はほとんどすべての高校で行われており、比較が容易であると考えられるためである。言語活動は、「トップダウン活動」、「ボトムアップ活動」、「オーラル活動」の3種類に分類し、読解ストラテジーは、「トップダウン・ストラテジー」、「ボトムアップ・ストラテジー」の2種類に分類した。授業を行う際、考慮する事は、類型化はしていない。
リサーチ・クエスチョンは次の通りである。
RQ1
大学進学率70%以上の高校と30%未満の高校では、1〜3のアンケケート結果に違いはあるか?
RQ2
大学入試に対する意識の高い先生と低い先生では、1〜3のアンケケート結果に違いはあるか?
以上の結果から、大学入試の高等学校の英語授業に対する波及効果について検証する。
自由研究発表 第1日 第5室 B
オーラル・コミュニケーションの評価に対する考察
中川 裕規 (和歌山県立新宮高等学校・和歌山大学大学院)
本発表はオーラルコミュニケーションT・Uにおける評価のあり方についての考察である。英語教育現場においてオーラル・コミュニケーションの評価はどのように実施されているのだろうか?リスニングやスピーキング技能に対する評価の際に、共通した目標基準及び評価基準を持たず、評価の大半が教師の主観や直感に頼ったものになってはいないだろうか?本発表はそのような自然に湧き出た疑問に応えるべく、オーラル・コミュニケーションの評価の改善の糸口を探ろうとしたものである。
評価の先行研究は数ある中、その中でも1970年代初頭に開始されたGOML(Graded
Objectives in Modern Languages)運動の現場の教師たちによる外国語評価の実践は日本のオーラル・コミュニケーションの評価方法の改善のヒントにできるのではないかと考えた。外国語を「学習すべき完全なシステムとしての言葉」として捉えるのではなく、「コミュニケーションを図るための道具としての言葉」として捉えたGOMLの教師たちは、@タスク準拠 A目標準拠 B継続的 の3つの評価方法を根幹に置き、英国の外国語指導と評価の改善に大きく貢献した研究を行った。本発表はGOML運動の考え方と実践例を紹介することを通して、日本における英語教育、とりわけオーラル・コミュニケーションの評価方法についての方向性を提案したいと考える。本発表が日本におけるオーラル・コミュニケーションの評価改善の糸口に少しでも役立てれば幸いである。
自由研究発表 第1日 第5室 C
EFLインタビューテストにおける全体的評価:どちらがより信頼できるのか、全体的評価、それとも分析的評価?
小林 俊一郎 (山梨県立巨摩高等学校)
言語学習者のプロダクティブスキル(スピーキングやライティング)の言語運用能力を直接測定する測定法としてHolistic評価法とAnalytic評価法があるが、ESL環境の日本においては、信頼性の問題あるいは単に慣れの問題からか、Holistic評価法はAnalytic
評価法ほど用いられていない。オーラルパフォーマンスのインタビューテストに対するHolistic評価法はAnalytic評価法と同じ結果が得られるのか。また評価者がNativeかNon-nativeか或いは専門的に熟練したJTEか否かによって結果に違いが生じるのか。更にはHolistic評価時に採点者が使用する尺度がraterによって異なるのか否か、そしてその採点結果に違いが生じるのか否かに焦点を当てて検証する。
自由研究発表 第1日 第6室 @
高等学校における「シラバス」作成の実際と指導法への示唆
飯野 厚 (清泉女学院短期大学)
学習者に対するシラバスの提示は、学力格差や学習意欲の問題を解消し、授業改善のきっかけとなることが期待されるため、大学をはじめとする高等教育機関のみならず、中学校・高等学校においてもその作成が推進されている。
中等教育における「シラバス」作成が活発化している背景には平成15年以来、文部科学省によって推進されている学力向上アクションプランにおける学力向上フロンティア事業である。中学校・高等学校において学力向上フロンティアスクール(ハイスクール)を全国の地域に指定し、学習意欲と学力向上の全校的実践を推奨している。これらの実践報告をもとに、近隣地域において成功する実践の普及を目指している点は、セルハイと同種のアプローチである。
着目したいのは、中高の「シラバス」は、大学のシラバスとは作成の意図が多少異なる点である。大学では、授業の概要を、学生を対象に示すことがねらわれている。中高では、生徒向けであり且つ保護者への教育内容のアカウンタビリティを充足するための対外的な資料といった性質もあるように考えられる。
本発表では、高等学校における「シラバス」の実践例を検討する。これらの中には、作成者(当該校教師陣)の英語観、英語指導観、英語学習観が垣間見られるものも少なくない。また、生徒の意欲的、能力的個人差に対応する目的から、学習方法(ストラテジー)に関する具体的なアドバイスや、綿密な授業計画や具体的な評価方法の提示も見られる。
これらの現状を加味して、発表者が10年次教員研修において試みた「シラバス」作成と指導法改善の経験についても報告する。そこで、「シラバス」作成そのものが個々の教育経験の整理に役立つことや、職員間のコンセンサスづくりに果たす役割についても触れる。また、「シラバス」を実践に移した段階におけるアクションリサーチ的な授業改善の具体例についても言及する。
自由研究発表 第1日 第6室 A
英語学習カウンセリングを通した自律学習支援の必要性―認知カウンセリング理論による検証―
柴田 里実 (名古屋学院大学)
本研究は、名古屋学院大学、基礎教育センター(英語)において実施されている英語カウンセリングを市川(1989)が提唱する認知カウンセリングの視点から検証し、自律学習支援の必要性について論じる。
名古屋学院大学では2004年度4月より開設した基礎教育センターで、英語学習カウンセリングを通し自律学習の支援を行っている。活動内容は主に以下の4点である。
@ 英語学習に関するカウンセリングの実施
A 上記@に基づいた自学自習課題の提供
B 英会話授業の実施
C
英会話ラウンジ(昼食を取りながら英語で自由に話すことのできる時間)
上記4つの活動項目を基盤に、来訪する学生の抱える問題点を話し合い、質の高い英語学習カウンセリングを提供し、自律学習者へと育てていくことを目指して日々活動している。来訪者数は、浸透までに時間がかかることも予想されたが、当初予想していた以上に反響があり、連日約50名以上の学生が来訪している(柴田2005、印刷中)。このことから、英語学習カウンセリングの必要性及び、自律学習支援施設の必要性が伺える。
基礎教育センターが設立して2年目を迎える今年度は、英語学習カウンセリングのニーズの高さからも、これまで実施してきた英語学習カウンセリングの改善、及び、より質の高いカウンセリングシステムを確立していくことは急務であるといえる。そこで、本研究ではこれまで実施してきた英語学習カウンセリングの実践を報告すると共に、その事例を市川(1989)が提唱する認知カウンセリング理論をもとに検証し、自律学習支援の必要性について論じる。
自由研究発表 第1日 第6室 C
英語Uにおける習熟度別授業の効果―高等学校での追跡調査から―
佐々木 敏光 (和歌山大学大学院)
習熟度別授業は、児童・生徒の学力を向上させる切り札となり得るのか。本研究では英語Iで習熟度別授業を実施している高等学校での2年間の調査を基に、習熟度別授業の効果を検証する。
欧米では、習熟度別授業(Tracking、Ability grouping)は1950年代にはじまり、1990年代になるとその有効性についての論争が起きた。それを十分に踏まえないまま、日本では2001年(平成13年)年度から本格的に導入された。2003年(平成15年)度、文部科学省の「公立小・中学校教育課程編成・実施状況調査」によれば、全国の小学校の74.2%、中学校の66.9%が「理解や習熟の程度に応じた指導を実施」している。習熟度別授業に対して、賛否両論があり、「子どもの学力の差が広がるのではないかと不安」に感じている教師、保護者も多い。
2002年(平成14年)度から3年計画で取り組まれた「学力向上フロンティアスクール」の成果報告によれば、習熟度別授業により中学校では全体として英語の成績が向上したとされている。また、生徒からも肯定的な意見が多い一方で、下位層の生徒の成績が伸び悩んでいるとの報告もある。そうであるならば、一部の生徒の切り捨てにつながる恐れがある。
本研究が、そうした疑問に応える一助となれば幸いである。
英語教育研究法セミナー
「研究法、データ分析法、論文を書く際の注意点」
コーディネーター: 浦野 研(北海学園大学)
提案者: 浦野 研
(北海学園大学)、酒井 英樹
(信州大学)、本田 勝久 (大阪教育大学)、
田中 武夫 (山梨大学)
コーディネーター
浦野 研 (北海学園大学)
本セミナーは、英語教育に関する研究をこれから始めようとする方や、既に研究を行っているものの、課題設定の仕方や研究手法等に自信の持てない方を主な対象に、研究を行う上で注意すべき点や取るべき手段など、特に研究方法に焦点を当てて提案、議論することを目的とする。また、既に英語教育研究を数多く行ってこられた方々にもぜひご参加いただき、活発な意見交換、質疑応答を期待したい。発表内容および発表順は次の通り:
1.「よい研究」の条件と種類 (浦野 研)
2.実験研究をすすめるときに (酒井英樹)
3.調査研究をすすめるときに (本田勝久)
4.研究論文の書き方・まとめ方 (田中武夫)
提案1 「よい研究」の条件と種類
浦野 研 (北海学園大学)
英語教育に関わる研究を行うとき、まずはその研究を何のために行うのかを明確にする必要がある。その上で、その目的を達成するために適切な研究課題を設定し、さらにその課題に対して適切な研究手法を選択、決定することが重要である。本発表では、特に実証研究(何らかのデータ・情報を集めることによって研究課題に対して答えを導き出す研究)を中心に取り上げ、英語教育研究の文脈における「よい研究」の条件について具体例を交えながら提案する。同時に、研究の種類として考えられる主な手法を紹介し、研究立案の段階で研究課題にふさわしい研究手法の選び方についても議論したい。また、これにつながる形で、続く2・3番目の発表では英語教育系の実証研究でよく用いられる実験研究と調査研究について、研究を行う上で注意すべき点などをご提案いただき、4番目の発表では研究を論文の形でまとめ、発表する際の注意点等をご提示いただく。
提案2 実験研究を進めるときに
酒井 英樹 (信州大学)
実験研究を進めていくときに留意すべき点を、(1)
研究課題の設定、(2) 研究方法の決定、(3)データの処理、に関して提示する。具体的には次のような疑問が生じたときに、指針を得られるようにしたい。リスニングを研究してみたいが、テーマがなかなか絞れない、どうしたらよいか。先行研究を検索するためにはどんな方法があるのか。十分な先行研究が必要だと言われるけど、どんな先行研究が必要か。タスクについて研究しよう、でもタスクって何だろう、定義を押さえるためにはどうしたらよいか。論文を読むときに配慮すべき点はあるか。実験計画をたてるときにどんなことに注意したらよいのだろうか。統計処理を意識して計画しなさいといわれるけど、どう意識すればよいか。予備実験って何のためにやるのか。統計処理を行うときの注意点は何か。統計に関して、わかりやすい参考書はないか。これら、すべての疑問に、的確に答えを示せるわけではないが、自分の経験や大学院等での指導経験をもとに、参考となる情報を参加者と共有したい。
提案3 調査研究を進めるときに
本田 勝久 (大阪教育大学)
2002年4月の文部科学省初等中等局長通知『指導要録の改善』では、評価方法に関する改善が強く求められ、これまでのペーパーテストによる評価に偏ることのないよう、観察法や面接法、質問紙法や学習者の学習記録などの様々な手段の利用が提言されている。本発表では、これらの手段によって得られた資料を分析するための調査研究
(survey)
を取り上げる。実験研究と同様に、調査研究を進める上での留意点を
(1) 研究課題の設定、(2) 研究方法の決定、(3)
データ処理に関してそれぞれ提示していく。データ処理については、相関研究
(correlational study) と質的研究 (qualitative study)
によるカテゴリカルデータ分析を中心に論を展開していく。たとえデータ処理が優れていても、「知りたいことが調べられなかったり」「無理な調査を行ったり」ということにならないために、できるだけ教室環境を考慮したリサーチ・デザインを取り上げたいと思っている。学習者をより多面的に理解し、これまで軽視されがちであった学習者の個人差を的確に把握するための調査研究になるように、参加者の方々とともに論議していきたい。
提案4 研究論文の書き方・まとめ方
田中 武夫 (山梨大学)
どのような研究であれ、最終的には研究論文の形にまとめることになる。この論文作成は、研究プロセスの最終段階とも言え、内容が優れた研究であっても最終段階の論文作成がまずければ良い研究にはならない。本発表では、英語教育に関する研究論文をどのようにまとめればよいのか、どのように研究論文を書くべきなのか基本的な事柄についてポイントを提示する。具体的には、(1)
研究論文によくあるケースにはどのようなものがあるのか、(2)
良い研究論文の規準とはどのようなものか、(3)
良い研究論文の構成とはどのようなものか、(4)
読者にとって読みやすい論文をどのようにして書けばよいのか、について、これまでの個人の経験や大学院等での指導経験をもとに、自分の反省をも含めて提示することにする。
シンポジウム 「英語の学力低下問題について論ず―その現状と克服方法―」
司会者:
渡邉 時夫 (清泉女学院大学)、古家 貴雄 (山梨大学)
パネリスト: 青木 昭六
(愛知学院大学)、杉野 直樹 (立命館大学)、
鷹野 英仁 (山梨県甲斐市立竜王北中学校)
司会者
渡邉 時夫 (清泉女学院大学)、古家 貴雄 (山梨大学)
最近、新学習指導要領が打ち出した「ゆとり」の教育に対し、各方面から非難の声が上がっている。授業時間数削減により、各教科について基礎力の低下が懸念され、各学校段階において基礎力を土台としたさらなる学力を生徒に身に付けさせることが困難な状況にあるとの声も多い。その結果、新指導要領導入後数年経って文部科学省も指導要領の内容は学習の最低ラインだとして訂正を出し、各教科についての応用能力を付ける教育の実施を認めている状況である。最近では、OECDなど外部の基礎学力テストの結果において読解力や数理の力が過去に比べ落ちていることが報告され、さらに学力低下が問題化され、文部科学大臣の「総合的な学習の時間」の見直しの必要性などが談話として出されている。
さて、以上の事柄は主に英語というより、他教科、特に小学校の教科や算数・数学・理科などの問題である。だが一方、英語についても学力低下が問題になってきている可能性もある。1つは、特に中学校では、再び週3時間に時間数が戻ってしまい、基礎力を付ける時間がさらに削られたり、各所で開かれる英語の研究会においても英語の基礎・基本の問題を取り上げたりするケースが多くなってきているからである。さらに大学では英語を含めて、1年生に対する補習授業を行う必要などもあちらこちらで主張されてきているからである。
ただ、現実として、英語の学力低下の状況がどのようになっているのかは定かではない。例えば、先日23日の新聞には、昨年1〜2月に行われた全国一斉テストの結果が発表され、中学校の英語については、2年前と比べて少し平均点が上がったという逆の結果が出た。また、従来とどのような学力が落ちてきているのか、中学校や高等学校を卒業するときにどのような英語力をつけるべきかなどが、明らかにすべき問題になってくると思われる。そこで、ここで英語に関する学力低下問題を論じ、その現状報告を行った後、では、今後、特にどのような力を落とさないことに気を向けたり、各教育段階における最終到達点をどこに置いたりすべきか、を議論することは意義のあることである。
英語の学力低下問題について論ず
青木 昭六 (愛知学院大学)
1.外国語としての英語学力育成の枠組み:
a.正確さと流暢さの比重、
b.指導過程に内包される通常のステップ
2. Learn to do へのアクセス:
a.学習成就度を決定する要因、
b.充実した授業、
c.指導=習得過程への介入、
d.表現と抑制と印象(明示的な印象と暗示的な印象)、
e.発問の適切性
3. 例示:
a.個々の表現を対象に、
b.構造スキーマを対象に
4. 学力低下防止策以上のこと(learn to do)が期待できるか
a.学力(の実態、向上、低下)を査定・評価する規準の曖昧さを解消 すること、
b.国語科教育とともに言語教育の一環を担っているという自覚を持つ こと、
c.文法能力の習得と推意を促す発問の関係を検証すること、
d.学習持続度(学習意欲)の育成と推意を促す発問の関係を検証する こと
以上の項目について、当日配布の資料(ハンドアウト)に沿って発表する。
大学入試センター試験既出問題を利用した英語学力の経年比較が示すもの
杉野 直樹 (立命館大学)
本発表では,発表者が共同研究者として携わった研究を紹介する。この研究では,1990年から2004年に実施された大学入試センター試験(以下,センター試験)の英語既出問題から抽出した問題項目群を,同一の学習者集団に解答させた。その解答データを利用して項目反応理論に基づく尺度の等化を行った。その上で,等化後の尺度上で各年度のセンター試験を実際に受験した学習者の能力値を比較し,大学入試受験時点での英語学力の経年変化を把握した。その結果,1996年以前と比較して,1997年以降の能力値の平均が明らかに低く,このことは「センター試験で測定される学力」が低下したことを示している。
ところでこの1997年とは,当時の新しい学習指導要領の元で学習した高校生がセンター試験を受験した最初の年だ。コミュニケーションを重視する方向性をもった改訂によってより重点をおかれた「聞くこと」「話すこと」といった面は,確かにセンター試験で直接は測定されていない。そのため,こうした側面での学力向上に期待することもできるかもしれない。しかし,センター試験が「出題科目」とする範囲内において学習指導要領の大幅な内容の変更はないことを考え合わせると,センター試験が測定する「基礎的・基本的」側面での学力低下が憂慮されるべきだろう。発表では,一般に「全国一斉学力テスト」として知られる「教育課程実施状況調査」(国立教育政策研究所教育課程研究センター)の公開されている結果にも言及しながら,問題提起を行いたい。
英語「楽習」ではなく、英語「学習」を
鷹野 英仁 (甲斐市立竜王北中学校)
まず、市川(2004)の「ゆとり教育によって生徒および保護者への学習に対する社会的圧力が低下した」との主張は、まさに中学校現場での実感であると考える。加えて、筆者は、学校で学習することへの価値観の低下と「楽しく」学ぶことの強調により、生徒の学習への耐性が著しく低下したことが、英語の習得の障害になっていることを指摘したい。
つぎに、筆者は、英語科における学力とその構成概念については、靜(2002)が示すところに賛同する。つまり、英語を読む力、書く力、聞く力、話す力の4技能とこれらの技能を機能させるために必要とされる語彙力と統語力である。
さらに、筆者は、英語を読む力、聞く力、語彙力、統語力について論じる。筆者が1999年6月に高校1年生を被験者として実施したテスト結果と2004年3月に同一テストを中学3年生に実施したテスト結果の比較では、全ての項目について2004年時の平均点が低下したが、大きな「学力低下」は見られなかった。しかし、筆者は、被験者となった中学生への3年間の指導から、現行の教科書と通常の週3回の英語授業だけでは「学力低下」を防ぐことができないと主張する。一方、読む力と聞く力については、当該の2テスト間にほぼ同様の結果が見られた。しかし、聞く力については、指導要領が示す英語科の目標が「聞くことや話すことなどの実践的コミュニケーション能力の基礎を養う」ことに改訂され、教科書にListeningを中心にした課が掲載されたことやAETの常駐化が進んでいることを勘案すると、「低下はしていないが、伸び悩んでいる」と言わざるを得ない。
最後に、筆者が実践した学力低下防止策のいくつかを紹介する。筆者がおこなった実践は、授業規律の徹底、単語の音声での定着、単語練習宿題、夏休み5000回単語英文練習、英問英答の型練習、YES,NO禁止英問英答、教科書の音読練習、音読テスト、Grammar
Dictation、文化レポート、授業過程の効率化、早朝リスニング課外授業、放課後リーディング課外授業、定期テスト前の休日・夏休み冬休み補習などである。
◇◆◇◆◇ 6月26日(日) ◇◆◇◆◇
自由研究発表 第2日 第1室 @
シャドーイング実践によるリスニング力及び発話再生課題との関連
建内 高昭 (愛知教育大学)
中学及び高校の教室現場において、英語授業のなかにシャドーイングを生かしてリスニング力あるいはスピーキング力向上を試みた授業実践が、少数ではあるが行われている。これらの取り組みの中で学習者は、リスニング内容に対して受身的な態度ではなく、リスニングと同時にシャドーイング発話を自然に行う習慣がつきやすい。あるいは学習者がシャドーイング実践の中で友達のシャドーイング発話に触発され、学習者相互の刺激が生まれやすい。すなわち閉じられた教師と学習者の構図から、学習者同士のなかに新たな緊張感や競争心も芽生えやすいなど、シャドーイング実践を核にして教師と学習者、学習者と学習者という新たなパラダイムを教室内に生み出し、学習者の潜在的な言語能力を引き出す可能性も示唆されている。
シャドーイング技術のみに焦点を当てると、同時に聴くことと話すことに関わり、混在した先行研究がある。例えばバイリンガルを対象にした研究からは、シャドーイングを行うことでの認知的負荷はきわめて小さい(Green
et al., 1990)と指摘している。また一方では脳科学研究において、音声干渉を遅延音韻フィードバックと呼び、脳内との関わりに着目したHashimoto
& Sakai (2003)では、機能的磁器共鳴画像を用い、発話を司る上側頭回での干渉が起こりやすくなっていると指摘している。
本研究の目的は、リスニング力向上の一つの手法と考えられるシャドーイング実践を通して、リスニング力および記銘内容の直後再成率に着眼し、シャドーイングの効果に関する妥当性を検証することである。ここでは、シャドーイングそのものが学習者の脳内でどのような変化をしているかといった脳科学な知見ではなく、シャドーイングの習慣を身につけることにより、リスニング力と長期記憶への影響を探るものである。
自由研究発表 第2日 第1室 A
日本人中学生英語学習者のリスニング能力の分析:多肢選択式テストとリスニング再生法を用いて
伊東 昌徳 (松本市立鎌田中学校・信州大学大学院)
公立中学校の生徒(日本人英語学習者)が、リスニングの過程で抱える困難点は何かを考察し、効果的なリスニング能力育成の指導方法を検討するための一つの資料を得ることを目的として本研究をおこなった。長野県内の公立中学校の2年生128名に対し、
2005年3月初旬に2種類のリスニングテストを与えた。一つは多肢選択式のリスニングテスト20問(実用英語検定4級の問題の第1部と第2部を編集した問題10問ずつ)、もう一つは聞き取った内容を日本語にして書かせるリスニングテスト(リスニング再生法テスト)である。多肢選択式テストでは、テスト結果に対して統計処理を施し、各問題の項目分析をおこなったところ、各項目の平均通過率は60.4%(最高76.6%,最低33.6%)、弁別度指数はどの問題項目も40%を超え、テスト項目としては適切であると判断された。リスニング再生法のテストでは、『Hyper
Listening Introductory』(石井正仁・萩原一郎 2003)より一つのリスニングテストを改作し、ALTに読んでもらった文を生徒に聞かせた。4つのセンテンスからなるメッセージを2種類聞かせた。センテンス毎にポーズを置き、その間に、センテンスの意味を日本語で書くように指示した。採点方法は、センスグループごとにセンテンスを区切り、そのセンスグループが聞き取れていると判断できた場合に得点を与えた。未習の文型が含まれていたこともあり、2題それぞれの平均点(13点満点中、3.5と3.8)は低かった。多肢選択式のリスニングテストと再生法テストでは強い相関が見られた。またセンスグループごとに聞き取りの状態を分析した。本研究発表では、分析結果を報告し、中学生が抱える英語のリスニングの困難点について考察を加えたい。
自由研究発表 第2日 第1室 B
リスニングテストとしての自由筆記再生法―高校生のリスニング能力の場合―
酒井 英樹 (信州大学)、樽井 千寛(長野県立長野高等学校)
本研究は、リスニングテストとしての自由筆記再生法
(free written recall tasks)
の妥当性について考察することを目的とする。自由筆記再生法とは、受験者に読んだり聞いたりした文章に関して記憶していることをできるだけ書くように求めるタスクである。理解の過程を明らかにするという利点があるといわれている一方で、暗記力のテストに過ぎないとして批判もされている。本研究では、公立高校1年生4クラスに対して、多肢選択式テスト(実用英語検定試験の過去問題)と自由筆記再生法を実施した。再生された日本語はアイデアユニットに基づき採点された。両テストの基礎統計量・相関係数に基づく量的分析と再生されたプロトコルの質的分析を行い、その考察を発表する。
自由研究発表 第2日 第1室 C
高校生へのリスニング指導におけるシャドーイングの効果について
谷内 路久 (山梨県立桂高等学校)
平成18年度(来年度)の大学入試センター試験に英語リスニングが行われるに伴い、高等学校のリスニング指導の現状を振り返り、現指導方法の問題点を考える。そして、リスニング力向上に大きな効果を上げると最近言われている「シャドーイング」に注目し、シャドーイングがどのようなものであるか、また、リスニングという活動がどのようなものであるかを述べ、シャドーイングの効果との接点を考える。そして、いままでのリスニング指導のシャドーイングの効果についての研究をまとめ、これからの研究課題を明らかにする。
現在の指導法は問題演習を中心とした理解度を上げるための方法が主流であり、ようやく問題解決の方略にも焦点が当てられつつあるところである。しかし、問題演習を中心とした指導だけで成果があるかは疑わしい。そこで現在注目を集めているシャドーイングという訓練方法に着目する。シャドーイングとは聞こえてきた音声を最小限の遅れで復唱することで、音のデータベースを構築するのに役立つと言われている。また、理解にいたるまでの処理の速さをあげることができるという報告もある。これまでの指導研究では、シャドーイングはリスニング力の向上に効果があるということが明らかになっている。しかし、大学生や英語を得意と考えられる高校生を対象としたもので一般的な高校生を対象とした指導報告は少ない。また、それらの報告が週1回程度50分,
90分程度の指導によるもので、通常の授業の中で実践報告が行われていないので、実際にシャドーイング指導が通常の授業形態で行うことでき、さらに効果があるかどうかを探ることが今後の研究課題となると考える。
自由研究発表 第2日 第1室 D
授業支援システム−Jenzabar−を用いた英語教育の試み:教室外学習の効率化と増大化による授業改善
塩川 春彦 (北海学園大学)
英語教育においてコンピュータ、インターネットを利用した実践は一般的になってきている。本発表では、いわゆる授業支援システム(Course
Management System, CMS)を利用した授業改善を試みた実践について報告する。本発表では特に、CMSの一つであるJenzabarを用いた実践例を紹介する。
Jenzabarを使ってできることは、ネット上における、授業記録・授業予定の最新情報の掲示、課題の提示と提出、小テストの実施と自動採点である。さらに、学生から提出されたPowerPointの課題ファイル、グループディスカッションの音声ファイル等を必要に応じてこのシステムに掲載することにより、学生が互いの成果を見たり聞いたりすることができる。また、英語でのレポート投稿、意見発表、討論も行っている。このようにネット上での学習活動が充実することにより、祝日などで授業が無い週も学生は着々と学習をすすめることができる。このシステムでは長期休業の間の学習も導いている。
本実践を支える重要な要素は、報告者の所属する大学が教室はもとより各階に無線LANのアクセスポイントの用意された自習用スペースが配置された校舎を持っており、報告者の所属する経営学部の学生は全員がラップトップコンピューターを所有し、いつでもネットを利用しながら自学自習ができることである。
CMSを用いることの利点は、学生の教室外学習の効率化と増大化が図れることであり、通常授業は、学生同士あるいは学生と教員とがinteractiveにface
to faceで行う活動に限定することができる。さらに、CMSを教員集団で用いることにより、授業内容、授業方法、教室外学習の導き方などで、教員間の学び合いと協力が実現し、教員間の違いが小さくなり、教育実践が高いレベルで平準化されることである。
自由研究発表 第2日 第2室 @
オーラル・コミュニケーションI の教科書分析
室井 美稚子 (木更津工業高等専門学校)
実践的コミュニケーションの必要が叫ばれて久しいが、高校現場においては文科省認定の教科書がその役割を担っている。特にオーラル・コミュニケーションIの教科書は広く使われているが、そのタスクはどのような到達点を目指して編まれているのであろうか。そこには三浦(2002,
2004)が言うところの「人間的な価値を持つ意味の授受」を促進するようなタスクがどれくらい含まれているだろうか。
またそれらのタスクを、創造性と自己表現という観点からみるとどうであろか。また、実際にタスクを行いやすいような適切な支援(ガイダンス)がなされているだろうか。オーラル・コミュニケーションI
の教科書を言語スキル(Freedom of Language, Freedom of Content)また内容(Self
Description, Value Judgment) そして支援(Guidance of Language,
Guidance of Content)の観点で分析し、新たに求められるコミュニケーションの視点とは何かを探りたい。
自由研究発表 第2日 第2室 A
インタラクションを通した子どもの単語の意味理解についての研究
柏木 賀津子 (奈良市立三碓小学校)
本研究の目的は、小学校英語活動におけるL2 Peers
の重要性に着目し、ペアワークや、ロールプレイを取り入れた英語活動を実施し、音声のみによるインプットとインタラクション(Focus
on Formを伴う)による「英語の意味に交渉する活動」が、子どもの英語の語彙理解にプラスの影響を与えるかどうかについて検証することである。
まず、先行研究により、学習者の「意味への交渉」「気づき」は第2言語習得に重要な役割を果たすと考えられる。「意味への交渉」が起こるようなTeacher-Child,
Child-Childインタラクションのある授業の構造を提案し、実施した。
次に、短期実験では、インプット中心の授業とインタラクションのある授業を同じ被験者に行い、ヒアリングによる語彙理解の差違を検証し、後者の英語活動に語彙理解の優位性を確認した。
長期実験では、インタラクションのある英語活動を経験していない学習者(Non-Ex)と経験した学習者(Ex)を比較し、ヒアリング(児童英検参考)とインタビューによる語彙理解の差違と接近を検証した。両者の差は僅かに有意であったが顕著ではなかった。そこで、さらに、インタラクティブな英語活動をサポートする子どもの2側面の力に注目しその相関関係を3つのグループ(Non-Ex、Ex、8歳、10歳)ごとに探った。また、指導前後の学習者のモチベーションの変化を質問紙法によって観察した。
先行研究と実験から、インタラクションは語彙の理解にプラスの影響を与えることが確認された。これらの検証は、インタラクションを通してなんらかの言語のパターンに付随的に気が付くような学習が10歳前後の学習者の第2言語への「意味への交渉」を導く際に有効であることを示唆するものであった。また、インタラクションは、学習者のモチベーションを継続させ、「相手と心を通わせてコミュニケーションをしようとする力」を育てる上においても重要な役割を果たすことも伺えた。この研究が真に「コミュニケーション」に繋がる授業の工夫になるよう、授業実践のビデオと分析結果によって報告したいと考える。
自由研究発表 第2日 第2室 B
小学校英語活動との関連を探るアクションリサーチ
足立 智子 (浜北市立浜名中学校)
浜北市では平成12年1月から日本人英語講師を派遣し小学校の英語活動が始められた。ここ数年毎年中学1年生を1クラスは教えているので、入学してくる生徒の変化を感じた。そこで、学習指導要領が変わったのを機に、14年度から入門期の指導計画を小学校との関連を考えたものにしてみた。また、15年度の最初に浜北市の中学1年生に小学校の英語活動に関するアンケートをとったところ小学校の英語活動を肯定的にとらえている生徒は5割しかいなかった。このアンケートの結果を受けて共同テーマ「小学校での英語活動を生かして効果的な授業を展開するには、これまでと異なるどんな入門期の指導が必要か?どのような指導が生徒の心理的な負担を減らし、英語力の伸びにつながる基礎を養成できるか?」を設けてARを実施した。15年度のARの結果、小学校英語活動と中学校英語との「のりしろ」にあたる部分があれば生徒の心理的な負担を減らすことになると考え、16年度はフォニックスの時間を減らし、TPRを取り入れることにした。16年度も同様のアンケートを実施したところ、前年度よりも英語活動を肯定的にとらえている生徒が多かった。そこで、5つの仮説を立て、ARを実施した。結果的には、TPRを取り入れたことはいろいろな面で効果があったといえる。中学校でも、充分なインプットをすることが大切であると感じた。
自由研究発表 第2日 第2室 C
語用論的観点に基づくスピーキング指導方法提案(中学校)
石渡 雅之 (名古屋短期大学)
本発表においては、新しい試みとして語用論の観点をとりいれたスピーキング指導のあり方について、提案をおこなっていく。スピーキング指導の際に、発話練習が実際のコミュニケーション場面に役立つように指導することを目的として、「1つの発話が相手にどのような行為を期待しているのか」また「発話が行為と結びつくまでにはどのような過程をたどるのか」という点に焦点を当てる。このために語用論の中から、Speech
actに関する諸理論を選び、中学校英語教育と関連づけながら論じていきたい。具体的には、Speech
acts理論分析に基づく発話が行為化されるための条件確認を行い、Speech
act classification理論に基づく発話行為の種類分析・Felicity
condition理論に基づく意図伝達のための条件確認を行っていく。具体例については、それぞれ現行中学校教科書の事例に照らし合わせていく。
自由研究発表 第2日 第2室 D
中学入学以前の英語学習に関するアンケートおよび効果の分析―高校生の場合―
内藤 徹 (福井県立鯖江高等学校)
近年、早期英語教育への関心が高まり、いろいろな議論がなされている。小学校またはそれ以前から英語教育をはじめた方が効果があるとの意見もあれば、日本語教育が充分になされてから行った方がよいとの意見もある。2002年4月より、小学校において「総合的な学習の時間」が行われ、国際理解教育の一環として英語の活動が行われているところが多い。文部科学省は、『小学校英語活動実践の手引』の中で、公立小学校における英語活動のねらいを「言語習得を主な目的とするのではなく、興味・関心や意欲の育成をねらうことが重要である」としている。
今回、高校生を対象に、中学入学以前の「英語学習経験者」と「英語学習未経験者」をアンケートと実際の成績を比較することにより、その影響の有無について分析を行った。今回の研究・分析では、全学年の「英語学習経験者」が動機づけを受けていたことに加え、1年生では「OCT」において有意な成績上の効果も見られた。中学入学以前に学習した内容そのものが高校での学習成績の向上に繋がっている訳ではなく、動機づけによって成績向上があったと考えられる。この小論の中では、このことについて論述する。
内容は、主に次の通りである。(1)被験者:S高等学校 2年生111名、2年生114名、3年生120名 計345名 (2)仮説:中学入学以前の英語学習経験者は、未経験者と比べて、より英語の学習に興味・関心を示し、学力も高い。(3)分析方法:χ2-test、t-test
など (4)結果と考察:データ分析、仮説の検証など (5)おわりに:結論と課題
自由研究発表 第2日 第3室 @
4技能統合の10分間常設communication activityのアクションリサーチ的研究
藤沢 英 (静岡市立長田西中学校・静岡大学大学院)
学習指導要領(外国語編)で中学生に求められている実践的コミュニケーション能力を育成するためには、聞くこと、話すことを中心におきながらも読む、書く技能も高める必要がある。そこで、4技能を統合した10分間でできるコミュニケーション活動を常時行い、学習者のコミュニケーション能力の変容を質的、量的両方の側面からアクションリサーチの手法を取りながら、明らかにしていきたい。
自由研究発表 第2日 第3室 A
日本人大学生の英語学習動機・学習行動・英語力の関係について
佐藤 夏子 (東北工業大学)、石濱 博之 (上越教育大学)
本研究は日本人大学生の動機づけに関するものである。
2003年の研究では、2つの質問表を作成し、異なる専攻の大学生に対して調査を行った。一つは日本人大学生の授業内外の学習行動、英語に対する学生の「必要性(Needs)」と「欲求Wants)」の関係、そして学習行動を測定する質問票であった。もう一つはGardner(1985)を日本人学習者用に直して翻訳したものであった。
分析の結果、学生の英語に対するNeedsとWantsには高い相関があるが、NeedsやWantsは高くてもそれが学生の学習行動に必ずしもつながっていないことがわかった。
2004年には、2003年度に使用したオリジナルの調査票の改訂版を用い、Gardnerは用いなかった。さらに動機付けの内訳を詳しく知るためにNoels,
Pelletier, Clement, Vallerand . (2000)により、Self-determination Theoryに基づいた質問票を作成して、分析を行った。また、学習動機と英語力の関係をみるために、TOEIC模擬試験を実施し、その結果との比較を行った。
学習行動と学習動機そして英語力の関係について報告する。
自由研究発表 第2日 第3室 B
協同的な学びを目指した英語授業のアクションリサーチ
森 一生 (福井県立丹南高等学校)
近年、学力低下がマスコミで取沙汰されているが、点数として見える学力よりも、学習意欲などの見えない学力の低下の問題の方が深刻であると市川(2004)は指摘している。生徒を目の前にする教師としてなすべき事は、授業研究による学習の質の向上を図り、生徒の関心を学習に呼び戻すことであると言える。その結果として「見える学力」としての数値も向上すると考えられる。
本論は高校においてグループ学習を活用することにより生徒の関心を学習に向けることができるかどうか、また生徒同士が協力しあい教えあう学習(協同的な学び)へと結びつく可能性があるのかどうかを検証する。
市川伸一 (2004). 『学ぶ意欲とスキルを育てる』 東京:小学館
自由研究発表 第2日 第3室 C
Longman Defining Vocabularyの変遷
松尾 眞志 (和歌山市立商業高等学校)
語彙学習において、まず基本語を習得するのが効果的で、基本の2000語を学習すれば、英文を相当理解することができるといわれている。では基本語とは何か。頻度が高いのが基本語だろうか。Longman
Dictionary of Contemporary English(LDOCE)は、2000語のDefining
Vocabularyで語彙を定義している。現在この2000語が、頻度を別にして、最も知られた基本語であると考えられる。では、この2000語は、頻度をもとにして作られたのだろうか。語を定義するために、何か特別な語が必要だったのだろうか。LDOCEの4つの版で、どのように2000語が変化していったのだろうか。これらのことを明らかにするために、まずGeneral
Service List of English Wordsと、その影響下で作成されたとされるLDOCE第1版のControlled
Vocabularyとの相関を調べた。そして、LDOCEの第1版から最新の版まで、Defining
Vocabularyがどのように変化したかを調べた。 Longman
Defining Vocabularyは、わずか2000語でさまざまな語を定義している。この変遷と実体を明らかにすることができれば、英語学習者にとっての基本語、特に発表語彙としての基本語がみえて来るのではないか。
自由研究発表 第2日 第3室 D
高校生の読解における語彙サイズについて
種村 俊介 (愛知工業大学名電高等学校)
読み手の語彙・文法力、談話構造理解、背景知識、推測力などが読解に及ぼす要因として考えられる。その中で語彙知識が読解に最も強く影響を及ぼすと主張する研究が多く見られる。(Nation
& Coady 1988; Coady et al.,1993; Laufer 1992, 1997)。
そこで、本研究の目的は、日本の高校生の英語語彙力と英語読解力の相関関係を探ろうとするものである。71名の高校3年生を被験者に、「日本人英語学習者のための語彙サイズテスト」(望月1998)と「大学入試センター試験の英語読解問題」を実施し、それぞれ受容語彙サイズ(receptive
vocabulary size)と英語読解力を測定した。結果として、英語語彙力と英語読解力の間には、有意な相関関係が見られた。また、大学入試センター試験の読解問題においては4,500語レベルを境にテストの結果に有意な差が見られた。従って、大学入試センター試験レベルの英文においては4,500語が読解の分岐点になることが示唆された。
自由研究発表 第2日 第4室 @
英語授業における談話分析の枠組み再考―S-Cモデルを使った高等学校外国語選択授業の分析過程から
松井 かおり (名古屋大学大学院)
最近、英語授業研究において、ひとつのクラスの特徴を集約的に記述していこうという質的研究が増えてきた。教育技術の一般化を追求する数量的な研究に対して、この「個性記述学」的研究(佐藤1999)では、研究者自身が媒介となってその授業における出来事の意味の探求を試みる。そこでは研究者が自らの関心に沿って用いる分析の枠組みが問われることになる。当然分析の枠組みによって、分析結果も異なってくることが予想される。それでは同じ分析の枠組みを用いれば、複数の分析者間においても同じ分析結果が得られるのだろうか。
本研究は、外国語教育を専攻する複数の大学院生がS-Cモデル(Sinclair
and Coulthard 1975)を用いて、各々が個別に同じ英語授業場面の分析を試みた。S-Cモデルは、「教室談話が特有の構造を備えていることを体系的に捉えており、もっとも妥当性が高い」(村岡1999)と考えられている教室談話分析モデルのひとつである。分析の対象は、高等学校の外国語選択授業で、一時間を通し、教師が生徒を順番に指名しながら穴埋めドリルの答え合わせを行う活動が行われた。そのなかでも教師と生徒のやりとりが長く続いた2分間を分析の対象とした。その結果、一部の談話を除いて各研究者間の分析結果が異なり、分析不能な箇所も明らかになった。この結果の比較検討を通して、S-Cモデルによって分析可能となる英語授業の構造と、既成の分析枠組みを用いて授業を分析することの限界について述べたい。
自由研究発表 第2日 第4室 A
Sequential Focus on FormとIntegrated Focus on Formの比較分析
橋本 秀徳 (広島大学大学院)、藤田 卓郎 (福井県松岡中学校常勤講師)
従来,日本ではFocus on Forms (FonFs)と言われる文法指導が行われてきた。FonFsとはEllis,
Basturkmen, and Loewen (2002:420) が"…in focus-on-forms instruction
the primary focus on attention is on the form that is being targeted."と述べている通り,言語形式(form)にのみ焦点を当てる指導である。しかし,Focus
on Formsのみを行っても,実際にコミュニケーションが行えるようになるわけではないことは盛んに言われてきた。
ESLの環境ではFocus on Form (FonF)
と呼ばれる文法指導が近年注目されている。しかし,Focus
on Form の指導法は多岐に渡る。そこで,Doughty and Williams
(1998:244)は,FonFを2種類に区別している。明示的文法説明に代表されるFonFsと従来のFonFが続いて起こるタイプをSequential
Focus on Form (S-FonF)とし,従来のFocus on FormをIntegrated Focus on
Form (I-FonF)と区別している。だが,これまでFonF同士の有効性を比較した議論は行われていない。そこで本研究では,I-FonFとS-FonFの効果の違いを比較分析し,日本の環境で求められる文法指導のあり方を考察した。
7つの比較研究を分析したところ,4つがS-FonFがI-FonFより効果的であることを示しており,I-FonFを支持するものは見当たらなかった。その結果から,S-FonFの有効性と共に、カナダのようなSL環境で盛んに使用されているFonFの指導法をそのまま日本のようなFL環境である日本に取り込むことの危険性を示唆した。
自由研究発表 第2日 第4室 B
ライティング・プロセスの計画段階におけるクイック・ライティング指導の効果
杉田 由仁 (山梨県立大学)
ライティングの過程を重視して行うライティング指導は、ライティングのプロセスを計画段階、推敲段階、編集段階に細分化し、それぞれの段階で「どのように書いていけばいいのか」「どのように改善すればいいのか」などテキストの展開方法を学習者に考えさせ、随時修正や改善を加えてテキストを完成させる指導法である。杉田(2005)では、看護系大学生を対象としてプロセスを重視したパラグラフ・ライティングの指導を実践し、各段階の重要度に対する意識調査を行った。その結果、学習者が自分の考えを書き上げ、完成させる上で最も重要であると判定したのは、計画段階において文章全体の構成を考えるという活動(organizing)であり、過程を重視して行うライティング指導のあり方や指導内容を考える上での重要なポイントであることがわかった。また、これまでにライティングの計画段階で行ってきた指導の中で、学習者が必要に応じて日本語で書き留めておいた内容をできるだけ英語で表現して構成の作業を行うように指示すると、和文英訳の練習のように誤りのない正確な英文を書くというライティングの形式面に対する意識が強くなってしまい、書きながら自己の考えを発見し、その考えを読み手にわかりやすく構成するといった計画段階での本来的な活動が十分に行われなくなってしまうことが度々あった。そこで本研究においては、ライティングの計画段階の指導方法として「クイック・ライティング(quick
writing)」を導入することにした。この指導法の特徴は、あえて時間制限を設けることにより、学習者の意識をライティングの内容面に集中させ、自己の考えをできるだけ多く直接英語で書かせるという点に在る。このような特徴を生かした指導が、計画段階における日本人学習者の指導改善に効果があるかどうかを検証したいと考える。
自由研究発表 第2日 第4室 C
英作文においてメタ言語知識の学習と作動に有効なフィードバックの研究
伊達 正起 (福井大学)
本研究では、英作文におけるフィードバックとtreatableな形式に関するメタ言語知識との関係に焦点をあてる。具体的には、4種類のフィードバック(メタ言語的ヒント・訂正・指摘・なし)と8種類の目標形式(繋合詞・関係詞・並列・副詞・動詞・接続詞・冠詞・補語句)を使ったエラー検索を用いる。手続きは次のようになる。プリテストとして、目標形式に対するメタ言語知識に関するテストと文章内にある目標形式のエラーを検索し修正するテストの2種類を与える。その後、4つのグループそれぞれに1種類のフィードバックを含んだ文章を与え、各グループにそのフィードバックを頼りに文章内のエラーを検索し修正するというトリートメントを2回与える。その後、直後テストとポストテストを与え、エラー検索修正の結果をプリテストの結果と比較する。ポストテストでは、さらにメタ言語知識に関するテストを与えプリテストの結果と比較する。
こうした比較を通して、次の点を解明しようとする。
(1)メタ言語知識がある形式に対して、どのようなフィードバックがその知識の作動に有効であるのか、また、有効でないのか。
(2)メタ言語知識がない形式に対して、どのようなフィードバックがその知識の学習に有効であるのか、また、有効でないのか。
自由研究発表 第2日 第4室 D
第一言語習得と第二言語習得の誤り比較分析
横田 秀樹 (三重県立四日市高等学校)
英語の第一言語習得(L1A)の途中で観察される誤りと、英語を外国語とする日本での第二言語習得(SLA)の過程で産出される誤りを比較することで、L1Aすなわち母語習得と、SLAでは何が異なり、何が共通しているのかを調査した。
「どうして母語では当たり前のことが、第二言語では難しいのか、(中略)。この謎は、まだ言語学でも脳科学でも解けていない難問なのだ。第二言語が不完全であるがために、その不完全さを理解することで、逆に母語が完全である理由がわかってくる可能性はある。だから第二言語の研究が重要なことは間違いない。」(酒井
2002)と述べられているように、L1AとSLAの比較は言語能力を解明する上で極めて重要であり、さらにそこに現れた差は当然、外国語教育に対しても大きな示唆を含むものであることは確かである。
本研究の目的は、第一に、L1AとSLAにおける異なる誤り例を見出すことでL1AとSLAの習得の違いを生む原因を特定することである。第二に共通する誤りを観察することで、言語の普遍性に関して考察を行う。
本研究では、WH随伴現象を観察することで、L1Aと日本の英語教育という環境のSLAとの違いを生む一つの原因が、L1Aが音声中心であり、SLAが視覚的な文字を中心とした学習を行っている点であることを指摘する。同時に、それらに共通する誤りが普遍文法に根ざしたものであることを述べる。
酒井邦嘉 (2002)『言語の脳科学 -脳はどのようにことばを生み出すか-』東京:中公新書
自由研究発表 第2日 第5室 @
多読が日本人英語学習者の総合的な英語力,リーディング力,単語認知速度に与える効果
石田 拓也 (名古屋市立向陽高等学校)
英語教育を専門とする大学2年生(15名)と3年生(3名)18名を被験者とし、被験者は8週間の多読をした。その前後にプレテスト・ポストテストとしてクローズテスト・リーディングテスト・単語認知速度を測る3つのテストを実施した。それぞれのテストで測られる、総合的な英語力、読解効率、単語認知速度が多読によって伸びるか調べた。また、それぞれのテストの成績の伸びと多読量との関係を調べた。
その結果多読の前後で総合的な英語力,単語認知速度が有意に伸びた。多読量が増えるにつれて読解効率も伸びることが分かった。また,多読の前後にアンケート調査をした。その結果から,両親の読書習慣と被験者の多読量に関係があること等が分かった。
自由研究発表 第2日 第5室 A
音読指導再検証:予備調査
浅野 敏朗 (京都府立医科大学)
音読指導については、その効果と弊害にかかわる賛否両論が聞かれるのが現状であり、まだまだ音読の有効性については多様な実証的研究が不足しているようである。そこで、本発表では、音読トレーニング実施過程で得られたデータやテスト結果に基づき、音読についての学習者の認識の変容、さらに、音読認識、音読実践、音読速度、そしてクローズテストの関連性を分析・考察し、音読指導について検証を深めてみた。
第一回から第二回の音読メタ認知調査までは一年間の授業時間が経過しているが、二つの調査結果を見てみると、音読メタ認知力を示す項目の回答平均は、有意な変化が確認され、音読に関して肯定的かつ積極的認識を持つものが増加した。
また、調査の50項目中17項目において回答平均に有意な差が認められた。それらの項目は、音読学習の情意面、音読学習への取り組み方、音読の方法、音読の困難点にかかわっている。たとえば、音読学習の情意面では、音読するのが好きである、楽しい、得意である、そして音読が上手になりたいというものが有意に増えた。
今回の調査で着目した、音読メタ認知力、音読とRLの回数ならびにWPM、そしてクローズテスト結果の5つの変数間にはすべて有意な相関関係が確認された。特に、RLのWPMは、0.01の有意水準で他のすべての変数と音読のWPMよりも強い相関関係が認められたことは注目に値する。
音読について認知面でも情意面でも肯定的かつ積極的認識が内在化して、音読メタ認知力が向上すると、その向上の程度に応じて、音読とRLの回数が増加し、その結果として、音読とRLのWPMが上昇すること、さらには、そういった一連の変化が英文読解力を有効に示す一指標といわれるクローズテストの結果にも良い影響をもたらすことが統計的に確認された。
自由研究発表 第2日 第5室 B
テキストタイプがL2読解力に及ぼす影響−2つのタイプ各々2つのテキストによる検証−
奥村 信彦 (富山商船高等専門学校)
1.目的
L1 readingにおいてはテキストタイプにより読解プロセスに差異があることが指摘されている。これを参考に奥村(2004a)はテキストタイプを大きくexpositoryとnarrativeに分け、トピックが共通のexpository英文テキスト1つとnarrative英文テキスト2つを被験者に読ませ、その直後に課したリコール・テストのプロトコルの分析結果から、また、奥村(2004b)は同じテキストをトピックについて一定の背景知識を持つ被験者に読ませ、その直後に課したリコール・テストのプロトコルの分析結果から、テキストのタイプによってL2読解力には差があり、同じタイプのテキストを読む際にはほぼ同等の読解力が示され、これと異なるタイプのテキストを読む際の読解力との間には差が認められる傾向があることを確認している。これは、L1
readingと同様に、L2 readingにおいてもテキストタイプにより読解プロセスに差異があることに起因するものと考えられる。上記2つの研究では、被験者に与えたテキストはexpositoryが1つとnarrativeが2つであったが、本研究では各々のタイプのテキストを2つずつ(トピックは共通)被験者に読ませ、その直後に課したリコール・テストのプロトコルを分析することにより、さらに詳細にテキストタイプとL2読解力との関連を検証する。
2.方法
被験者は高等専門学校4年生37名である。被験者に共通のトピックをもつexpository英文テキスト2つとnarrative英文テキスト2つを読ませた直後に日本語でリコール・テストを課し、そのプロトコルを分析した結果を報告する。
自由研究発表 第2日 第5室 C
高校生英語学習者の英文読解においてフレーズ単位を意識させることの効果について
向山 豊隆 (山梨県立石和高等学校)
本研究は、高校生の英語学習者を対象として、学習者のフレーズの境界を認識する能力と、読解能力との関係について調査した。さらに、英文読解において、フレーズ・リーディングが、学習者の可読レベルと英文のリーダビリティとの間にどのくらいの差がある場合に、最も有効であるのかということを、英文のリーダビリティを変数としながら、読みの速度と理解度を測定することで検証しようと試みた。
先行研究を概観すると、フレーズ・リーディングの有効性を肯定するものが多いが、その効果については、一概にまとめられない。例えば、フレーズ・リーディングの効果が、読みの速度の向上に効果があるとしたものは多いが、理解度に関して効果があるとした研究は数少ない。この効果をさらに細分化してみると、被験者の上位群で効果があると報告されたものや、下位群で効果があると報告されたものがあり、その効果は学習者の英語技能により様々であるといえる。これらのことを踏まえ、フレーズ・リーディングの効果を検証する場合、どのような場合に、どの様なタイプの学習者に効果があるのか、という「場合分け」をより細かくし、絶対的な尺度を用いながら調査する必要があるといえる。
自由研究発表 第2日 第5室 D
読解におけるリコール・テスト方略―自由記述分析によるメモ方略を中心にして―
平野 絹枝 (上越教育大学)
異なった読解テスト形式(例、クローズテスト,
要約テスト、多肢選択テスト、short-answer (Cohen, 1998, 1998)、再生テスト(recall
test))におけるテスト受験方略の違いを調べることは、読解テストの妥当性を調べるのに重要である。異なった読解テスト形式におけるテスト受験方略
(test-taking strategies)
に関するデータを使用して、テストが何を測定しているかについて妥当性を検証することは比較的新しい試みである、とCohen
(1998)は、述べている。また、テスト受験方略や読解方略といった、方略に関するデータの収集方法として、観察法(observation)
や内観法 (e.g. think-aloud、questionnaire、interview、日記法)
があるが、平野・酒井(2004)では、学生の書いた自由記述を分析している。
平野・酒井(2004)では、読解テスト形式として多肢選択テスト、short-answer形式を採用して、それらのテスト得点の上位・下位群別にリコール・テストの読解方略やメモ方略等の使用を考察した。本発表では、筆記再生テスト(written
recall test)形式の読解得点を用いてその得点の上位・下位群別にメモ方略の使用を中心に平野・酒井(2004)のデータを再分析し、メモ方略の使用がリコール・テストのperformanceにどのような影響を与えているかを考察したい。
自由研究発表 第2日 第6室 @
電子辞書使用時の学習行動と語彙記憶について
横森 昭一郎 (長野県長野西高等学校)
ここ数年で、高校生の間に電子辞書が急速に普及してきた。筆者の勤務する高校では、3年生のほぼ80パーセントが日常的に電子辞書を使用している。英語のみならず国語、社会、理科までもカバーしている近年の電子辞書は、もはや現代高校生の必須アイテムとなった感がある。
一方で、紙の辞書のほうが学習効果が高いといった信念に基づいて、なるべく電子辞書を使わせない指導も一部でなされているようだ。しかしながら、紙の辞書と電子辞書ではどちらの方が、どのような点で学習効果が高いのか、これまで十分なリサーチがなされてきたわけではなく、指導者側の信念に明確な論拠があるとは言い難いのが現状である。
さらに、筆者が電子辞書を日常的に使用している高校生を対象に、簡単なアンケート調査を実施したところ、語彙の記憶力や、英語学習への態度に関しての自己評価はまちまちであった。
指導する側も明確な論拠を示せないうえに、実際に電子辞書を使用している学習者自身の自己評価もまちまちな状況がいつまでも続くのは好ましくないであろう。そこで、本研究は以下の2点を明らかにすることを目的とする。
(1)紙の辞書と電子辞書ではどのような学習行動の違いがあるのか。
(2)語彙の定着に違いは見られるか。
自由研究発表 第2日 第6室 A
工学系学術テキストコーパスにみる語彙の特徴と読解時の困難語の関係―ESPにおける語彙指導の観点から―
石川 有香 (名古屋工業大学)、小山 由紀江 (名古屋工業大学)
学術テキストには、通例、(1)基本語彙、(2)準専門語彙、(3)専門語彙が含まれるとされる。基本語彙は繰り返し現れるため、およそ2000語のワード・ファミリーでなるGSL(West,1953)でも、テキストの80%をカバーしていると言う。また、さまざまな学問分野にまたがる350万語の学術テキストコーパスから作成されたUWL(Nation,
1990)は、学術テキストの8.5%をカバーする準専門語彙とされるが、これは、570語のワード・ファミリーから構成されている。基本語彙である2000語は中学・高校における英語教育で、また、準専門語彙についてもその大半が入学時までに習得済みであると考えられ、わが国の工学系大学生を対象に行われるESP語彙指導は、専門語彙の指導に焦点が当てられてきたように思われる(野口他,
2002他)。実際、ESP教育を謳う工学系大学生用英語教科書を調査してみると、専門用語の指導に多くのページが割かれている。
しかしながら、近年、非英語圏におけるESP教育研究において、こうした専門用語に重点を置いたESP教育へ疑問を投げかける研究報告がなされてきている(Fulilove
1995他)。専門分野の基礎知識を有する学習者にとって、専門テキストの読解時に理解の障害となる語彙群は、専門用語ではなく、低頻度基本語であるというのである。低頻度基本語については、従来の学術テキスト語彙の分類においても、抜け落ちていた視点と言える(Nation,
2001)。
本研究では、上記のESP研究報告を踏まえ、日本の大学における工学系ESP教育において、どのような語彙群を指導してゆくべきかを検証してゆくこととしたい。まず、工学系専門学術誌に掲載された英語論文のコーパスを作成し、それらを上記の4つの区分に応じて分類する。次いで、工学系学生を対象に読解タスクを課し、読解の障害となる語の特定を行ってゆく。
自由研究発表 第2日 第6室 B
看護短期大学のおける英語教育のためのニーズ分析
小澤 淑子 (愛知きわみ看護短期大学)
本研究は、看護短期大学における英語教育カリキュラム開発の基礎をなすものである。具体的には、現実的かつ効果的な英語教育カリキュラム開発の前提として、看護短大の英語教育に適したシラバスの検証をし、看護短期大学の英語教育に関する学生、看護師、医師、看護短大の教員のニーズ分析を行った。
1.看護短大に適するシラバスの選択
先行研究を参考にして、好対照を示す代表的なシラバス:統合的シラバス(synthetic
syllabus)、分析的シラバス(analytic syllabus)、タイプAシラバス(Type
A syllabus)、タイプBシラバス(Type B syllabus)、成果志向シラバス(product-oriented
syllabus)、過程志向シラバス(process-oriented syllabus)の特徴を比較検討し、看護短大の英語教育に適したシラバスを選択した。
2.ニーズ分析
ニーズ分析で明確にすべき点を以下の3視点から、それぞれの目的に沿った項目からなる質問紙を作成し、看護短大生92名、看護師100名、医師80名、看護短大教職員160名から得た回答結果を分析した。
@
臨床での英語使用場面における看護師に求められる英語運用能力:患者とのコミュニケーション、カルテ記載事項の理解、情報の発信・受信、に要する英語力に関する質問
A @の基礎をなすコミュニケーション能力:先行研究を参考にコミュニケーション能力を文法的能力、文脈的能力、方略的能力の3種に分け、各能力に関する質問
B
看護学生に求められる英語指導:一般教養英語、実用英語、専門英語の何に対する要求が高いかを問う質問
自由研究発表 第2日 第6室 C
工業英語導入方法に関する一提案
塩谷 三徳 (沼津工業高等専門学校)
筆者は、以前勤務していた工業高校で、生徒の学習意欲を高める手段の一つとして、工業英検4級レベルの単語小テストを1年の英語の授業内の活動として導入した。2年前より勤務している沼津高専では、単語小テストに加え、工業英語の例文小テストを作成し、1年から4年の各担当クラスで実施した。これは、授業の中の10分程度の活動により、少しでも多くの学生が意欲を持って英語の授業に取り組み、それが定着することで英語そのものに自信や関心を持つことができるようになることを目的としたものである。
本研究は、工業英語に関する2つの小テストの導入の効果をアンケート調査、工業英検の受験者数によって検証する。また小テストを行ったクラスに定期的に実施した過去問題の平均点を比較することにより、学年間に効果の差があるかを調べる。更に、各専門学科の教員が「工業英語」および「工業英検」について、どのような意識を持っているかをアンケート調査によって調べ、工業英語を一般教養科目の英語の授業に取り入れることの是非および効果的な導入時期と導入方法を提案する。
自由研究発表 第2日 第6室 D
英語教員の自主研究会の実践と可能性
谷口 雅英 (大垣北高等学校)
有志の教員が集って自主的に研究や研修を行う活動、いわゆる「自主研究会」について考える。「教育公務員特例法第19・20条」を待つまでもなく、教員にとって研究や研修は不可欠である。研究や研修に「研究会」が大きな役割を果たすことも自明である。これまでもその重要性が指摘されてきた。しかし、研究会、特に「自主研究会」が、今日ほど大きな可能性を秘め、その成果が期待できる時代はこれまでなかったように思う。本発表では、まずその理由について述べる。次に実際の実践について報告し、今後の課題と展望を述べたい。
ポスターセッション
小学校高学年における英語活動の実践:その方法と課題
高橋 美由紀 (兵庫教育大学)、柳 善和 (名古屋学院大学)、清水 万里子 (岐阜大学大学院)、
米田 尚美 (岐阜聖徳学園大学)、柴田 里実 (名古屋学院大学)、長 友潤 (名古屋経済大学高蔵中学校)
この発表では、小学校高学年における英語活動の実践を、その方法と将来に向けての課題を提示することで考察する。小学校英語活動は現在8割を超える小学校で実践されている。従来は、英語活動の内容は挨拶などの簡単な会話、ゲームであり、導入のきっかけとしては十分機能していた。しかし、実践が年数を重ね、小学校英語活動の経験年数が長くなってくると、同じ活動を繰り返すのではなくて、より難易度が高く、児童の知的発達に見合った内容を提供する必要がある。特に高学年の児童を対象にした指導計画、実践の方法は検討の時期に来ている。
この発表では次のような内容を中心に論じる
(1)小学校英語活動における習熟度の指標の設定:カルガリー(カナダ)のESL教育で利用されている英語習熟度の指標(ベンチマーク)をもとにして、経験年数、習熟度にばらつきが生じやすい高学年のカリキュラム作成の実際や指導テクニックを論じる。
(2)異文化理解教育との関係:異文化理解教育を取り入れることによって、知的好奇心が高くなる高学年の児童の発達段階により適合したカリキュラムを考察する。
(3)文字導入の可能性:文科省の現在の方針は文字導入に否定的である。しかし、英語活動の経験年数が重なり、知的好奇心が旺盛な高学年の児童から文字を遠ざけておくのは現実的ではない。公立小学校の「読み」を中心とした文字教育の実践を考察する。
(4)高学年の英語活動に焦点を当てた教員研修のあり方:(1)〜(3)やその他の実践を行うには教員研修が不可欠である。このような教員研修のあり方を具体的な実践例を参照しながら考察する。
問題別討論会 第1会場
「学級担任を中心とした小学校英語活動」
司会者: 柳 善和 (名古屋学院大学)
提案者: 清水 孝子
(各務原市歴史民族資料館・前岐阜県各務原市立稲羽西小学校)、
高橋 美由紀 (兵庫教育大学)、柳 善和
(名古屋学院大学)
司会者
柳 善和 (名古屋学院大学)
小学校英語活動はすでに80%以上の小学校で導入されている。実際に担当しているのは学級担任を始めとして地域の英語講師、ALTなど様々であるが、このような実践が普及すればするほど、それぞれの学級担任が中心となって英語活動の進め方を考えざるを得ない。学外の人材を積極的に活用する可能性は探る必要があるが、規模が大きくなれば、それだけに頼った運営は困難である。安定した内容を児童に提供するためには、学級担任が英語活動の核にならざるを得ない。この会場では、実際に小学校英語活動を学級担任が中心になって実践している岐阜県各務原市の清水孝子先生がその実態を報告する。次に、小学校教員の養成の現場からどのような内容を教員養成に取り入れる必要があるかを高橋美由紀先生が提案する。最後に柳が愛知県瀬戸市と名古屋学院大学が実施している現職教員のためのセミナーを例に取り、現職教育の内容を検討する。
提案1 学級担任による英語活動(清水孝子)
提案2
大学における小学校英語活動の実践指導の現状と課題(高橋美由紀)
提案3
学級担任による英語活動を支える現職教員の研修(柳善和)
提案1 学級担任による英語活動
清水 孝子 (各務原市歴史民族資料館・前岐阜県各務原市立稲羽西小学校)
各務原市の小学校では全ての学級担任が毎週英語活動の授業を行っている。そのうちの48%がAll
Englishの授業である。活動を始めて5年目であるが、この発表ではその実態を報告する。
このような成果に至った要因には、前向きに取り組む教員の姿勢がある。そして、市教育委員会・校長会の施策がある。例えば、指導計画の作成や副読本の作成と配布、授業を見て個別に指導する指導員の配置、教員の能力向上ための米国からの英語講師の招請及び学級担任とのTeam
Teachingの実践、米国での英語指導の研修の奨励、米国から講師を招いての夏季休業中の集中講座の実施などである。この上に、各学校1名の英語専門委員からなる会を設け、指導計画の検討・修正や指導法などの交流をする。これは学校間格差をなくすのに有効である。全体の授業数が少なくなっている状況で週2回の英語活動は比重が大きい。勤務校では、公務分掌に英語プロジェクト委員を設け、英語研修のリーダー、教材教具の整備を担当している。筆者は教員に英語研修を勧め、優秀な講師の招聘、そして県の事業をフルに活用してネイティブスピーカーを導入した。
平成16年度末、職員の意識調査をした。英語活動の授業への意欲を5段階で聞いたところ「とても意欲的」「どちらかといえば意欲的」で77%に達していた。
しかし、「私の発音を聞かせたりまねさせたりしていて本当に良いのだろうか」という不安は持ちつつである。この気持ちこそが指導能力向上の源泉でもあろう。一方、6年生の児童の86%が「担任のClassroom
English を理解できる」、94%が「英語活動は楽しい」と答えている。授業者の懸命の努力に児童が応えてくれるということは、人間関係が築かれた学級担任だからであろう。
提案2 大学における小学校英語活動の実践指導の現状と課題
高橋 美由紀 (兵庫教育大学)
文部科学省の調査によれば、平成16年度に小学校英語活動を実施した学校は92.1%(20,700校)であった。また、そのうち約90%が学級担任主導で行なっていると報告されている(2005.3.27)。しかしながら、英語活動についての温度差は大きく、熱心な学校もあるが、一方では、英語のビデオ鑑賞であったり、研究開発校等の活動をそのまま取り入れたために、各々の学校や学級に適した活動ではなかった場合もあった。また、活動の目的とは乖離したゲームや、レッスン内容と歌が合っていなかったり、さらには、中学校の英語教育の前倒し等、英語活動には効果的ではないものもあった。これらは、教師の「実践の知識」「実践経験」不足が一因であると考えられる。
本発表では、公立小学校において実施されている英語活動において、はじめに、筆者が大学の学部学生・大学院生を対象にして2000年から現在まで行なってきた、「小学校英語活動教師養成講座」での指導内容について述べる。次に、兵庫教育大学の小学校教員養成課程の学部学生と大学院生に行っている実践指導の内容とその効果について述べる。具体的には、筆者が昨年度秋季から実施している実技指導内容について述べる。筆者は、現在、「小学校英語活動の実技指導」として、「英語コミュニケーション」や「小学校英語教育論」等の授業と、「実技教育指導研究センター」において、英語の歌やゲームを主に取りあげて、受講者に実践的な知識と指導力をつけさせることを目的に実践指導を行なっている。受講者に実践指導を行なう時には、単に歌やゲームの知識や実技指導ではなく、一つの英語の歌をスパイラル方式で教えるために、子供の発達段階に応じた指導方法や、input
からoutputへ繋げる歌、子供達の発話を促すゲーム等を理論的な背景を説明しながら行い、英語活動のカリキュラム・プランニングをする時に、応用ができることを前提にして実施している。最後に、これらのことから、小学校英語活動の実践指導の課題について述べる。
提案3 学級担任による英語活動を支える現職教員の研修
柳 善和 (名古屋学院大学)
小学校英語活動を実践する際に常に問題になるのは、担当者の問題である。現在の小学校英語活動は学級担任ばかりではなく、地域の英語講師(海外生活の経験者、私塾や民間英語学校の講師)、ALT(地域の中学校、高等学校のALTの応援も含む)など多くの人々がその実践を支えている。小学校に学級担任以外の人々が入り、教育に関わることは児童の発達に好影響を与えるのは間違いなく、このような実践はこれからも続けるべきであろう。
しかし一方では、様々な人々が教育に関わることになると、その取りまとめが重要な仕事になる。また、実践する学校が増え、授業時数もさらに増えてくると、やはり学級担任が相当な部分を担当しなければスムーズな実践は期待できなくなる。
そこで現職の教員の研修が重要な意味を持つ。この発表では、筆者が関わっている愛知県瀬戸市の「小学校英語教育ワークショップ」を例にして、現職教員の研修の内容として何が必要であるかを提案したい。一つは、英語活動の授業を維持できるだけの英語能力である。特に教室英語の実際を知ることは授業を進める際の自信につながる。また、発音に自身のない教員が多いので、ある程度の正確さを訓練する必要がある。二つめは、授業実践のいろいろなテクニックである。これについては、アイデアだけでなく、ワークショップなどの形で、自分が教師役になって児童に見立てた参加者を動かしてみる、などの活動を取り入れると効果が上がる。さらに三つ目は年間カリキュラムを作成するための理論的な背景知識である。以上のような内容を持ったワークショップをどのように展開しているかを紹介する。
問題別討論会 第2会場
「やる気と自律的学習はどこから生まれてくるのか―授業と家庭学習の有機的結びつきを求めて―」
司会者: 大和 隆介 (岐阜大学)
提案者: 山下 敦子
(岐阜大学教育学部附属中学校)、伊藤 崇
(岐阜県立羽島北高等学校)、
木村 隆 (椙山女学園大学)、大和 隆介
(岐阜大学)
司会者
大和 隆介 (岐阜大学)
現在の限られた英語の授業時間(中学:週3〜4時間;高校:週5〜7時間)の中で、生徒が基礎的な言語知識のみならず実践的コミュニケーション能力を身につけることは容易なことではない。この困難な目的を達するためには、授業外での英語の学習量を増やす必要があることは自明のことであろう。そして、そのためには、生徒の「やる気」と「自律的学習能力」を育成することが何よりも重要だと考えられる。本問題別討論会では、このような認識に立って、以下の2点に焦点を当てた報告と提案を行い、掲げたテーマに対する理解を深めることにしたい。
1.学習者の英語学習への関わり方の調査。
@学習者の「授業外での英語学習の状況」調査の結果報告。
A学習者の「英語学習一般に対するやる気(動機づけ)」調査の結果報告。
B学習者の「英語学習の実態」と「英語学習に対するやる気」の相互関係の検証。
2.「自律的学習能力(メタ認知的学習能力)」と「やる気」の伸張を目指した授業実践の紹介。
@中学:「かかわりを大切にしながら自律的に学習する生徒の育成」
A高校:「高等学校におけるFonFとメタ認知活動を重視した授業実践」
B大学:「学習者の自律を目指したトレーニングの実践−学習日誌の利用−」
C大学:「大学における学習ストラテジー指導を取り入れた授業実践」
提案1 かかわりを大切にしながら自律的に学習する生徒の育成〜振り返りと学習のコツを意識した授業実践〜
山下 敦子 (岐阜大学教育学部附属中学校)
小学校で英語を学ぶことが当たり前になってきた昨今,中学生は英語学習をどのように捉えているのだろうか。また、彼らに必要な英語の授業はどのようなものであろうか。本提案では、中学生を対象にしておこなったアンケート調査の結果と授業実践の様子を報告することにしたい。
T.アンケート調査から
中学生はどのようなことに興味関心を持ち,どのような時に英語学習が楽しいと思ったり,英語学習の必要を強く感じたりするのだろうか。中学校1年生の導入段階では,教科書の語彙・表現のみでは,学びの欲求を満足させることはもはやできないようである。多くの中学生は、小学校の頃には出てこなかったような語彙や表現に新鮮さを感じ,「もっといろいろな言葉や表現を覚えたい。」という感想を持っていると言える。このような彼らの意識に関わる部分をアンケートにより調査した結果を報告する。
U.学習のコツ(効果的学習ストラテジー)を意識した授業実践の紹介
15年度から授業において,効果的学習ストラテジーの指導を導入した。中学生向きに学習ストラテジーを21に絞り提示し、自律的に学習する生徒たちを育てるには,継続的にこの指導を続けていくことが不可欠だと考え取り組んできた。特に,ワークシートを工夫することにより,生徒に「自信」をつけ,さらに彼らが本来持っている「やる気」を呼び起こし,「もっと学習したい」「もっと練習しなければ」という積極的な姿勢を呼び起こすことに力を入れてきた。そのような授業実践の内容を紹介したい。
提案2 高等学校におけるFonFとメタ認知活動を重視した授業実践
伊藤 崇 (岐阜県立大垣商業高等学校)
本提案では、(1)高校生の英語教育への関わり方の実態をアンケート調査による結果に基づいて報告する。続いて(2)岐阜県立高校1年生2クラスの生徒を対象に1年間行った「メタ認知的活動を伴うFocus
on Form(以下FonF)を中心とした授業実践」を報告する。
(1)県立普通科高校及び商業高校に学ぶ高校生に対する、英語学習への関わり方の調査
参加者:岐阜県立羽島北高校3年生、大垣商業高校2年生 各2クラス
材料:本討論会の調査研究のために作成した質問紙。
方法:通常の授業において、上記の質問紙を、本報告者が調査の趣旨を説明した上で実施。
結果:大会において報告。
(2)「いかにしてコミュニケーション活動の中で文法知識の習得を図る指導を行うか」、「いかにして自律的学習者を養成するか」という2つの問題意識をもとに、特に次の2点に留意した授業実践を行った。
1.明示的文法指導と比べ、内容理解中心の授業の中で文法項目にも注意を払わせる指導(Focus
on Form)を行った場合にどのような違いが生じるか。
2.FonFの活動に加えて、学習者が自らの活動を振り返る機会を与える(メタ認知的ストラテジー)指導を行った場合にどのような違いが生じるか。
上記のような指導を行なった結果を、指導文法項目の習得に関する確認テストや指導前後の信条や態度の変化に関する質問紙による意識調査の2つの方法で検証した。その後も同様の授業実践(メタ認知的ストラテジー指導とFonF指導を組み合わせた指導)を年度末まで継続的に行い、生徒の英語学習に対する信条や態度の変化を質問紙による意識調査で検証した。
提案3 学習者の自律を目指したトレーニングの実践
−学習日誌の利用−
木村 隆 (椙山女学園大学)
本提案では、まず、@英語非専攻女子大学生の英語学習への関わり方の実態を知るために行ったアンケート調査の結果を報告し、続いて、A学習者の自律を促進するためのトレーニングとしての、学習日誌の利用について検討する。
学習日誌の利用は、それ自体が、自分の感情を把握して情緒面のコントロールに役立てたり(Oxford,
1990)、ストラテジーの理解度や有効性を自分で評価する(Chamot
et al., 1999)ためのストラテジーとなるが、同時に、学習者を自律へと向かわせるためのトレーニング手段としても有効性を持つと考えられる。学習者は、日誌をつける過程で頻繁に自分の学習を振り返ることになり、自己洞察や自己評価を通して自律への意識が高まる(臼杵,
1996)と考えられるからである。
また、教師が学習日誌の読み手となり、記入内容にコメントを付して学習者に返すことによって、個々の学習者の能力や特性を考慮した、学習への「足場がけ」を与えることが可能である。
さらに、コメントによるフィードバックを通して学習者と教師の間に対話が形成されれば、学習態度や意欲の向上につながることも期待できる。
本提案で報告する実践では、女子大学生に対して、上のような対話型の日誌(Dialog
Journal)を利用した「学習者」トレーニングを行うことにしている。大会では、指導内容の詳細や指導の経過について報告し、学習日誌が学習者の自律にどのように寄与し得るのか検討したい。
提案4 大学における学習ストラテジー指導を取り入れた授業実践とアンケート結果のまとめ
大和 隆介 (岐阜大学)
本提案では、(1)教育学部2年生に対して行った、学習ストラテジーの指導を取り入れた授業実践を報告し、(2)中学生・高校生・大学生の英語学習への関わり方の相違点と共通点について、アンケート結果を基に報告する。
(1)
大学生を対象とした学習ストラテジーの指導を取り入れた授業実践
本提案で紹介する授業実践の特徴は、学習ストラテジーの指導が学習者のやる気や自律的学習能力の伸長に役立つという仮説に基づき、メタ認知ストラテジーを中心とした学習ストラテジーを授業に積極的に取り入れたことである。具体的には、学期開始時における学習ストラテジーに関するガイダンスとストラテジー・ダイアリーを用いた指導である。
(2)
中学生・高校生・大学生の英語学習に対する関わり方の違いと共通点
提案1〜提案4において実施した英語学習に関するアンケート調査の結果を基に、英語学習への「やる気」や「学習時間」が、学年の進行とともにどのように変化するかを報告する。
問題別討論会 第3会場
「センター試験のリスニング導入を受けてのリスニング指導の在り方」
司会者: 杉野 直樹 (立命館大学)
提案者: 杉野 直樹 (立命館大学)、浅見 道明
(お茶の水女子大学付属高等学校)、
相澤 俊行 (東京工業専門学校)、鈴木 久実
(都立深川高等学校)
司会者および提案1 大学入試センター試験の英語リスニングテスト
杉野 直樹 (立命館大学)
2006年度入試から大学入試センター試験に英語リスニングテストが導入されることとなり,それに先駆けて昨年9月には試行テストも実施された。実践的コミュニケーション能力重視の流れを受けてようやく導入されるこのリスニングテストに対しては,washback効果も含めて高校における英語(リスニング)指導実践に対して大きな影響力を持つと考えられていたと思う。では実際に,リスニングテストの導入はどのような影響を及ぼしつつあるのだろうか。期待されたようなインパクトはあったのだろうか。あるいは逆に,センター試験のリスニングテストは,学校英語教育で育成しようとしている能力を測定するものなのだろうか。この問題別討論会では,こうした問題意識を念頭におき,まず試行テストのテスト項目を分析し,それらが測定しようとする能力について問題作成の観点から推定する。その上で,三つの具体的指導実践例と,それぞれの実践の背後にある指導者の意志決定(なぜ,どの活動に,どういう学習段階の生徒たちを,どの程度取り組ませるのか)がどのように行われるのかを明確にしたい。そして,指導実践そのものよりも,その背景にある意志決定について,オーディエンスとともに考え,共有することを目指したいと考えている。同時に,この問題別討論会が,指導者の実践知とテスト項目作成上の実践知が歩み寄る一端となれば,と願っている。
提案2 リスニング指導には何をどう指導すべきか
浅見 道明 (お茶の水女子大学附属高等学校)
リスニングの困難点: 大学生を対象にしたリスニング中の問題点の認識に関する調査 高橋(2003)
「次々に話される単語や文を区切ることができない」「聞いたことのある単語の意味を再生するのが遅い」教育心理学年報 第43集
1. 連続する音を聞いて、頭の中で処理する力がない
2. 英語を日本語に変換して処理するので、次から次へと聞こえてくる音を処理できない
連続する音を聞いて処理するために身に付けるべき力とは:
1. 文法力 I direct films an' act'n 'em, too.
2. 語彙力 directの意味がわからない
3. 発音の知識
語末の破裂音の脱落、前置詞や代名詞の弱化
4. 英語を英語で理解する力(右方向の読み)
発音の知識について:
The most important way that English speakers help their listeners to follow
is by grouping words so that they can be more easily processed. The stream
of talk does not flow smoothly; it is composed of a series of brief spurts.
These spurts of speech are the organization of the speaker's thoughts into
groups: phrases, clauses, and larger utterances.
Not only does written English have punctuation as an aid, but readers can
always reread if there is some confusion. On the other hand, in spoken
English there is neither punctuation nor the opportunity to recheck the
words, so listeners must rely entirely on the intonational marks in order to
know what words are grouped together. Each thought group has a "focus
word" that will receive a pitch peak. Thought groups generally start on
a higher pitch and then drop at the end. To clearly mark the end of the
group, there are several intonational signals: pause, a drop in pitch, and
lengthening of the last stressed syllable.
"Pronunciation Practice as an Aid to Listening Comprehension" Judy
Gilbert(1995)
したがって、segmentalな指導ばかりでなく、Primary stressやintonationといったsuprasegmentalな指導を行うべき
自分の行っている指導:
オーラル・コミュニケションTばかりでなく、英語T・Uでオーラルイントロダクションの導入によって4技能を盛り込む。さらに、授業のはじめに10段階100項目(島岡2004)により発音指導を行う。
提案3 標準化リスニング試験が測定する能力とクラスルーム・シャドーイングの指導法について
相澤 俊行 (東京工業高等専門学校)
H18年度センター試験導入の試行試験や、TOEIC
のような標準化リスニング試験に対応するために、教室では現在様々なリスニング指導法が実践されている。その中でシャドーイングへの関心も高まっている。シャドーイングを、「作動記憶機能の効率化技術」と捉える玉井健(2005)の実証的研究もある。本発表では、言語習得メカニズムの中核は恐らく「記憶」にあると捉え、シャドーイングを音、意味、調音の「自動化促進技能」と捉え、ヘッドセット無しでの普通教室でのシャドーイング(classroom
shadowing)を、高専1年生対象に実践した指導を紹介する。また、朝の10分間SHRを利用しての「朝シャド」と名づけた、1学年5クラス対象の2週間に渡るクラスルーム・シャドーイング実験についても概説する。それらの結果今見えてきた、効果的クラスルーム・シャドーイングの指導法とその予想される効果について若干の提案をしたいと考える。
提案4
現場でのリスニング指導の実態と、今後のリスニング指導のあり方について
鈴木 久実 (東京都立深川高等学校・早稲田大学大学院)
センター試験でのリスニングテスト導入を受けての現場の反応、リスニング指導の実態や実践についての報告と、これからのリスニング指導のあり方について検討する。すでにオーラルコミュニケーションが導入されており、リスニングを入試で課す大学も少しずつ増えているので、センター試験でのリスニングテスト導入に対して現場ではそれほど大きな動揺はないように思われる。これをきっかけに、何か授業でも対応した方がいいと考えている教員が多くいるが、新課程のため単位数が少なくなり、そのなかで今まで授業でやってきたことをやらなければならず、なかなかリスニング指導に時間をかけることができないでいるのが現状である。またそうした中で、様々な工夫を凝らし、リスニング指導に取り組んでいる教員もいる。今後、授業の中で、どのようにリスニング指導を行い、受け身でなく生徒達が自ら聞くリスニング指導のあり方について、意見交換ができればよいと思う。
課題別研究プロジェクト発表 @
「英語コミュニケーション活動研究(人間形成に関わる英語教育のコンテクストの中で)」最終発表
司会者: 長谷川 和則 (静岡産業大学)
提案者: 永倉 由里
(常葉学園短期大学)、各務 行雄 (愛知産業大学)、
杉浦 俊一 (愛知県立渥美農業高等学校)、森 暢子
(愛知学院大学)
司会者
長谷川 和則 (静岡産業大学)
3年間のプロジェクト研究のまとめとなる発表を行う。長谷川は司会をする。次の4件の発表がある。
発表1 主体的な学びと意味あるコミュニケーション活動による学生たちの変容―短大生の「話せるようになりたい」にどう応えるか― (永倉 由里)
発表2 中学校英語教科書の分析―音声面はコミュニケーションとどう関連しているか (各務 行雅)
発表3 職業高校生の「今」を題材にしたオリジナル教材 (杉浦 俊一)
発表4 人間形成を目指す英語コミュニケーション活動を教えてくれる本 (森 暢子)
発表1 主体的な学びと意味あるコミュニケーション活動による学生たちの変容―短大生の「話せるようになりたい」にどう応えるか―
永倉 由里 (常葉学園短期大学)
本発表は、「英語コミュニケーション活動が英語コミュニケーション能力をどう育てうるか」についての実践報告である。対象である女子短大生の特性を考慮し、彼女らの「話せるようになりたい」という期待にどう応えうるかを検討するものである。
アンケートにより、学生の英語学習に対する目的意識、学習習慣等を調べた上で、以下のように、目的を掲げ、論理的根拠に基づいた手段を用いて実践を行なった。
1.目的として「英語コミュニケーション能力」のみならず、日本語を含む「対人コミュニケーション能力」を高めることを掲げる。
2.論理的根拠として、先行研究(三浦、2003など)を学生に示し、手段としては、意味あるコミュニケーションを行うことが重要であることを説明した上で、関心の持てるトピックスについて、表現の必然性、活動の具体性、自己関連性に配慮した活動をさせる。
3.授業中の雰囲気にも配慮し、安心して自己表現をし合えるような空間を作り、想像力・感受性を発揮できる授業を展開させる。
4.学生の実態に配慮し、学習者としての自立を促し、自己表現につながる自学メニューを提案し、学習の自己管理を促す。
5.英語コミュニケーション能力の伸長を自己評価できるよう、評価の仕方を工夫する。
発表2 中学校英語教科書の分析―音声面はコミュニケーションとどう関連しているか
各務 行雅 (愛知産業大学)
本発表は、前年度に発表された「中学校英語教科書の分析-諸活動は意味あるコミュニケーションのどの段階にあるか」に続くもので、特に音声面に焦点をあて分析・考察を試みる。実践的コミュニケーション活動が人間教育的な意味合いを持つためには、いろいろな活動が単なる情報の授受に終始するのではなく、発信者の気持ちや感情などを正しく音声面を踏まえた英語らしい英語で、受信者に伝えることが肝要である。では、現行の中学校英語教科書で取り上げられている種々の音声面のポイントはどう記述されているのだろうか。この点を明らかにするため、次の観点を中心に分析を行った。
1)リズム(ストレス・イントネーション・ポーズ)
2)音声変化(連結・脱落・弱化・同化・強形/弱形)
3)個々の発音(母音・子音)
分析の結果、全7社の教科書には多くの相違点が見られた。記述内容は編著者の意向が随分と反映されているが、3年間を見据えながら、かつ本文の内容とタイアップすることが必要ではないかと思われる。今後、指導者はターゲットとなる文法項目を取り上げる際には、音声のポイントを踏まえ、音声の記号を上手に活用しながら、系統的にわかりやすく指導することが重要である。そして、教科書で取り上げられているスピーチ・スキット・ドラマなどの発表教材をふんだんに使い、生徒が人の前で人間味のあるコミュニケーション活動ができるような方向性を見出すことは有意義なことだと考える。
発表3 職業高校生の「今」を題材にしたオリジナル教材
杉浦 俊一 (愛知県立渥美農業高等学校)
職業高校の生徒は、大学受験という外発的動機もあまりなく、英語嫌いの生徒が大半を占めている。そこで、生徒の日常、身近なもの、体験、気持ち、意見などを教材のテーマとした自己関与性の高いものを提供することで学習意欲をたかめようとした授業実践を報告する。さらにその中で、生徒の自己理解、他者理解、自尊感情の高まり、よりよい対人関係へのヒントなどを追求した。具体的には、筆者が工業高校と農業高校で実践した以下の3つの授業である。
1.「怒りのスキット」をアサーティブに書き換える
最終的には、相手を責めないで自分の感情を素直に表現するassertive
なコミュニケーションの方法を身につけようというもの。怒りの場面をスキットで再現し、怒りの感情の扱い方や問題解決の方法を考えた。最後に、I
-message
を使ったダイアログに書き換え、違いを感じてもらった。
2. 上級生が回答する「人生相談」
1年生の悩みに3年生が回答するという人生相談を英語でおこなった。ある程度身近な存在からの相談と回答ということと、本物のコミュニケーションということが生徒を意欲を高めた。
3. 「消したいもの」ミニ国際比較
What would you erase if you had an eraser that could erase anything?という質問に生徒が答える。同じ質問を海外の同年代の若者にも行い、簡単な国際比較を行った。その違いを自分たち自身を見つめ直すきっかけにしようとした。
発表4
人間形成を目指す英語コミュニケーション活動を教えてくれる本
森 暢子 (日本福祉大学非常勤)
人間形成を目指す英語コミュニケーション活動とはどういうものなのかを教えてくれる本を紹介する。理論と実践の両方からみていく。理論では、日本人の手で書かれたコミュニケーション論を英語を使うコミュニケーション論だけでなく一般的なコミュケーション論にもふれて紹介する。コミュニケーション活動の実践報告は中学校と高校に分けて紹介する。中学校の実践報告は、授業の中でコミュニケーション活動を行う場合、どういったトピックを扱うか、どうやって生徒に動機付けをするか、具体的にどんな会話が話されたか、等を紹介する。また高校の実践報告では、異文化コミュニケーションにおける文化を、国や民族の違いと捉えるだけでなく、個人個人の文化の違いとも捉え、どんな違いがあるか、どう対処していったらいいかを、クイズを交えながら指導して行く方法を紹介する。
課題別研究プロジェクト発表 A
「英語教育におけるvocabulary learning
の理論的・実践的研究」
司会者: 船城 道雄 (静岡大学名誉教授)
提案者: 望月 通子 (関西大学)、佐久 正秀
(大阪信愛女学院短期大学)、
本田 勝久 (大阪教育大学)、船城 道雄
(静岡大学名誉教授)
司会者
船城 道雄 (静岡大学名誉教授)
1.日本語教育の視点による語彙習得研究概観 (望月 通子)
2.語彙学習における英単語親密度の研究 (佐久 正秀)
3.語彙学習における学習者要因−モティベーションとストラテジーの観点から− (本田 勝久)
4.コーパス言語学とメンタルレキシコンから見た語彙学習の方策 (船城 道雄)
発表1 日本語教育の視点による語彙習得研究概観
望月 通子 (関西大学)
本プロジェクトは、英語教育における語彙学習をめぐって習得理論と教育実践の両面から3年間にわたって研究するものである。第1言語と第2言語のメンタル・レキシコンについては諸説あるが、小論では英語教育、日本語教育のインターフェイスをめざし、その基礎研究として国語教育、日本語教育の観点から、語彙力と日本語力の関連性、受容語彙と発表語彙の語彙サイズと定着、語彙学習の難しさの要因、評価など語彙習得のメカニズムに関する研究の現状と課題について考察する。
発表2 語彙学習における英単語親密度の研究
佐久 正秀 (大阪信愛女学院短期大学)
本発表では、英語の話し言葉のデータベースから頻度の高い単語を抽出し、それらの単語親密度を日本人高校生に調査した結果を報告する。単語親密度は単語に対する心理的な尺度の一つであり、刺激語として提示された単語に対して被験者がなじみの度合いを評定した結果を平均化した数値のことである。学習者の英単語の理解や産出には、その単語の使用頻度のみならず、学習者にとってのその単語の親密度も大きく関与していると思われる。また、単語親密度は学習者の言語知識や言語経験を反映し、単語頻度とともに、学習語彙の選定に役立つものと考えられる。頻度と親密度とはどのような関係にあるのか。そして親密度が高い語と低い語にはどのようなものがあるのか。これらの問いを通して、単語親密度から語彙学習の実態を調べることを目的とし、統計処理によって得たデータをもとに報告する。
英単語親密度の調査に使われた英単語はCOLT(The Bergen
Corpus of London Teenage Language)をもとに選ばれた。COLTはイギリス・ロンドンの13歳から17歳までのティーンエイジャーたちの話し言葉50万語を収集したコーパスである。そのコーパスをもとに語彙使用頻度を調査し、英単語表を作成した。高等学校での英語学習の実態を考慮し、使用頻度上位2840語からランダムに300語を選び、高校生学習者に提示した。
調査の結果、単語親密度の順位と使用頻度の順位との間の相関係数が認められた。また、個々の英単語に目を向けると、使用頻度が高くとも親密度が低い単語、また使用頻度が低くとも親密度が高い単語が存在することが明らかとなった。
発表3 語彙学習における学習者要因―モティベーションとストラテジーの観点から―
本田 勝久 (大阪教育大学)
第二言語学習者にとって語彙習得 (vocabulary acquisition)
が大変重要であるという指摘は、これまで数多くの研究者によってされてきた
(e.g., Allen, 1983; Laufer, 1986; Nation, 1990)。語彙習得への関心が高まり、その実証的研究が増える一方、学習者の語彙指導に悩んでいる教師も多く、実用的な語彙指導の事例とともに効果的な語彙学習の研究が望まれている。語彙習得の研究においては、1.
学習者が語彙を習得するその過程を明らかにすること、2.
学習者がどのようなコンテクストの中で語彙を習得するかを重視すること、3.
語彙学習における学習者が使用するストラテジーを考慮すること、などが指摘されている
(e.g., Lawson & Hogben, 1996, p.102)。確かに語彙学習ストラテジー
(vocabulary learning strategy)
の研究は、学習者にどのように語彙を提示するかという方法論に付随した「語彙の記憶保持」に関するものがこれまでの中心課題であった
(Meara, 1982)。しかしながら近年そのアプローチが拡大し、様々な研究方法の利点と問題点が紹介されるとともに、学習者の習熟度やそれ以外の要因とストラテジー使用との関係が明らかになってきている
(Gu & Johnson, 1996; Kojic-Sabo & Lightbown, 1999; Nation, 2001)。本発表では、語彙学習における学習者要因という観点から、主にストラテジーとモティベーションを取り上げる。語彙学習における学習者のモティベーションの変容を調査したものとしては、Tremblay,
Goldberg, & Gardner (1995) に見られるTrait & Stateモティベーションが挙げられる。前者は、これまでAttitude
/ Motivation Test Battery (AMTB)
などで測られてきた比較的安定した学習者の傾向としての動機づけを意味している。後者は、ある特定の学習状況における学習者の反応であり、一時的で不安定な動機づけを意味している。さらにBoekaerts
(1986) は、後者のモティベーションと言語学習不安
(language learning anxiety)
との関連を指摘している。これらの要因を語彙学習の中に適切に位置づけることによって、今まで見えなかった語彙学習の姿が見えることにもなるかもしれない。
発表4
コーパス言語学とメンタルレキシコンから見た語彙学習の方策
船城 道雄 (静岡大学名誉教授)
中学・高校の英語学習者はどのようにして英語の文の構造を習得しているのだろうか。一つには、モデルとなる文型を覚えて動詞以外のスロットに類推によって語を代入する直感的方法があるが簡単な文にとどまり拡大がない。もう一つには五文型というものに基づいて文を作る文法的方法があるがいくつかの難点がある。コーパス言語学の進展とともに学習者コーパスの研究がなされ、単語どうしのコロケーション(共起関係)頻度が得られるようになった。過不足のない文をつくるには動詞の下位範疇化情報の習得が必須であるが、学習者コーパス、母語コーパス、目標言語コーパスなどを多重比較することによって有意味な理論モデルが構築されるだろうと言われている(投野2003)。小論では動詞のコロケーションに焦点をあてながら母語の影響や普遍的な習得要因を考察する。文を作ったり理解するのに頭の中に蓄えられている語彙(メンタルレキシコン、心内語彙)の中から必要な単語を使って、文を作ったり、文を理解したりしている。母語としての日本語の心内語彙と外国語としての英語の心内語彙が別個に存在するのではなく、母語を基盤とした単一の統合化された心内語彙が存在していて、必要に応じてそのいずれかの単語が使用されている(門田2003)。教科文法に使われている五文型もある意味では動詞の下位範疇化情報であるが、目的語と補語の概念だけで十分な下位範疇化情報を具現できるわけでもない。小論はメンタルレキシコンとコーパスの知見を利用しながら語彙学習が文の構造習得につながる言語普遍的な簡単な方策を提案する。
文献: 門田修平(2003)『英語のメンタルレキシコン』松柏社、投野由紀夫(2003)「コーパス言語学がもたらした新たな語彙指導」『英語教育』10月号、船城道雄(2003)『日本語が話せれば英語はなせる』学研。
特別研究プロジェクト発表
「英語科における到達目標の設定:未来志向の評価を念頭において」
司会者: 北 弘志 (仁愛大学)
提案者: 新里 眞男 (富山大学)
司会者
北 弘志 (仁愛大学)
足かけ3年にわたった研究でしたが、責任者である私の力不足と諸事情によって皆さんの総力を結集することができなかったことを心からお詫び申し上げます。「日本人が日本の国益と国策を考えた、校種や年齢を取り払って、日本人の為の英語力到達目標の設定が急務である」というのが私の持論です。この点が他の方々とは異なる力点の置き方かなと思います。私はこれからの国のあり方は「民族主義と自由主義国家的民主主義」だと思惟いたします。日本の英語教育もこの国のあり方を実現させることに資するものであるべきと考えます。その観点から後掲の新里先生のレジュメにある4点を考えてみます。@私は日本人とって必要な英語の学力は聴く力・話す力と読解力(英語を読んで意味が分かること)だと思っています。英語らしい発音の習得と、構文・文型、そして適切な時制の使い方の習得です。そしてそれらは、あるコミュニティーで英語を使って生きていくためのものであります。Aどんな日本人になるかを学習者が理解し、目標ついても理解し、納得し、自覚していることが求められます。あまりに細かい評価よりも目標を学習者、教師共、つねに納得、自覚していることが重要であります。そのことが学習者の学習へのモーティベーションを高めることになるからです。B小学校の英語教育から、最近は小中の英語教育の連携を提唱、実践することが多くなってきています。目標の一貫性が重要です。C日本人が国際社会の中で生きていくのに必要な英語力:英語力の中でも基本的な学力要素を絞り込んで目標と評価の項目に据えることです。
提案1
新里 眞男 (富山大学)
昨年度の富山大会では、到達度目標の設定の必要性を確認するとともに、具体的な到達目標を作成する際の留意点について、出席者と話し合った。そこで、出された意見として、@日本の学習者を念頭に置いた日本独自のもの、Aできるだけ学習者にもわかりやすく、また、教師を萎縮させずに利用しやすいもの、B具体的であり、特に初級レベルの段階付けがきちんとなされているもの、Cあまり細かすぎず、一般の日本人の英語力も含めたレベル付けとなるもの、などがある。
その他、とにかくたたき台となるものを早く提示すべきだという意見も出された。
以上の意見をもとに、山梨大会では、4技能別の到達目標表の具体的な提案をすることにする。これを土台にして、参加の皆様からの意見を入れ、また、日常的な改良を加えていき、実際に活用可能なものにしていくことを考えている。当日は、この提案の大まかな骨組みや柱立てについて議論を深め、ある程度の共通理解に到達したい。
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