第1日目

自由研究発表

第 1会場(1階 K117)


① 発問のタイプが物語の理解度に及ぼす影響:英語力との関係について
奥村 信彦(長野工業高等専門学校)


昨年度、課題別研究プロジェクト「リーディング指導における生徒の読みを深める発問づくり」において、物語を読む際に、読み深めを促す推論発問のみを与えられたグループと文字通りの理解を求める逐語発問のみを与えられたグループに読解の直後、リコールテストを課し、物語の内容をどれだけ記憶しているかを測定した結果、再生されたプロトコルのアイデアユニットの量には差が見られなかったことを報告した。これは、逐語発問を与えず推論発問のみを与えた場合でも、学習者は逐語発問で問われる事実情報を押さえながら推論発問にも答え、その結果、事実情報についても逐語発問のみを与えられた場合と同様の理解が得られたことを意味している。
これは、推論発問に答えるために、学習者が事実情報についても積極的に理解を試み、これに基づいて推論発問に答えた結果と考えられる。
本研究では、昨年度のプロトコルを学習者の英語力との関係に注目しながら分析し、その結果を報告する。また、そこからどのような読解指導への示唆を得ることができるかを考察する。

② 多読による読書量と関係のある要因の分析
種村 俊介(沼津工業高等専門学校)

発表者は、2009年度に担当した4年生4クラス、3年生1クラス、1年生1クラスの英語の授業内において、15分間の多読活動を継続して実施した。本研究の目的は、多読活動参加者の授業内多読活動とそれにより誘発された授業外での多読を合わせた読書量と、多読活動参加者を対象に行なった質問紙調査のデータを基に、読書量と関係のある要因(多読を促進した要因)を探ることである。本発表では、主に、授業内多読活動と質問紙調査の内容、調査から得られたデータの分析結果について報告したい。

③ 学習者の多読活動の体験に関する質的研究~多読指導の改善に向けて~
千田 誠二(和光大学)

これまで多くの研究において、英語教育現場での多読活動のさまざまな効果が検証されている(Elley and Mangubhai,1983; Tudor and Hafiz,1989; Robb and Susser,1989; Pilgreen and Krashen,1993; Cho and Krashen,1994; Mason and Krashen,1997)。これらの研究は主に実証研究が中心となっているのが特徴である。初級学習者のケースを考えると、多読活動の効果は数値では測れない学習者の態度に起因するところが大きい。それ故、学習者がどのような多読活動の体験をしたか一人一人の内面を質的に詳しく調べる必要があろう。
そこで本研究では、多読活動を通して初級学習者がどのような体験をしたのか利点と困難点の両面から捉えていった。研究方法においては現在注目されつつある新しい質的研究方法である構造構成的質的研究法(西條、2005)を使って4人の学習者にインタビューを行い、内面に迫っていくことを試みた。
結果、従来見られた読解力の向上などの利点はもとより、初級学習者に特有な困難点もいくつか見られた。それらの困難点を踏まえて多読活動のよりよい改善に向けて提案を行う。

④ 高等学校の英語授業におけるメインアイディアを捉える指導効果の検証
金田 浩人(富山県立氷見高等学校)

本発表は昨年の「高等学校の英語授業におけるメインアイディアを捉える指導の効果について」の継続発表である。高等学校の英語IIの授業において、筆者の一番言いたいメッセージ部分であるメインアイディアを捉える指導をして、その結果生徒の英語力にどれだけの伸びが認められたかを検証した。高等学校の普通科2年生の生徒71名(2クラス)を対象にして、約1ヶ月半、授業回数にして13回指導を実施した。この2クラスを実験群クラスと統制群クラスに分けて、統制群ではメインアイディアを捉える指導をしないが、読解の活動を実験群よりも多めに実施した。プリテストとして、速読力、読解力、メインアイディアを捉える力、語彙力を測定した。 また、ポストテストも同じテストで測定した。
実験結果のまとめとして次の2点があげられる。(1)速読力を測るテスト結果により、メインアイディアの指導を受けることで、実験群の生徒の速読力に統計的に有意傾向が見られたこと。(2)筆記再生テストの分析結果により、メインアイディアの指導を受けることで、実験群の生徒の読み方が変化している可能性があること。考察結果の詳細は当日発表する。

第 2会場(1階 K126)

① 英語を苦手とする大学生の否定的感情軽減を目的としたスピーキング活動の実践
宇都宮 隆子(金沢工業大学)

英語学習に苦手意識があり、その運用に不安感・ストレスを持つ学生にとって、英語のスピーキングは「よくわからない・うまくできない」という、自身に対する否定的な感情を生み出す原因となる場合が多い。スピーキングをスムーズに行うことができない理由として、「語彙不足」、「文法の理解不足」、「定型表現不足」があげられる。また、スピーキングをうまくできない学生は、うまくできないことに対する「恥ずかしさ」、「自信の喪失」という感情も同時に抱いてしまい、そこからなかなか抜け出せない状態となる。このような状態をどうにか改善できないものかと、英語の基礎知識がまだ不安定な大学1年生66名を対象に、授業内でスピーキング活動を定期的に行うことを試みた。参考にした活動は、 “sentences per minute”(磯辺2009; Soresi2005)アクティビティーである。この活動の「1分間に何文の英語をしゃべることができるか」という基本部分は変えてはいないが、担当学生のレベルや学習目標に合うよう、トピックの選択や活動の進め方に多少の工夫をほどこした。また、担当した英語科目は、全学科共通の英語必修科目の1つであったため、シラバスの進行状況を妨げないよう毎回ではなく、授業時間に余裕のある回のみ行った。学期末には、このスピーキング活動に関する授業アンケートを学生に対し実施。本発表では、その結果を参考に、今回実施したスピーキング活動に対する有効性と今後の課題について考察していく。

② 英語教師のための発話トレーニング法の開発と実践
伊藤 佳貴(大同大学大同高等学校)

コミュニケーション活動をする上で、話し上手な人は有利である。このことは、学校の授業にも当てはまり、一般的に授業が上手いと言われる教師の授業を参観すると、圧倒的に話術に長けた教師の割合が多いのが分かる。とりわけ言語の習得を目標とする英語の授業では、教師の話術そのものが、授業の成否に影響を及ぼすと言っても過言ではない。
では、いかにすれば豊かな話術が身につけられ、学習者との間に円滑なコミュニケーションを築き、延いては授業を成功へと導くことができるのか。本発表は、この課題を解くべく発表者が勤務校にて取り組んでいる実践の報告である。
発表では、まず、現代演劇理論の一つであるスタニスラフスキーシステムを応用した発話のトレーニング法について、実際の教材を使いながら紹介する。このトレーニング法によって、教師は授業において多様な発話形態を意図的に操ることが可能となり、その結果、学習者とのコミュニケーションを円滑に進めることができるようになると期待される。
次に、このトレーニング法を用いて実際に行った指導について、平成21年度から実施している初任者研修の模様を一例として報告する。具体的な内容としては、初任者教師2名に対するトレーニングの様子やトレーニング前後の授業比較、さらに初任者研修を終えた教師らへのインタビューなどを紹介する。そして、このトレーニング法が英語授業に果たす役割について考察する。

③ 外国語活動 校内研修プラニングのための現状把握アンケートの開発と考察
犬塚 章夫(愛知県総合教育センター)

小学校の外国語活動が来年度完全実施となる。それにともない各自治体での研修が進められている。しかし自治体で開催される研修会に参加できる教師は各学校の代表(あるいは、一部)であることが多く、すべての教員が研修を受けるには何年もかかることになる。それだけに国が示す「中核教員」の立場の先生が、ある時は研修を企画し、ある時は講師となって、各小学校で校内研修を行うことが必要になってくる。実際の校内研修実施率は、小学校現場の多忙化も加わり、伸び悩んでいるのが現実ではないだろうか。
本研究は、校内研修を実施する際に、どんな内容を行えばよいのか、実態を把握するためのアンケートとそれを容易に分析できるプログラムの開発が目的である。担任が負担なく取り組めるアンケート用紙の作成と、データを入力するだけでビジュアル的に研修ポイントを示してくれるプログラムを作成した。実際に本アンケートとプログラムを使用した小学校の実例をもとに、その有効性を考察したい。

④ 小学校英語活動とその後ーO市立中学1年生のアンケート調査からー
片野田 浩子(名古屋経営短期大学)

東海地方O市内には公立小学校が9校、公立中学校は3校ある。自身の昨年の小学校の調査に引き続き今年はこの中学校3校の1年生にアンケート調査(項目1「英語の勉強は好きですか」、項目2 「小学校の時、英語活動は楽しかったですか」、項目3「小学校の時、英語の時間がどの程度わかりましたか」、項目4「知らない単語を見て発音することはできますか」、等を含め9項目、アンケート項目は橋口(2006)を参考)を行った。目的はアンケート結果を(1) クラス別、 (2) 小学校別、(3) グループ別、 (4) 個人別、の4つの視点から眺めた場合、有意な差や相関関係が示されるかを調べる事である。(1)の“クラス別”とは、出身小学校がフォニックスを導入していた(以降Pクラス)か、ゲーム中心(以降Gクラス)だったか、(3)の“グループ別”とは、Pクラス出身女子(以降PG)、同男子(以降PB)、Gクラス出身女子(以降GG)、同男子(以降GB)の4つのグループである。統計的検定の結果、次の事がわかった。(1) のクラス別ではすべての項目において有意差無し、(2)の小学校別では 項目1において9校のうち2校の平均に有意差有り、(3) のグループ別では項目3で、PBとGG並びにPBとPGにおいて有意差有り(即ち、Pクラスの男子が“わからない”という印象を抱いている割合が高い)、(4)の個人別では 項目2と3、項目1と3、項目1と2、において有意な相関関係が見られた。以上について中学校へ効果的に繋げる小学校英語活動についての考察を加えながら発表する。

第 3会場(1階 K127)

① リスニングと発音指導-ネイティブの「助言」は何か-
荻原 洋(富山大学)

リスニング指導の考え方の中に「発音できる音は聞き取れる」というものがあるが、同じような意味で「英語のリズムで発音(音読)できれば、英語の聞き取りは容易になる」という主張がある。実際、リスニングや発音練習の教材の中には「まず英語のリズムに慣れよう」という単元から始まっているものが見られる。本来英語のリズムは個々の音の発音の連続の上に成り立っており相互に独立したものではないため、これらの要素を別々に(あるいは順番に)練習することには無理があるのだが、英語学習に使える時間が極めて限られている現状の中で、少しでも効果的な学習をデザインする(優先的に学習すべき項目を探し出す)ことは教師の重要な仕事の一つである。
本発表では、優先的すべき項目のヒントとして「日本人の英語発音のどこを矯正すればネイティブ・スピーカーの受けが良くなるか」を調べたものを用い、ネイティブがより好ましいと感じる英語発音の特徴に慣れることがリスニング力のより大きな向上に繋がるものかどうかを検討してみたい。

② 英語異種への接触経験が日本人学習者による非母語話者英語の聴解に及ぼす影響
大井 美友紀(信州大学大学院生)

英語が国際語として広く機能するようになった現代において、非英語母語話者との英語によるコミュニケーションの頻度は高まっている。一方でEFL環境にある日本の学校教育の中で、彼らの多様な英語が扱われることは少ない。Matsuura (2007)は、さまざまな英語にふれることが、母語話者内に存在する異種を含め、多様な非母語話者の話す英語の理解を高める可能性を示唆した研究を行っている。本研究はMatsuuraの研究をもとに、英語異種への接触経験の要因が聴解に及ぼす影響を調べることを通して、非母語話者の英語を始めとした様々な話者の英語を学習環境に取り入れることの教育的示唆を得ようとするものである。そこでMunro & Derwing (1995, 1997)らを始めとする非母語話者の英語の聴解に関する先行研究をふまえ、学習者のこれまでの英語異種への接触経験(familiarity)が、学習者の聴解(comprehension)、聞き取りやすさ・アクセントに関する認識(perceived comprehensibility, accentedness)に及ぼす影響を調べた。対象者は大学生91名で、中国人話者の英語の聞き取りテストを実施した。テストにはdictation testとfree written recall testが用いられ、質問紙をもとに得られた学習者のfamiliarityとそれぞれのテストの結果との相関を調べた。また7件法を用いてperceived comprehensibility, accentednessを判断してもらい、これらとcomprehensionとの関係性も調べた。分析にはケンドールの相関係数を用いた。その結果と考察は本発表で行う。

③ 英語音声教材のためのソフトウェア利用について
宮崎 剛(静岡県立藤枝北高等学校)

1 本発表の目的:
従来音声教材の補助としてテープやMDを用いていた。最近ではipodやUSBメモリなどが音声教材の記憶媒体として使われている。本発表はこれらを互換的に用いるために、音声編集ソフトsound it (ver.5) を用いて、授業準備から教室での活用の方法例を提案する。
2 ハードウエアとして用いているもの:
MD・CDラジカセ(携帯できるもの)、音声入出力ケーブル、USBサウンドプロセッサ
ノート型PC(OSwindows vista)
3 音声録音(保存)方法について
音声はマイクあるいはラジカセから、ケーブルを通じてUSBサウンドプロセッサを通し、コンピュータに入力する。音声編集ソフトウェアは音声が波形になって画面上に表示することができ、視覚的に編集できる利点を持つ。保存方法も出力方法にあわせて幾つかの形式に保存することが可能である。
4 音声出力方法について
CDやMDなどと同じようにケーブルとUSBサウンドプロセッサからラジカセへ音声信号を送ることが可能である。教師が音声を提示する場合、PCの画像や動画などを同一画面上で提示すれば、電源のon/offを含め機器の管理が一元化することができる。
5 CAI教室での音声データ活用
イヤホンや簡単なヘッドセットが用いられるCAI教室を用いれば、音声データはLL教室のような形で用いることが可能である。手法として①それぞれのPC上に音声データをコピーする、②USBメモリを用いる、③サーバーに保存しクライアントPCからアクセスする。以上のような手法を用いれば、生徒の能力に応じてデータの活用ができる。

④ バラク・オバマ氏の「Yes We Can」スピーチの分析とその教育的意義
森 一生(福井県立丹南高等学校)

Obama大統領が行った選挙中の演説には名演説が多い。その一つに予備選挙の序盤にNew Hampshire州で行った「Yes We Can」がある。本発表では、この演説がなぜ人々を魅了したのか分析し、さらに教材として用いる場合の効果と問題点を指摘する。

第 4会場(1階 K128)

① The Hokuriku Gakuin Standard of English Education ~Methods of Supporting Standard Outliers ~
Lynch, Gavin(北陸学院大学短期大学部)

Hokuriku Gakuin, an educational system from kindergarten to university, is a private school located in Kanazawa, Ishikawa. English education has been a part of the curriculum at all stages (except kindergarten) since at least 1964, with kindergarten adding English from 2000.
Having English taught at every level means that communication between schools becomes very important. Teachers need to be aware of the ability of the students coming into their school from another level of Hokuriku Gakuin as, without this knowledge, time may be wasted in teaching something that students already know. Facilitating the construction of such a knowledge and communication framework was one of the reasons for the birth of the Hokuriku Gakuin Standard of English Education in 2007.
This Standard provides a consistent framework, from kindergarten to university, based on the CEFR (Common European Framework of Reference). International testing connected to the CEFR, the Cambridge ESOL suite of examinations, is used at each school (apart from kindergarten) to help to understand students’ ability in a global context.
In reality, however, all students do not progress to the next level within the same educational system (e.g. after finishing elementary school they may choose to go to a different junior high school), and students from outside the system may join at any stage. Furthermore, even students from within the Standard may not be able to keep up with the classes and may end up needing educational support.
This presentation will, after discussing education from kindergarten to junior college, focus mainly on the situation at the university level of the Standard. Methods of teaching compulsory English classes for first year students needing support at the lowest level of ability will be presented, along with results from CEFR based testing.
It was found that, even at the lowest level, students’ results and motivation toward studying English could be significantly improved during a one year, 30 class course. Given the correct tools and opportunities some students could become independent learners, continuing to study after the end of their compulsory course.

② What Grades Students Expect and What Grades They Deserve
Quinn, Kelly(名古屋工業大学)

This presentation will deal with the effect of grade entitlement on English Programs in Japanese universities. For years, teachers and administrators have noted that even though Japan is one of the highest spending countries on English education, there has not been a commensurate increase in English ability. Most research to explain this disparity has thus far focused on methodology, class size and teacher qualifications.
Recent research dealing with academic entitlement at US universities may offer an alternative explanation for some of the lack of success that Japanese universities have experienced. Ellen Greenberger, one of the authors of “Self-Entitled College Students: Contributions of Personality, Parenting, and Motivational Factors”, which appeared last year in The Journal of Youth and Adolescence claims that in recent years, the number of students appealing their grades and expecting to be rewarded for effort rather than results has increased. Greenberger paper motivated this study.
200 Japanese students completed a survey that presented a number of grade scenarios. The students were asked, based on test grades and completed assignments, what grade a student should receive in each hypothetical situation. Similarly, full-time and part-time teachers were asked what grade they would give in each situation. This paper will explain the different situations, students’ and teachers’ responses to the scenarios and then discuss the implications for English education in Japan.

③ Comparison of the original and its simplified text
大達 誉華(名城大学)

In this presentation, I would like to report a study which compares an extract from an original episode of “Sherlock Holmes” to its simplified version designed for learners of English. The study aims to explore prominent features of each text and examine how the process of such simplification would affect learners. The comparison and examination of the two texts put the focus on three linguistic features: grammar, vocabulary, and discourse. Due to the nature of simplification, one can easily assume that the simplified text contains less information than the original text. The results of the analysis, however, show interesting facts; in many cases the simplified text lacks information which is included in the original text as has been predicted but in some other cases, the opposite happens. For example, there are more frequent turn takings in a dialogue in the simplified text, which also mentions who said to whom so that readers can understand the text more easily. In the original text, however, one character often produces a longer utterance at once with no clear statement about who the speaker is. Despite the common outline of these two texts, each has a number of particular features in terms of the grammar, vocabulary, and discourse, because each text targets different readers as well as different purposes. As the fundamental objective of the simplified text is to aid readers’ comprehension, words, lines, or meanings are often added or changed. The process of simplification, thus, should not be understood as mere reduction of the source story, but requires a great deal of careful consideration about learners’ cognitive process of understanding. In other words, the process of simplification can be seen as a reconstruction and even recreation of the original text. Implications of the study could guide us to reconsidering such simplified texts as a uniquely created and appropriately designed learning tool, rather than a substitution of the authentic material.

④ 学習用英語辞書における「定義用語彙」の比較
松尾 眞志(和歌山市立和歌山高等学校)

語彙学習では、基本語の習得から始めることが効果的であると考えられる。では、基本語とは何か。学習用英語辞書に採用されている定義用語彙も、学習者にとっての基本語のひとつではないだろうか。近年、3,000語以下の定義用語彙を採用する学習用英語辞書が増えてきた。そこで、それらを比較して実態を明らかにすることから、学習者に必要な基本語とは何かを考えて行きたい。
比較に用いた定義用語彙を収録する辞書は、次の6種類である。Oxford Advanced Learner's Dictionary of Current English (2005)、Collins COBUILD Advanced Dictionary of American English (2007)、Collins COBUILD Advanced Dictionary of English (2009)、Longman Advanced American Dictionary (2007)、Longman Dictionary of Contemporary English (2009)、Macmillan English Dictionary for Advanced Learners (2007)。
それぞれどのような違いがあるのだろうか。特にCOBUILDとLongmanにはアメリカ英語版もあり、その定義用語彙に差はあるのだろうか。この発表が、基本語を考える一助になればと願う。

第 5会場(1階 K129)

① 第二言語における「形式と意味」の関係の習得:「~テイル形」には訳せない「be+~ing形」の意味を正しく解釈できるか
奥脇 奈津美(都留文科大学)

第二言語習得研究において、習得過程で得られる言語証拠に基づいて、学習者が第二言語の「形式と意味」の関係を習得できるかどうかという問題がある。アスペクトを含むtemporality(意味)は言語に普遍的に存在すると考えられるが、それをどのように文法化しているか(形式)は言語によって異なる。たとえば、英語の状態動詞(States)は通常原形で「状態」を意味するが、日本語では「状態」は「~テイル形」で表され、同形は同時に「出来事が進行している(event-in-progress)」という意味も表す。学習者は、第一言語の知識と第二言語証拠に基づいて、このような普遍的な意味特徴と言語固有の形式との関係を習得する必要がある。
アスペクト仮説研究では、動詞の持つアスペクトの特徴(意味)が形態素(形式)の使用に影響するとされている(Andersen 1991; Andersen and Shirai 1996; Bardovi-Harlig 1999)。この仮説では、学習者が形式に付与するアスペクトの意味は言語証拠に基づいて次第に発達していくと仮定する。一方、第一言語転移理論に関する研究(Schwartz and Sprouse 1996, Housen 2000)では、学習者は特定の言語項目については第一言語の特徴を‘unlearn’するのは困難であるとされる。本研究では、大学生80名を対象に文法性許容判断テストを行い、「be + ~ing形」が表す意味を正しく解釈できるか調査した。特に英語と日本語で「意味と形式」の関係が異なる場合に注目し、①状態動詞やbe動詞が進行形で使用されたときに表される「状態の一時性」、②到達動詞(Achievements)が進行形で使用されたときに表される「状況の準備段階(the preliminary stage of a situation, Smith 1997)」の意味が正しく解釈されるかどうか調べた。この実験の結果を第一言語の影響に言及しながら考察する。

② PPP授業とTBL授業の文法指導における効果の比較検証
川本 祥也(奈良教育大学大学院生)佐藤臨太郎(奈良教育大学)

日本の英語教育においては、PPP(Presentation-Practice-Production)の流れに沿った授業展開が伝統的に、かつ一般的に行われている。しかし近年、第二言語習得研究に基づいたタスクを用いた授業、つまりTBL(Task-Based Language learning)授業が話題となっている。De la Fuente(2006)の語彙習得の効果に関する研究においては、PPP授業を受けたグループよりも、TBL授業を受けたグループの方が、授業1週間後に行われた遅延テストにおいて有意に高い得点を獲得している。De la Fuenteの研究においては、TBL授業は語彙習得に一定の効果がみられたが、日本のような、教室外での英語使用場面がほとんどないEFL(English as a Foreign Language)環境においては、TBL授業は適さず、PPP授業の方がよいという指摘もある。
本研究では、文法指導において、PPP授業とTBL授業ではどのような効果の違いがあるのか、どちらの授業法が適切であるのかを、以下のような授業・テストの結果を通じて比較検証を行う。なお、結果および考察は当日発表する。
〔対象〕本学学部2回生45名を対象に仮定法を指導する授業およびテストを行った。
〔方法〕45名を2クラス(A・B)に分け、AクラスではPPP授業、BクラスではTBL授業によって仮定法を指導した(50分授業2回ずつ)。1回目の授業前に事前テスト、2回目の授業直後に事後テスト、2回目の授業1週間後に遅延テストを行い、その結果を比較した。テストは誤文訂正(間違いの訂正・間違いの説明)と英作文の2種類を用いた。
〔考察〕(1)AクラスとBクラスとでは、テストの得点に有意な差がでるか。
(2)習得された知識の種類(明示的知識・暗示的知識・手続き的知識)には、両クラスで違いはあるのか。

③ 英語の自動詞に関する暗示的及び明示的知識の測定
得田 尚希(信州大学大学院)

第2言語学習者は第2言語に関する暗示的知識と明示的知識を保持している(Ellis, 2009)。Ellis (2009) はこれらの両知識について調べる際に、両知識を適切に計測する測定法の存在が不可欠であるとしている。先行研究 (Ellis, 2005, 2009) では17項目の文法事項について模倣テスト、口頭物語テスト、問題文提示時間制限のある文法性判断テスト、時間制限のない文法性判断テスト、メタ言語知識テストを用いた両知識の測定法の妥当性に関する研究を行っている。また島田 (2010) は20項目の文法事項について時間制限のある文法性判断テストと時間制限のない文法性判断テストを用いた両知識の測定法の妥当性に関する研究を行っている。そこで本研究では、新たな文法事項として自動詞の用法を取り上げて、追実験を行うことを目的とした。目標文法項目は、smile, happenなどの自動詞であり、目標構造としてそれぞれの動詞を含むSV (文法的)、SVO (非文法的)、受身文 (文法的) の3つの構文を扱った。参加者は、40人の大学生英語学習者である。
測定方法として、Ellis (2009) で用いられた5つの方法を参加者に実施した。得られたデータに対して、ピアソンの相関を計算し、分析と考察を行った。本発表では、この実験結果を報告するとともに、この測定法が自動詞の用法に関する暗示的知識と明示的知識を識別して測定する方法として妥当であるかどうかの考察を述べる。

④ 中学生が難しいと感じる文法項目(II)
岩本 藤男(静岡県焼津市立大井川中学校)

新学習指導要領が告示され、平成24年度完全実施に向けて教育現場では準備を進めている。学習指導要領の改訂に際しては多くの現状分析がなされ、それに基づいた改善点も示された。新学習指導要領は、「基礎学力の定着が不十分であった」現状を踏まえ、学習した内容の中で定着しにくい部分を「繰り返して指導し定着を図る」ことを求めたと考えられる。「繰り返して指導し定着を図るべき内容」とは何であろうか。文法項目に関して、その答えを求めて、岩本(2009)は、3年間、授業の中で暗唱活動に取り組んだ中学3年生を対象にアンケートを実施し、「中学生が難しいと感じる文法項目」を調査した。そして、その結果を基に「繰り返して指導し定着を図るべき文法項目」を提案した。今回の発表では、岩本(2009)が、「中学生が難しく感じる文法項目」の調査で対象とした生徒たちの3年間の「定期テストの分散」を調査し、テスト結果からみた「中学生が難しいと感じる文法項目」を提案したい。そして、その「テスト結果」を「意識調査結果」と比較することを通して、「繰り返して指導し定着を図るべき文法項目」をより明確にしていきたい。また、3年間の英語学習の過程で、英語学習を始めて最初に実施したテストの分散と比べて、分散が大きくなる時期、つまり学力差が顕著になる時期を調べ、3年間の英語学習の過程で「特に注意して指導すべき時期」を明らかにしたい。

第 7会場(4階 E401)

② The junior Minimal English Test (jMET): A Study at a Junior High School in Gifu Prefecture [in English]

Yoshimura Juri(岐阜大学)Megumi Hasebe(岐阜大学)Maki Hideki(岐阜大学)Chise Kasai(岐阜大学)Toshiro Umezawa(岐阜女子短期大学)Kenichi Goto(日新中学校)Jessica Dunton(University of Maine)Sachie Ono(岐阜大学付属中学校)Takahiko Kishi(岐阜大学付属中学校)

The Maki Group has found statistically significant correlations between the scores on the Minimal English Test (MET), a 5-minute English test, and the scores on the English Section of the University Entrance Examinations in Japan from 2002 to 2009 (.59<r<.72). Maki et al (2009) created a junior high school version of the MET (jMET 3) for the 9th graders based on the textbook New Horizon English Course 3 widely used in Japan, and investigated a correlation between the scores on the jMET 3 and the scores on the English part of the second term test (Term Test), administered to the 9th graders at a junior high school in Japan. There are 65 blank spaces on the jMET 3. It takes about 5 minutes to complete it. The Term Test consists of listening comprehension and reading comprehension, and the full score of the Term Test is 100 points. The passages in the jMET 3 are all from the materials covered by the Term Test. Through a simple regression analysis, Maki et al (2009) found a strong correlation between the scores on the jMET 3 and the scores on the total scores on the Term Test (r=.87, n=171, p<.05).
The present research raises the question as to whether the same tendency can be observed for 9th graders in other junior high schools. If the same tendency is observed for a different set of participants, it will provide strong support for their finding. To address this question, we administered the jMET 3 to 9th graders (n=71) at a junior high school in Gifu Prefecture, which uses the textbook New Horizon English Course 3. We found a strong correlation between the scores on the jMET 3, and the scores on the total scores on the term test of this junior high school (r=.78, n=71, p<.05). The present research thus suggests that the jMET 3, when further elaborated, will enable SLA researchers to test hypotheses in pilot studies in SLA on junior high school students in a time-saving manner. (334 words)

③ 学習者コーパスに基づく使役動詞の使用の状況
井上 聡(神戸大学大学院生)

使役動詞は,学習者にとって理解が困難な文法項目のひとつである。基本的な意味は「~させる」であるが,make, let, have, getごとに微妙なニュアンスの違いが存在することに加え,補部構造に対する選択制限の違いが理解の障害になっているものと考えられる。井上(2010a)では,母語話者コーパスに基づき,使役動詞makeの用法として,補部構造の典型性を解明した。次に,井上(2010b)では,学習者コーパスに基づき,使役動詞makeの使用において,JLE(日本人英語学習者)がNS(英語母語話者)に比べて,「原形不定詞」や「過去分詞」を過剰に使用する傾向を明らかにした。さらに,井上(2010c)では,統計的手法を援用して4種の使役動詞(make, have, get, let)の用法の分析を行い,それぞれの使用頻度,態選択の傾向,補部動詞の形式や意味に差があることを明らかにした。得られた主な知見は,共起する補部動詞の性質によって,使役動詞を3群に分類できることである。makeの補部動詞には「状態性」が,get/haveの補部動詞には「到達・達成」が含意されるのに対して,letの補部動詞はその2種の中間あたりに位置づけられること,および極めて成句性が高いことが判明した。では,これら4種の使役動詞の関係性は,学習者にどの程度まで理解されているのだろうか。この点を解明するため,本研究において設定するリサーチ・クエスチョンは,JLEとNSの間において,(1)使役動詞の使用状況に差はあるか,(2)補部動詞の形式の使用状況に差はあるか,(3)使用される補部動詞の意味特性に差はあるか,の3点である。中間言語分析の視点に立ち,高校生や大学生の英作文を詳細に検討することによって,「自然な語と語のつながり」という面からの差の状況を明らかにし,今後の使役動詞の指導における教育的示唆を得るものとする。

④ アジア圏の英語教科書に見る比喩表現の使用:コーパスに基づく計量的分析
石川 慎一郎(神戸大学)

物事を何かになぞらえて表現する比喩(trope/ figure of speech)は重要な表現技法の1つであり,文体論や文学解釈において古くより盛んに研究されてきた。metaphors we live byという言葉にもあるように,比喩は日常言語の中にも普遍的に存在している(Lakoff & Johnson,1980)。ひるがえって英語教育について考えてみると,これまで比喩指導は必ずしも十分とは言えない状況にあった。しかし,英文を正しく理解し,英語による豊かな表現力を身につけることを目指す上で,段階に応じて適切な比喩指導を行うことは不可欠であると思われる(Azuma,2005他)。本研究では,大規模な母語話者コーパスと,日中韓英米の英語教科書コーパス(岡・石川・東,2009)を使用し,比喩表現の使用状況について比較考察を行い,今後の英語教育における比喩指導についての指針を得ることを目的とする。
比喩には,表現対象と外部参照物との関係性により,直喩・隠喩・換喩・提喩などのいくつかのタイプがあるが,ここでは,copula+like の形を持つ直喩(simile)を主として取り上げる。本研究で明らかにしようとするリサーチクエスチョンは,(1)母語話者コーパスの各ジャンルにおける比喩頻度に違いがあるか,(2)母語話者はどのような比喩表現を典型的に使用するか,(3)母語話者とアジア圏教科書における比喩頻度はどの程度一致しているか, (4)母語話者と英米教科書における比喩頻度の一致度はどの程度か,の4点である。
計量調査の結果,母語話者コーパスにおいて比喩はさまざまなジャンルにまんべんなく出現していること,copula+ likeの後に動名詞形が頻出すること,アジア圏教科書の比喩使用は全般的に抑制的で,特に日本の教科書には改善の余地が多いこと,などが明らかになった。

第 8会場(4階 E403)

① 学びのネットワーク-Blog, Wikiを使ったライティング指導
高瀬 貴美子(武蔵野大学)

昨今のインターネットの発展と教育現場での普及は英語指導改善の様々な可能性を提供してくれる。本発表は大学での英語学習にBlog、Wikiを活用して行ったライティング指導の3例の実践報告である。1例目は大学生自身がブログを書きながら学んだ実践例。2例目は前例を発展させ、中学生と大学生の2つの異なる学習グループを形成し、大学生は中学生のブログ学習を手助けすることを通して学んだ実践例。3例目では大学生が、Wikiを使うことにより、互いのライティングを加筆修正編集しながら、クラス全体でLondonに関するencyclopediaを作ったライティング指導の実践例を報告する。言語使用のauthenticな環境を提供するBlog,Wikiを導入した言語活動の利点や問題点を指摘しながら、「スキャフォールディング」「学びのネットワーク」という観点から、CALL(コンピューターを使用した言語学習)の先行研究を踏まえ、ITを活用したライティング指導の可能性を考察した。

② 音声面(特に母音)から見た日本美の一研究ー日英語を比較して
北 弘志(仁愛大学名誉教授)

論者は現在、学びと遊びの両立の実践を思考し、詩吟と小唄とど演歌を同時に週に1回ずつ、どれもプロの先生方に習っている。そして、遂に、邦楽一般に共通する音声現象(発声に係わる)を発見し、確認した。そして、その現象は日本語の音韻、音声構造にのみ可能である。この事実は日本人英語教師は知っていた方が英語教育にも大いに資すると考え、発表し、反応を得ることにした。論者が経験した歌の中では、ある語末、語尾の母音字は伸ばすだけではなくて、最後の母音字音を何度も繰り返すことである。このことによって、日本音楽はリズムや間(ま)により「癒しの音楽リズム空間(論者の造語)」を創出しているという事実を論者の体験によって突き止めたことを発表したい。

③ 東海圏の工業大学における初年次英語教育の現状と課題
石川 有香(名古屋工業大学)

工業大学は,地域産業の発展に寄与する工学技術者の養成を設置目的とする。多くの場合,単科大学の形態をとっており,入学当初から学生の意欲や関心は,総合大学に比べると,専門科目に高度に方向付けされていると言える。特に,製造業が集積する東海圏においては,激化する国際競争の中での生き残りをかけた「ものづくり」の現状を身近に感じる環境が整っているため,「科学技術英語」や「工業英語」など,専門分野に特化した,いわゆるESP教育に対する期待が学生からも工学系教員からもますます大きくなっている。
Leggett(1966)をはじめ,工学分野ではこれまでにもESP 教育が盛んに研究され,実践されてきているが,入学したばかりの大学生に対する英語教育は,専門課程での英語教育とその意義が異なり,単なるESP 教育の前倒しではないと考えられる。さらに,近年では,濱名・川嶋(2006)など,高校教育から大学教育へのスムーズな移行を促すための初年次教育の研究もおこなわれるようになってきたが,先に述べたように,総合大学における初年次教育と工業大学における初年次教育も異なる点が多い。
筆者は,これまでに,石川(2007,2008,2009),石川・小山(2007),中野・小山・石川(2006)などにおいて,専門課程での英語教育(ESP)と高校までの英語教育(EGP)をつなぐものとしての「一般科学英語」(EGSP)という概念に基づき, 語彙指導,リーディング指導,オーラルプレゼンテーション指導の研究を行ってきた。本研究では,名古屋圏の工業大学における初年次教育のあり方をひろく検討するために,まず,専門教育および卒業生への英語ニーズ調査を行う。ついで調査の分析結果を踏まえつつ,工学大学における初年次教育の現状を確認する。さらに,初年次における科学技術英語のテスト分析を通して,EGSPの問題点を考える。

④ 「習得」から「活用」への広がりを目指した授業実践
長田 幸代(石川県立小松明峰高等学校 金沢大学大学院)坂上智子(小松市立芦城中学校)

1 金沢大学連携ゼミナール 中高大教員合同研修会
石川県では金沢大学と県内の小学校、中学校、高等学校が連携し、研修が行われている。平成21年度には英語科のゼミが開講された。それぞれの校種の受講者が「活用力」をキーワードとし、「習得」から「活用」を目指した授業実践を行った。今回の発表では中学校、高等学校から各一例の実践報告を行う。
2 中学校のスピーキングの授業例
スピーキング活動を通して自己表現力の向上に取り組んだ例を紹介する。「活用力」を,「学んだことを通して生き生きと自己表現できる力」と定めた。生徒が達成感を得られる授業づくりの一環として積極的な発言を促すようなインタビューテストを工夫した実践報告を行う。
3 高等学校のライティングの授業例
高校3年生のライティングの授業における課題型英作文の指導例について報告する。「学んだ英語を自分の言葉として用いること」を「活用」とし、生徒が授業で「習得」したことを生かして言いたいことを表現することのできる「活用」できるような授業を目指した授業改善の実践報告を行う。

問題別討論会

第1会場テーマ 「小学校での外国語活動の必修化を受けて、中学英語をどう円滑に進めるか―金沢市を始めとする先進的事例から学ぶこと―」
司会者:川畑 松晴(元金沢学院大学)

平成23年度からいよいよ小学校5、6年生で週1時間、「外国語活動」が必修化される。それにより、平成25年度の中学新1年生は、全国すべての地区において、最低70時間分の「外国語活動」を経て中学校に入学することとなり、さまざまな面での変化が予想される。中学校の英語指導は、従来のものとは大きく変わらざるを得ないであろう。
本討論会では、中部地区の中で、すでにこのような状況を先取りして実施している「先進的」事例の4中学校から発表をしていただき、「中学英語をどう円滑に進めるか」を考えたい。

提案1 小中の連接を踏まえた英語教育の在り方 ~CBAEの手法を取り入れて~
      鈴木 恭三(岐阜県教育委員会)

笠原小学校及び笠原中学校では,平成15年度から教科の学習内容や題材を素材としたコンテ
ント・ベイスト・アプローチ(Content-based approach in English:CBAE)の手法を取り入れ,小中の連接を踏まえた英語教育の在り方についての研究を進めてきた。この研究に基づき、下記の内容について、中学校での実践を中心に発表致します。

A 小中一貫教育
1 CBAE(Content-Based Approach)とは
2 発達段階
3 連接の視点と方法
B 小学校の研究内容
1 E学習とは
2 E学習の重点
(1) 問題解決的な活動
(2) 聞く活動重視
C 中学校の研究内容
 1 コンテント学習
  (1)コンテント学習の説明
   ① コンテント学習 必修英語 選択英語の関連
   ② 授業者の役割
   ③ つけたい力
   (2)メイン活動の説明
   ① メイン活動の内容と活動
   ② メイン活動の基本的な流れ
   ③ メイン活動の形態
 2 E活動・E体験
  (1) E体験・E活動の目標
  (2) 国際交流の日
  (3) その他のE活動
   ・イングリッシュカフェ
 3 E環境
  (1) E環境の目標
  (2) ワールドストリート
D 成果と課題

提案2  小学校の変化を受けて中学校がどう変わるか~金沢市立大徳中学校の取り組み~
   西出容子(石川県金沢市立大徳中学校)

1.中学一年生の変容(平成16年度以降)
  ①音声面で鍛えられ,言語活動に慣れている。
  ②ゲームや活動に親しみ,関心意欲の度合いが高い。
  こうした生徒達に対し,小学校と同じゲームや活動では,彼らはもう楽しめない。また,テストや課題の中で正確さを求められると,一気に意欲を失ってしまう生徒もいる。
2.中学校における授業の変容の必要性
このような変容に加えて,一年生の文法事項はほぼ小学校での既習事項であり,新出として扱っても新鮮味がない。もちろん記憶に残っていない部分もあるので,中学校教師としては押さえたい気持ちもあるが,復習に力を入れすぎると,時間ばかりかかって,生徒が退屈になる。中学校には中学校としてのより発達した興味関心の引き方を工夫する必要がある。
3.心と頭が動く英語
そんな現状で中学校教師に要求されるのは,生徒の知的好奇心を揺さぶり,もっと知りたくなる授業であろう。その中で表現力を高める工夫が必要とされる。
①授業の中で必然的にコミュニケーションを取らざるを得ない場面を作る
  →グループやペアによる活動,話しあう場面を工夫する。
②本物の教材で生徒の興味や関心を引き出す
  →外部からのリアルな情報,深い教材研究で教材に力を持たせる。
③生徒の思考を促す発問やワークシートの工夫
  →単なる情報伝達や解答ではなく,自ら教材を読み,考え,話し合えるようなワークシートや提示のしかたを工夫する。  
④スピーチや作文をまとめとして入れることで,じっくり考えて文を作らせる。

いずれも教師の教材研究と創意工夫あふれる発問が決め手になる。教師自身がまず豊かな発想と表現力を磨く必要がある。

提案3  小学校外国語活動から中学校英語へのソフトランディング~音声中心の指導から文字指導への移行~
                       楽山 進(富山県朝日町立朝日中学校)

小学校外国語活動をふまえた中学校での指導について考える。小学校外国語活動を経験し、中学校に入学した中学生のプラス面での実態を考えるならば次の3点が挙げられる。
1 英語をためらわず話す生徒が増えてきた。
2 多くの生徒が英語を単語や音素単位でなく、チャンクや文単位発音することができる。
3 数字、曜日、月、色などを英語で言える、聞いて分かる生徒の割合が多い。
しかし、その反面、小学校では英語が好きだったはずなのに、中学校では英語の授業についていけない生徒もいるのが現状である。言えるのに、書けない。聞き取れるのに、読めない。といった生徒が存在する。
そこで、中学校では音声中心の指導から文字を意識した指導への移行について以下の視点から考えてみたい。
(1)文字、意味、音声などに興味をもたせる辞書指導
①語彙指導の約束
②入門期の語彙指導での使い方
③活動につながりをもたせる使い方
④課題解決の手段としての使い方
(2)文字の音声化を定着させる音読指導
①文字の綴りや発音を意識させる。
②音声の連結を意識させる。
③チャンク(意味のまとまり)を意識させる。
④課題や目標を意識させる。
(3)ドリル的な練習から自己表現へと高める指導
 前述の内容について、当日の発表は具体的な実践事例を紹介したい。

提案4  文化、ことばへの気づきを促し、自己表現のスキルと意欲を高める
       宮下智恵美(長野県松本市山形村朝日村中学校組合立鉢盛中学校鉢森中学校)

中学校でのこれまでの指導は、音声面での指導を重視しつつも文法項目に焦点を当てた知識習得型授業や、基礎的事項の定着をねらった表現活動が多かった。しかし今後は、小学校で培われたコミュニケーション能力の素地を中学校で更にどう生かし、伸ばしていくかが課題であり、「聞く・話す・読む・書く」の4技能を総合的に育成する指導に加え、ことばや文化についての「気づき」を大切にした授業への転換が必要と思われる。そこで中学における指導の重点を以下のように考え、活動を工夫してきた。
(1)単語や基本文の暗記ではなく、実際的な場面で体全体を使って英語に親しみ、理解することを重視してきた「外国語活動」の成果を土台に、英語を聞くこと・読むことを通して、ことばや文化について中学生らしい新たな「発見」を重ねながら、英語による自己表現への意欲が高まることを目指す。
(2)小学校で培ってきた「聞いて理解しようとする姿勢」をできるだけ活かし、音声から文字言語への橋渡しを段階的に進めることで、文字や単語の認識、語順習得を促し、英語の読み書きの土台を作る。
(3)チャンツやTPRに親しんできた生徒の経験を生かし、英語らしい音声やリズム、語順の定着を図ると共に、未習語彙も題材や言語項目に関連させて豊富に音声面で親しませ、既習表現もスパイラルに位置づけてインプットの充実を図ることで、日本語を介さずにまとまった英語を理解し、積極的に英語でコミュニケーションできる生徒の育成を目指す。
以上、中学生の知的好奇心を刺激し、英語を通して文化的社会的な知識や考えを深め、表現意欲や表現技能を高めていけるよう、今後も指導のあり方を研究していきたい。

第2会場テーマ 「認知的発達段階と文法指導のありかた」
司会者:岡崎 浩幸(富山大学)

新学習指導要領では、文法指導の改善が打ち出され、「コミュニケーションを支える」文法指導の見直しが図られている。文法指導の再検討が求められている。
本分科会では認知的発達段階に合った文法指導はどうあるべきかについて討論する。来年度から外国語活動が必修化される小学校高学年段階では、初めて外国語活動を体験することを考慮し、文法的に分析するのではなく、生活場面や話題を活用し、音声的に「意味のまとまり」に多く触れさせる体験が重要になると考えられる。
では認知的発達段階がより進んだ中学高校では、どのような文法指導が効果的なのだろうか。以下に問題を提示する。
1 中高の認知発達面を考慮し、文法的に分析し、意識的に学習し、明示的知識を身につけていくことだけでコミュニケーションを支えることができるのか。
2 明示的知識を自動化するにはどのような運用練習が効果的なのだろうか。
3 文法項目に応じて、指導法をどのように変えるべきか。
以上の問題を踏まえつつ、3人のパネラーの方から、実践例とその基になっている考えを紹介してもらいます。実践をフロアーの皆さんと体験しながら、文法指導のありかたについて考えてきます。皆さんの実践や文法指導についての考えもお聞かせください。

提案者:昔農 徳行(石川県宝達志水町立押水中学校)

第30回石川大会で『Fluency から Accuracyへ』というタイトルで発表を行った。授業にFluency Practiceを取り入れて実践的コミュニケーション能力を身につけさせるという内容だった。Fluency Practiceとは「interactiveに理解可能なインプットを浴びせる過程で,学習者の英語による自己表出をなめらかにすることを目的として行う学習活動の総称」として考案した言葉である。本発表では,私がFluency Practiceとして実践していることの一端と,その活動を通して特に理解させたいと考えている文法事項について触れたい。
1.Fluency Practiceの実践例
(1) つぶやき英語の奨励
有用表現やつぶやき表現を,積極的に使用させる。教師が英語を多用することよりも生徒が英語を多用することをねらう。場面に応じて,自分が適切だと判断して使用した英語が通じるという成功体験を味わわせる。また,声にださなくても(頭の中で)英語でつぶやくよう奨励する。
(2) Communicative Bingo Activity
単語聴き取りと発音模倣活動を行わせながら,意図的に生徒と英語でinteractionを図る。
(3) Where are you on your map?
存在を表すbe動詞を用いた会話に慣れさせる。また,地図上で訪れる地名を英語人に伝える活動を通して,読めない単語が出てきた場合の対処法を習得させる。
2.特に理解させたい文法事項
(1) be動詞とは何か言える。
(2) 動詞likeの目的語が可算名詞の場合,複数形で言える。
(3) Who likes English?のような問いに対して, I do. Yuki does.のように応答できる。
(4) 一般動詞の現在形を言える。
(5) 質問文の主語を代名詞に置き換えて応答できる。
(6) a, an, the, my, your, his, her, its, our, your, their を適切に用いることができる。
(7)頻度を表す副詞 always, usually, often, sometimes, neverの用い方を言える。
(8)前置詞の特徴を言える。

提案者:正村 泉一(石川県立金沢桜丘高等学校)

金沢桜丘高校は平成21年度より文部科学省の「英語教育改善のための調査研究事業」の指定を受け、学校独自の科目を設け英語教授法の研究を行ってきた。授業を英語で行いながら4技能を総合的に高める「英語コミュニケーションⅠ~Ⅲ」と、それを言語知識の面から支える「ボキャブラリー&ストラクチャー」である。本発表では「ストラクチャー」の指導を取り上げる。
一般的に高等学校における文法指導は、いわゆる「文法の教科書」を用いることによる文法に関する説明、問題演習というプロセスで行われてきている。言語に関する知識を増加させることを目的とした指導であるが、次のような問題が考えられる。(1) 明示的、演繹的な指導をとおして、文法や語法についての言語知識を増やすことができても、それらが運用する力にまで高められていない。(2) 提示される文法項目が網羅的・羅列的であり、実際に用いられる頻度や重要度が考慮されていない。(3) 個々の文法項目が、どの技能で最も必要とされるかが考慮されていない。
そこで、学校設定科目「ストラクチャー」では、次のようなアプローチを試みている。(1) 使用頻度や運用における重要度を考慮し、項目を厳選して指導する。(2) 新しい項目の導入では、演繹的な説明は最小限にとどめ、多くの例文を使うことにより帰納的に「ストラクチャー」を理解させるとともに、パタン・プラクティス等をとおしてその項目を量的に体験させる。(3) 個々の項目がどの技能で最も必要になるかを考慮し、場面を設定した言語活動や、使用される技能を考慮した言語活動を行うことにより、運用能力を身に付けさせる。
なお、この試みにおいては、 (1) 指導の効果を測定する評価方法の開発、(2) 個々の文法項目に関して、運用能力を高めるための言語活動の工夫、(3)「英語コミュニケーションⅠ~Ⅲ」と関連付けた効果的な指導の方法、(4) 大学入試への連結方法、などが課題である。

提案者:佐藤 臨太郎(奈良教育大学)

実践的・実用的英語能力育成、コミュニケーション重視の流れの中で、コミュニカティブ教授法や、タスク重視の教授法が高校(中学)の現場でも注目を浴び、一方では伝統的なPPP(presentation, practice, production)はSLA(second language acquisition)では否定されているが、はたして、日本のEFLの英語学習環境ではどうなのであろうか。本発表では、タスクの定義を明らかにした上で、日本の英語教育現場での有効性、整合性を、筆者が行った簡単な調査を紹介しながら様々な視点から議論していく。PPPについてはSkill acquisition theory, 宣言的・手続き的知識、明示的・暗示的知識、などに言及しながら、PPPを支持する立場で議論していく予定である。PPPの問題点についても触れ、presentation での、高校生(中学生)の認知的レベルに応じた、「気づき」や「知識の関連づけ」を促す文法についての説明、効果的practiceの在り方、productionでのタスク活動の効果的利用について、実際に活動や指導法を紹介しながら進めていく。
また最近脚光を浴びているFocus on Form (意味重視のコミュニケーション活動に文法指導を効果的に組み込む、または意味に焦点を当てた授業のなかで、生徒が遭遇する発話や内容理解の問題に対して、必要に応じて学習者の注意を言語形式に向けさせるアプローチ)が日本の高校(中学)での文法指導、授業に有効に活用できるのかについて議論し、FonFをベースとした具体的指導が可能だとすると、どのような指導が考えられるのか、具体的に提案したい。
また、時間が許せば、高校生(中学生)の英語学習への動機づけや、入試対策としての問題演習活動についても触れていきたい。

課題別研究プロジェクト発表

「第二言語習得研究の成果の英語教育への応用」(代表:横田 秀樹)

司会者: 横田 秀樹(金沢学院大学)
第二言語習得(SLA)研究は、それぞれの分野の理論的背景を持ち、それを検証するために行ってきた多くの実証研究の蓄積がある。このSLAの研究成果は、方法論の比較や提案に際して、「説明」という一定の尺度を与えてくれる。本プロジェクトは日本の外国語としての英語教育環境(学校英語教育)で、SLA研究の成果をどのように応用できるのかを探究することを目的とする。具体的には、第一にSLA研究成果の英語教育への応用を試みることである。第二に、SLAから得られる知見を基に英語教育研究分野での実証研究を進めることである。これによって、時代や流行に惑わされない新旧を含めた方法論の検証が可能となるはずである。今回は本プロジェクトの最終発表となるが、「動機づけ」「気づき」「暗黙的フィードバック」「英語の主語習得」といったキーワードで行う。

提案者:上原 義正(日本大学)

いわゆる「習熟度」の低い学習者に対しての動機づけ方法論を通じての研究方法論
-研究マトリックス化-

この研究発表の目的は、いわゆる「習熟度」の低い大学生の英語学習者(JELs)を対象にどのようなアプローチを試み、質量的に対象となった「習熟度」の低い大学生の英語学習者(JELs)の英語学習をどのように維持させてきたのかについての事例を分析することで、動機づけ研究の研究方法論に新たな知見を発見することにある。では、なぜ、このような研究課題が必要なのであろうか。それは、「習熟度」の低い大学生の英語学習者(JELs)のモチベーションをどのように上げるかという教育方法も看過できないが、そのプロセスを研究対象にした場合の研究方法論の提示が必要とされているからであり、英語教育における動機づけ研究に寄与する魅力があるからである。この研究における調査の方法は、対象者が課題として「レシピ」を英語で書いた後の簡単なインタビュー調査法とAchievement Testの結果の混合研究方法(Mixed Methods)である。調査期間は2009年4月から現在におけるまで、部分的にも追跡している期間を含む。2010年5月12日まで判明している結果のみを記してみたい。授業における教員の対象者への「寸言」も含めて動機づけの影響因子と考えた。つまり、「課題」や「教員の寸言」を教育的介入因子として考察した結果、ほとんどがAchievement Testでの到達ラインには達していなかった。他方で、「課題」に対してのインタビュー調査では、おおむね「課題」に対しての満足を示していると解釈はできる。これは一体何を意味するのか。この問題を整理するために「マトリックス」を作成し、深く考察をしたところ、先に述べた教育的介入をTeacherが単独で行ってもAchievement Testには直接的な決定要因にはなりえない、というこが明らかとなった。また、「マトリックス化」を通じて明らかとなったことは、教育制度または組織化された教育が対象者の動機づけの要因となりえるという可能性である、ということである。この研究においての研究方法論として「研究マトリックス化」を新たな知見として発見した。白畑(2010)がいみじくも問題提起しているリサーチ・メソドロジー(研究方法論)を整理することに応じるように、発表時において「研究マトリックス化」にかんしての新たなサジェスチョンを得たい。

サルバション 有紀(名古屋女子大学中学校)

中学校での英語教育の大きな目的の一つとして、基本的な英文法を理解し、習得することがあげられる。これは先の改定で示された新指導要領の中でも明示されていることである。しかし、現実には練習問題を数多くこなすことで、受験問題には対応できるが、学習したことを実際の使用場面で適切に使用できないという状況がみられている。本研究では、学習を習得につなげるための一方法としてタスク活動を使用する場合、より生徒の気づき(noticing)を効果的に引き出すための扱い方について、中学校第3学年(愛知県の私立女子中学校・習熟度別クラス編成で最も習熟度が高いクラス)において行った実践結果を基に検証する。
中学校での英語教育の中で文法習得のためにタスクを使うという方法は、以前より研究がなされており、多くの手法や活動案も考え出されている。その代表的なものとして高島(2005)の研究をあげることができる。また、中学生用の英語の教科書の中にも、学習した文法事項を使って行うことのできるタスク活動が準備されているものが少なくない。しかしそれらの活動を実際に行ってみると、最終的な産出(production)に向けて学習活動が段階的に組み立てられていくため、生徒が最終的なタスク活動で用いる英語は、授業内で扱った例文のアレンジが多く見られ、自分で学習内容を理解・習得しているのかどうかを判断することが難しい。本研究ではまず、教科書で採用されているタスク活動の問題点を、実際に教室内で行った実践結果を交えながら考察する。その後、村野井(2006)が提示するPCPP指導法を念頭に置きながら、同じタスク活動を提示(presentation)と産出(practice)の2段階で行った場合の実践結果を考察する。
※PCPP=「提示(presentation)-理解(comprehension)-練習(practice)-産出 (production)」という言語学習プロセス。

酒井 英樹(信州大学)

本研究の目的は、フィードバックの一つである言い直し (recasts) を取り上げて、その効果に与える影響要因をまとめ、さらに要因の一つとして発達段階 (developmental readiness) が気づきに与える影響についての実験結果の報告を行い、教育的示唆を得ようとすることである。
言い直しは、誤りを含む学習者の発話を訂正して言い換える発話である (e.g, Long, 1996; Lyster, 1998a)。確認チェック (confirmation checks) という機能を持ち、インタラクションの焦点は主に意味に置かれたままである。学習者に肯定証拠とともに否定証拠を与える可能性を持つ暗黙的否定フィードバック (implicit negative feedback) であると考えられる。フィードバックの効果に影響を与える要因として、文法領域 (e.g., Long, 1996; 白畑, 2008)、長さと修正の数 (e.g., Doughty, 1994; Egi, 2005)、誤りの種類(語彙、発音、文法など。e.g., Doughty, 1994; Lyster, 1998b; Mackey, Gass, & McDonough, 2000; Swain & Lapkin, 1995)、識字力 (e.g., Bigelow, Delmas, Hansen, & Tarone, 2006)、フィードバックが与えられるタイミング (e.g., Sakai, 2004b)、発達段階 (e.g., Mackey, 1999; 酒井, 2000, 2004c) が指摘されている。
本研究では、先行研究 (Mackey, 1999; 酒井, 2000, 2004c; Schmidt, 1990) に基づき、学習者の発達段階が異なれば、同じフィードバックが与えられても否定証拠の気づき (noticing) に違いをもたらすであろうという仮説を検証した。目標構造は、英語の疑問文である。参加者は、日本語母語話者である大学生37人であった。発達段階として、Pienemann (1998) の処理可能性理論を援用し、評価タスクを通して疑問文を分析し、学習者の発達段階を特定した (e.g., Sakai, 2004a, 2008)。その結果、Stage 4 が 14名、Stage 5 が22名、Stage 6 が1名であった。実験タスクの中で、誤りを含む発話に対しては言い直しが与えられた。実験タスクの後で、刺激回想法 (Stimulated Recall, Gass & Mackey, 2000; Mackey, Gass, & McDonough, 2000) の手法を用いて気づきに関する言語報告を採取し、Sakai (2004b, in press) のカテゴリーを用いて分析した。発表では、分析結果を報告する。

白畑 知彦(静岡大学)

日本語は主語を省略できるが、英語は主語を省略できない。したがって、日本語母語話者(JLEs)が英語を学習する場合、英語では主語を脱落することは許されないことを学習する必要がある。しかし、産出データを分析すると、中学1年生の初期から、文の主動詞の前に名詞を省略した構造はほとんど観察されないことが数多くの研究から明らかになっている。では、JLEは英語の「主語」を容易に習得できるのかと言えば、話はもう少し複雑である。主動詞の前に置かれている名詞が、果たして「主語」なのかという問題である。つまり、JLEsは、Today's job was very tired. (今日のバイトはとても疲れた)といった英文を産出するのである。この原因は、おそらく、日本語が主題卓越言語であるからであろう。要するに、「ウナギ文」と呼ばれる日本語の構造が影響を及ぼしていると考えられる。一方、英語は主語卓越言語であるため、このような表現は許されない。
そこで、一つの試みとして、JLEsとしての大学生に、この両言語の相違を明示的に教えてみた。もし明示的文法指導が「ウナギ文」の減少に効果的ならば、彼らの誤りは減少するであろう。効果的でないなら引き続いて誤りが産出されるであろう。
実験結果から興味深いことが判明した。それは、英語の習熟度が高いJLEsには効果的であったが、比較的低い学習者には有効ではなかったのである。詳しい結果は当日報告することになるが、学習者の習熟度によって同じ指導が有効である場合とない場合があることが判明したのである。つまり、教師は学習者のレベルに合わせて指導方法を変える必要がある(領域も存在する)と言えよう。

「基礎的語彙知識の拡張と深化に関する実証的研究」(代表:杉野 直樹)

司会者:杉野 直樹(立命館大学)提案者:青谷 法子(東海学園大学)

3年の研究期間の2年目を終え,この研究課題チームではこれまでの研究成果を踏み台として次のステージに進むべく準備しているところです。しかし,これまでのところ本研究課題への新たな参画者は残念なことに皆無です。このままでは次のステージには進めません。
そこで今年度は新たな試みとして,「英語使用をencourageし,学習者をempowerする語彙指導を目指して」というテーマの下,発表者とオーディエンスという垣根を取り払った円卓会議の形を採ります。その場で,私たちがこれまで取り組んできた研究の成果をご紹介しつつ,その背景として私たちがどのようなことを考えているか,について,ざっくばらんにお伝えし,率直な意見交換ができれば,と考えています。
当然のことながら,「この円卓会議への出席=このプロジェクトへの参加」ではありません。私たちとしてはむしろ20名の参加者があったとして,その内2〜3名の方に参加していただければ十分以上だと考えています。あるいは,出席者がいない,新たな参画者が得られない,という結果であれば,私たちの行っているような研究テーマ・アプローチに対するニーズは(少なくとも中部地区英語教育学会という文脈では)低い,と判断したいと考えています。
可能な限り事前に出席者数を把握しておきたいと考えています。もしよろしければ,杉野宛て,e-mailにて出席のご予定をお知らせいただければ,と存じます。また,Twitterでも進捗状況について呟きます。@gwisno_Rをフォローして下さい。もちろん,当日のご参加もお待ちしております。
金沢でお会いできますことを!


「英語学習者の自律と動機づけ」(代表:佐久 正秀)

司会者:佐久 正秀(大阪信愛女学院短期大学)

英語学習者の自律と動機づけ

佐久正秀(大阪信愛女学院短期大学)

言語学習における動機づけの研究は、社会的および文化的要因の影響を受ける学習者の学習目標についてものがほとんどであった (Crookes, 1997)。しかし言語学習における動機づけをとらえるためには、学習者が属する言語環境と教室という学習環境の2つを考慮する必要がある。そのため日本の英語教師は、学習者の動機づけに重要な役割を果たしていることを自覚しなければならない。しかしながら、多くの英語教師が学習者を動機づける方略 を模索する中で、学習者を動機づける方法論に関する研究は不十分である。
また、欧米においては、言語学習者の自律性に関する研究も盛んである。自律学習は西洋的な概念であり、文化や教育制度の異なる学習者にはなじまないとの考えから、日本を含めた東アジアでは、西洋ほど盛んに研究は行われてこなかった。しかしながらLittlewood (1999) は、東アジアの学習者にも、自律学習を促進することは有効であり、文化的・教育的背景を十分に考慮した上で、自律学習の概念を確立し、教授法の研究を行うことの重要性を主張しており、少しずつ日本でも研究が行われてきている。
本年度は、3年間の継続研究の1年目として、英語学習者はどのような自律や動機づけについての認識を持っているのか、自律と動機づけにはどのような関連があるのか、学習者の自律や動機づけを涵養するにはどのような教育方法が可能なのか、などの問いを提案者の発表を通して議論するとともに、今後の研究の方向性を模索する。

英語学習者の自律研究

提案者:髙木亜希子(青山学院大学)

欧米において、言語教育の分野では、1960年代後半に、自律学習の概念に注目が高まり、コミュニカティブアプローチの普及とともに、1980年代からは、自律学習研究が活発になってきた (Benson, 2001)。自律は西洋的な概念であり、日本を含めた東アジアの学習者にはなじまないという考えもあるが、Holden & Usuki (1999) は、日本では教師中心の授業で英語を学習することが多く、自律的な学習態度を促進する機会が少ないだけであり、日本人学習者も自律的な学習態度を持っていると主張している。同様に、Littlewood (1999)は、東洋の学習者も西洋の学習者と同じ自律学習能力があると指摘している。従って、本発表では、教育・文化環境を考慮しながら、日本の学習者に合った自律の概念を模索する必要性を議論する。具体的には、日本の英語学習者は自律についてどのような認識を持っているのか、また英語力の違いによって自律学習の認識に違いがあるかを概観する。
上記に加え、自律学習を促す指導方法について研究を進めていく必要がある。Richards (2003)によれば、自律学習の促進について2つの考え方があり、一方の考え方では、学習者は自律能力が欠けているので自主学習ができないと考え、優れた学習者が用いるストラテジーを教師が提示し、使えるように指導することで自律学習を促進する。一方、他方の考え方では、学習者はもともと自律能力を持っていると考え、教師は学習者と協同して、自律能力を引き出すための環境を整え、学習者に学習経験を省察してもらい、自律能力をさらに高めていく方法をとる。どちらのアプローチが、日本の学習者に適しているか、(あるいは両方効果があるのか)、またどのような指導法が効果的であるか研究する方法論についても議論する。

英語学習者の動機づけ研究

提案者:本田 勝久(千葉大学)

学習者に内在し言語学習に影響を与える動機づけを探る領域が、言語の習得過程を探るという第二言語習得 (SLA) の主流と統合され始めたのは、1990年代の後半になってからである。そこには、学習者の持つ心理的な特徴と言語学習との関わりをより科学的に解明しようとする理論やモデルの登場が見受けられる。その代表的なものとして、WTC (willingness to communicate) やSDT (self-determination theory) などが挙げられるが、これらの理論やモデルが示していることは、(1)学習者の一連の学習過程の中で動機づけが果たす役割を明確にすること、(2)学習者の学習環境や様々な外的要因との関わりの中で動機づけをとらえること、に集約される。これまである特定の領域の中で妥当性が検証されてきた動機づけの研究は、学習者の学習過程をより重視することによって、SLAの主流や他の研究領域への広がりを見せている。例えば、認知心理学の中で包括的にとらえることによって、人間が「どのように動機づけられて成長していくか」という過程を研究対象とすることができるし、心理的欲求といった要因との関連を探ることによって、日々の教育活動の中で「学習者の動機づけに影響を与えているものは何か」を明らかにすることが可能となる。
このように、言語学習に影響を与える動機づけ研究の範疇は多様化している。そこで本発表では、英語学習に影響を与える(1)「社会的要因」(social factor)、(2)「情意的要因」(affective factor)、(3)「認知的要因」(cognitive factor)、という3つの観点から動機づけ研究を考察していく。特に日本の教育現場での課題を意識し、これまでの研究成果を取り上げながら、1990年代以降の新しい理論やモデルを中心に論を展開していく。

目標設定が多読指導における学習者の動機づけに与える影響

提案者:三上 由香(大阪商業大学)

英語授業において適切な目標を設定させることは、学習者の動機づけを高めたり、自律の促進につながると考えられる。しかし、実際に英語授業において学習者個人に目標を設定させることによって、彼(女)らの動機づけが高まるのかを調査した研究は少ない。そこで本研究においては、多読指導導入時に授業の中で目標を設定させて多読活動に取り組ませることによって、実際に学習者の動機づけが高まるのかを探った。その際、自己決定理論の枠組みで学習者の動機づけを捉え、その変容を明らかにしたい。調査対象者は、必修科目として英語授業を受講する私立大学の1年生40名であり、短期目標を設定させた群19名と長期目標を設定させた群21名であった。2つのクラスでは、2009年10月から12月までの毎週1回90分の授業において、多読を20分間実施した。8回の多読実践の結果、2つの群の総読語数における差異は認められなかった。また、事前調査と事後調査における動機づけの下位尺度得点の変化については、短期目標群は内発的動機づけにおいてのみ統計学的な有意差が確認されたが、長期目標群は内発的動機づけにおいてのみ有意な傾向が確認されるにとどまった。つまり、短期目標を与えられた学習者は、目標を基準としてより頻繁にフィードバックを得ることによって、多読学習に対する自己効力感や内発的動機づけを高めていったと考えられる。一方、長期目標を与えられた学習者は、目標への進歩を実感することが少なく、自己効力感や内発的動機づけを高める効果は少なかったと考えられる。当日の発表では、その詳しい調査結果を基に、多読指導導入時に目標設定が学習者の動機づけに与える影響について議論したい。

タスクの遂行において自律的プランニングを促す簡略な指導法の検討

提案者:大和 隆介(京都産業大学)

第二言語習得研究において、「タスク」はその習得過程を研究する道具としてだけでなく習得そのものを促進する手段として大きな注目を集め、多くの優れた研究や実践が行われている(Skehan, 1998; Ellis, 2005)。限られた学習時間で英語を学ぶ日本においてもタスクを利用した指導は着実に広がりつつある(高島, 2000)。
しかし、実際にタスクを利用して教室で授業を行う際、教師はどのような教育的介入を行えばよいのだろうか。Willis & Willis (2007)や高島(2005)はその手順・指導法について具体的な提案を行っているが、授業の中にタスクを日常的に取り入れて期待される効果をあげるためには、次の2点が重要な意味を持つと考えられる。
第1は、タスクの指導において、教員に過度に入念な準備やきめ細かな指導技術を要求することは現実的ではなく、できるだけ簡略な方法で効果を生み出す手立てが求められる。
第2は、タスクの遂行において、学習者が教師の指示のままに受動的に取り組むだけでなく、自ら考え工夫してタスクに取り組む手立てが求められる。
本発表では、こうした観点に基づいて行ったパイロット・スタディの結果を報告する。その研究目的は、Story-rewritingタスクを材料として、短時間で簡略に行うことのできる教育的介入がもたらす効果を検証することである。研究の手順は、大学1年生の2つのグループ(実験群12名;統制群16名)を参加者として2回の実験を行い、(1)タスク前に与えた短時間の自由プランニングが作文結果に及ぼす影響と(2)タスク前に与えた評価基準の提示が作文結果に及ぼす影響を、それぞれ「正確さ」、「流暢さ」、「複雑さ」の3つの規準で分析した。得られた結果の詳細は大会当日に報告し、その結果が持つ教育的示唆についてフロアの皆さんと共に考察したい。

自律的学習を促す他律的な課題について

提案者:塩谷 三徳(沼津工業高等専門学校)

現在教えている沼津高専の場合、学生は、低学年では寮生活が基本であることから、高校生のように、授業と平行する形で、塾などの学校外の教育機関で英語を学習する機会はない。大学受験を目標としたカリキュラムではないので、一般的な高校と比較して授業時数も少ない。このような状況の下、入学時から英語の学力差が大きい集団(学科)が存在し、教える側からの「学習の動機づけ」自体はある程度の学生に対しては成功するものの、学生の学力の差を埋めるには至らず、高学年になったときにどちらかと言えば「教えにくい集団」になっている。
集団内の学力差の原因の一つになっている、「英語を学ぶ動機はあるのだが、学習習慣がなく、基礎学力が不足している学生」が、すぐに英語を意欲的に学ぶようになることは考えにくく、英語の学習が、他律的な行為から自律的な行為、そして習慣化という段階を経なければならない。今回の発表では、昨年度から自律的な家庭学習態度や能力を培っていくことを目指して行っている、他律的な学習課題「テストやり直しノートの作成」について、その指導経過を述べる。

中部地区英語教育学会設立40年記念講演

講師:久保田竜子先生(University of British Columbia)
演題:Transcending the myths of learning English: Toward developing glocal communication skills

講師略歴:

ブリティッシュコロンビア大学教育学部言語リテラシー教育学科教授。日本、アメリカ、カナダで英語教育、日本語教育、教員教育に携わる。下記の学術学会運営などに貢献する。Association of Teachers of Japanese (ATJ), National Council of Japanese Language Teachers (NCJLT), American Association for Applied Linguistics (AAAL), International Society for Language Studies (ISLS), Teachers of English to Speakers of Other Languages (TESOL)。主な研究分野は言語教育における文化と政治性、第二言語ライティング、クリティカルペダゴジー。Race, culture, and identities in second language: Exploring critically engaged practice (2009, Routledge)の編者。下記の学術雑誌などに論文が数多く出版されている。Canadian Modern Language Review, Critical Inquiry in Language Studies, English Journal, Foreign Language Annals, Japanese Language and Literature, Journal of Second Language Writing, Modern Language Journal, TESOL Journal, TESOL Quarterly, Written Communication, and World Englishes. 

講演要旨:

In language teaching, certain assumptions often influence instructional goals and practices. The current discourse of promoting English language teaching in Japan is built upon the assumptions that English is a useful international language and that being able to communicate orally in English is essential because careers and jobs increasingly require English language skills. While these assumptions reflect current realities to some extent, they do not apply to all contexts.
This presentation reassesses these assumptions and proposes that English language teachers help students develop not only daily conversation skills in English but also global awareness and intercultural competencies within both global and local communities.
Specifically, students are encouraged to develop (1) basic linguistic foundations of English for future needs; (2) reading and writing skills to cope with computer mediated communication; (3) an understanding that English may not be universally useful; (4) attitudes to respect and affirm all kinds of diversity (e.g., gender, race, ethnicity, social class, language, age, ability); and (5) willingness and skills to try to communicate with non-English-speaking people. Some concrete suggestions are offered.

自由研究発表

第 1会場(1階 K117)

⑤ イメージを中心とした文法教材の開発と「長良メソッド」の効果(実践報告)
石神 政幸(岐阜県立長良高等学校)

岐阜県立長良高等学校では平成16年度から音読を中心とした授業改善を行っている。意味理解はスラッシュ(フレーズ)リーディングを利用して,英文を前から流れるままに順番に理解するようにし,その後シャドーイングやサイト・トランスレーションなど様々な方法で音読を行っている。また文法に関しては,文法書を主体とした授業は行わず,教科書の中で文法説明を行い,ALTとの授業においてアウトプットを意識した文法項目の練習(タスク活動)を,カセットテープレコーダーを利用して行っている。単語においても市販の単語帳を買うことなく,教科書に出てきた単語を,その文章の中で覚えるようにしている。この教授方法を私たちは「長良メソッド」と呼んでいる。そしてこのメソッドの有効性は,センター試験をはじめ,さまざまなテストで実証され,大学入試にも対応できることが示されている。しかし,課題もある。その一つが文法の教授法である。ネイティブスピーカーのように,英語を英語のままに,前から順番に理解していける文法が考案されなければ,コミュニケーションを志向した文法ではなく,従来のような単なる文法知識の伝授になってしまう。第二言語習得研究などの研究分野では,言語活動において次のことが重視されている。文法形式・構造,その意味へと「注意」を向けさせ,「気づき」を引き起こさせる工夫。短期記憶と処理機能として働く「ワーキングメモリ」の容量を確保し,聴覚的活動と視覚的活動の両方を刺激するような指導。意識や努力を必要としない情報処理機能である「自動化」を促す活動。意味をなす語句の塊「チャンク」とそれを連結させる「チャンキング」の活用などである。そこでこのような点を考慮した絵と音声を中心とした文法教材を開発・実践し,「長良メソッド」の短期記憶力や自動化における有効性を検証する。

⑥ 開発した出版文法教材の分析
堀内 香予子(金沢工業大学)

本学において基礎的かつ不可欠な文法項目の習得が必要な学生を対象に、教材開発を行った。本研究において、この開発教材であるGrammar Compass(堀内・村上・通 2010)は教室活動における学習を促進しているか、またこの教材による学習効果はあるのかを分析し、考察する。方法として、Grammar Compass使用の教室活動は、Littlejohn (1998)によるTask Analysis Sheetをもとに島田・柴原(2008)が作成した表を使い、大学生向けの他の基礎的英文法の教科書と比較し分析する。また学習効果は、筆者が独自に作成した事前テストと事後テストによって測る。結果と考察については当日発表する。考察では学習者を効果的に支援する教材とは何かを提案する。

⑦ Focus on formの理念と授業実践との整合性
恩澤 幸代(東京大学大学院生)

本研究の目的は次の2点を明らかにすることである。第1の目的は、 focus on form(以下、FonF)の理論と英語教師の認知との共通点を検討することである。FonFは「意味の伝達を中心とした言語活動において、教師が必要に応じて学習者の注意を文法などの言語形式に向けさせる指導(白畑他 2009)」であり、「意味中心の言語理解・産出活動において、特定の言語形式(語彙・文法)の習得を促すこと(村野井 2006)」と定義されている。しかし文法指導とコミュニケーション活動を結び付けた指導は新しいものではない。和泉(2009)によると、日本のFonFは、文法シラバス形式を残しながらも、意味を重視した活動を増やす点に特徴があり、ある程度浸透した指導原理であるという。これらを踏まえると、教師の多くはFonFとは何かを知らないが、何らかの形で実践していることが推測できる。教師がFonFについての知識がないにもかかわらずその理念が実践に反映さていることを考慮すると、FonFの理論と教師の認知がある程度一致していることが推測できる。その共通点を教師へのインタビューに基づいて明らかにした。第2の目的は、FonFの理念と現在の授業実践の共通点を探ることである。先述したように、文法とコミュニケーションを結び付けようとする指導理念は目新しいものではない。しかし、その指導理念が具体的にどのように実践に反映されているのかという点を明らかにするためには、参与観察法により実践を記述する必要がある。参与観察からは、教師が「暗示的な注意の引き方」に属する指導法を行っていることが観察できた。上述したインタビューと参与観察からFonFの現状の一端を考察し、それに基づいてFonFの今後の発展性について検討を行った。

⑧ 「コミュニケーション英語Ⅰ」の望ましい教科書
竹本 俊穂(福井県教育研究所)

2008年3月に公示された新高等学校学習指導要領が2013年度より実施される。その新高等学校学習指導要領の主な特徴は、科目編成の刷新、指導語数の増加、指定文法項目の必修化、英語による授業の原則化である。特に、「授業を実際のコミュニケーションの場面とするため、授業は英語で行うことを基本とする」という英語による授業の原則化に対する教育現場からの反響が大きく、その原則化に疑問を呈する意見があることは事実である。はたして、この新学習指導要領の施行によって、実践的コミュニケーションの育成を謳う現行学習指導要領下においてさえ、授業改善がなかなか進んでいないとされる高等学校の英語授業は一変するのであろうか。
そこで、本発表では、高等学校の英語授業に変化を引き起こすきっかけとなるかもしれないものとして、検定教科書を取り上げる。特に、必履修科目「コミュニケーション英語Ⅰ」に焦点をしぼり、「四つの領域の言語活動を有機的に関連付けつつ総合的に指導する」のに望ましい教科書とはどのようなものかを検討する。

⑨ 大学生の「英語を読む力」をどのようにつけるか
山田 昇司(朝日大学)

寺島隆吉氏(国際教育総合文化研究所所長・元岐阜大教育学部教授)の提唱する理論と実践を指針として、大学での英文読解の授業のありかたについて、次の4つの観点から考察する。
(1)題材選択:発見と感動のある教材を選ぶ
(2)教材化:やれば出来る最も困難な課題を与える
(3)授業形態:「学びの共同体」を作る
(4)評価:記憶力ではなく思考力を問う

第 2会場(1階 K126)

⑤ 小学校外国語活動におけるティーム・ティーチング
東  悦子(和歌山大学)

公立小学校における外国語活動の移行期間も2年目を迎え、平成23年度には、小学校5年生、6年生で外国語(原則として英語)が必修化される。発表者は、平成19年度より3年間に渡り、「英語活動等国際理解活動推進事業(平成19-20年度)」そして「外国語活動における教材の効果的な活用及び評価の在り方等に関する実践的研究事業(平成21年度)」における拠点校の取り組みにおいて指導助言にあたった。また市立教育研究所における「小学校外国語活動についての研究」においては、小学校並びに中学校教員で構成される研究班のメンバーと共に定期的に研究協議を重ね、指導助言にあたった。それらの経験、とりわけ実際の外国語活動の観察を通して、それに取り組む小学校の先生方の苦労や工夫を見聞する機会を得た。必修化を目前にした今年度、拠点校を中心とする事業は終了し、これまでの研究をどう発展させてゆくかは、各校の努力に委ねられた状況となっている。移行期間2年目、すなわち必修化を目前とした一年であるがゆえに、各校がこれまで以上に多くの情報を共有し、一層の実践並びに研究が進められるべき時である。そこで、これまでの外国語活動の授業観察を振り返り、英語の活動におけるいくつかのポイントをまとめ、実践の場に多少とも還元できないかと考える。本発表では、主として“ティーム・ティーチング”について取り上げる。具体的には、(1)指導者の役割分担、(2)活動における指導者の発話について、(3)児童と学級担任(日本人指導者)、(4)児童と外国人指導助手について、公立小学校における取り組みの観察から得た知見を基に指導者の特性を活かした指導方法を探る。

⑥ 外国語活動・小中連携に対する小中学校教員の意識差に関する質的研究
階戸 陽太(広島大学大学院生)

本研究の目的は,以下の2点である。(1)外国語活動・小中連携に対する小中学校教員の意識について調査・分析を行い,外国語活動必修化を控えた現状と課題を示すこと。(2)外国語活動・小中連携の先行事例について示すこと。
筆者は,昨年(2009年)までの3年間にわたり,石川県の小中学校を対象に「英語教育における小中連携に関するアンケート」を実施した。石川県金沢市では,小学校において先行して英語教育・小中連携に取り組んでおり,県内その他の地域でも追随するように小学校での英語教育・小中連携に取り組んでいる実態がある。石川県での調査結果から,外国語活動・小中連携に対する意識が,小学校教員と中学校教員では違うことが明らかとなった。例えば,小学校教員の中に,「外国語(英語)活動は中学校の英語と違う」という考え方が存在することがわかった。一方,中学校教員は外国語(英語)活動と中学校の英語を繋がったものととらえ、より積極的に「行動する連携」を望んでいることがわかった。「教育の機会均等の確保や中学校との円滑な接続」(文部科学省,2008)という必修化の主旨を考えた場合,こうした意識の違いを探ることは,よりよい外国語活動の実施と小中連携につながると考えた。また,新学習指導要領の移行期間に入り,先行事例を示すことは,外国語活動への取り組みが遅れている小学校,また試行錯誤している小学校にとって意義あることと考える。
今回はアンケートの協力者を対象とし,インタビュー調査を行った。調査の概要は以下のとおりである。
・調査対象 石川県の小学校教員20名 中学校教員15名
・調査時期 2010年1月下旬~3月上旬
・調査形式 半構造化インタビュー
インタビュー結果を質的に分析する。当日は,事例を提示しながら,詳しい結果を発表する。

⑦ 小学校英語教育は「英語が使える日本人の育成」に繋がるか―世界スタンダード(ケンブリッジ英検)を用いた長期的検証―
米田 佐紀子(北陸学院大学)遠藤 紗代(北陸学院中学校)

本研究は2007年度~2009年度科学研究費補助金基盤研究C課題番号19520537「小学校英語教育で培われる英語力についての研究―国際的評価基準を用いて―」の研究の一部である。今回の研究では、「小学校卒業後子どもたちは国際社会に通用する英語力をつけているのか」という課題の検証を目的として、University of Cambridge ESOLによるケンブリッジ英検を実施した。使用したテストの種類は、Movers、Flyers、Key English Test、Preliminary English Testである。研究対象は金沢市にある私立北陸学院中学校・高校・大学に通う北陸学院小学校の卒業生合計45名である。発表では結果とその分析・考察について述べる。
概要は以下の通りである。
1.小学校6年生の成績が中学校以降も同じ傾向で推移する。
2.四技能の中で、リーディング・ライティングは総合得点との相関が他技能より高い。
3.小学校6年生で見られた学力の差異は、学年が上がるにつれ大きくなる傾向がある。
4.学力と伸びには個人差がある。英語に限らず、学習習慣や興味・関心等包括的な検証が必要である。
5.平均点の国際比較から、英語力向上の裏には、言語距離、教育制度や社会的背景があることが示された。
6.世界で求められる英語力との比較から、本学児童・生徒・学生の課題が明らかになった。
今回の45名の検証から、性急に「小学校英語教育は意味がない」と断定することはできない。集団および個人両観点からの追跡調査は重要であり、今後継続的に行っていくことが必要である。

⑧ 小学校外国語活動におけるTeacher Talkの分析―『英語ノート』付属の『指導資料』との比較を通じて―
江口 朗子(愛知教育大学大学院生)

2011年度からの小学校外国語活動必修化により、すべての公立小学校教員に外国語活動の指導者となる機会が与えられた。しかし、東(2009)の調査によれば、約8割の教員が小学校で外国語活動の授業を担当することに対して不安を抱き、その理由として英語力に関する要因を挙げる教員の割合が最も多いとされる。外国語活動の指導経験も少なく、教科書に沿った授業に慣れている現場の教員は、さしあたり『英語ノート』付属の『指導資料』を参考にすることが考えられる。小林・森谷(2009)は、『指導資料(試作版)』に現れる教師の発話の分析から、指導者に必要な英語力の算出を試み、平均発話長が4.52語であることから一般英語の初級後半、語彙レベルは8割以上がGeneral Service Listの高頻度2,000語の範囲内という結果から比較的馴染みの多い語が多いとする。一方、ESL環境下でのNSからNNSsへのTeacher Talkは、学習者の言語能力や必要に応じて調整がなされ、とりわけ目標言語能力レベルが低い学習者に対しては、より短い発話で(Henzl, 1979)、より基礎的な語彙(Chaudron1988 )を使用するとされる。
 では、実際の外国語活動の授業ではどのようなレベルの英語が話されているのであろうか。本研究は、日本の公立小学校での外国語活動において、児童とのインタラクションを繰り返しながら英語で授業を行うために、教師はどの程度のレベルの英語を使用しているかを明らかにすることを目的とする。英語力と小学校での外国語活動指導経験がともに一定の基準を満たす3人の日本人教師が、愛知県の公立小学校で、『英語ノート』をもとに英語で行った授業を対象とし、小林・森谷(2009)の分析方法の妥当性を吟味したうえで、それぞれの教師によるTeacher Talkの発話長、文の形式、使用語彙レベルを分析した。発表では、その分析結果と、結果にもとづく考察を報告する。

⑨ 動詞フレーズに対する小学校児童の音声形式と意味の繋がり
柏木 賀津子(大阪教育大学)

小学校外国語活動では、『英語ノート』の活用をはじめとして、絵本や動作やジェスチャーなどで動詞や動詞フレーズに無意識にふれる機会は比較的多い。またそれらは、Teacher Talkなどにも含まれている。コミュニケーション活動で使われる表現の核をなす動詞フレーズに初期の段階から豊かな文脈(context)で触れていくことは重要であろう。では、動詞フレーズに対する高学年児童はその音声形式(form)と意味(meaning)の繋がり(FMCs)に、どの程度気づいているのであろうか。公立小学校の5年生約120名で行った「一日の動作、What time do you get up?」の英語活動で、スモールトーク、TPR、アニメーション音声教材等を用いて連続の指導をした場合、概ね7割程度の子どもがうまくFMCsに気づいていることが分かった。しかし、子どものFMCsは、フレーズに含まれる単語親密度や知覚的な際立ち度(perceptual salience)によって違いがあること、子ども個々の認知の様子に幅があることが明らかになった。「意味への推測」を重ねて伸びていく子どももいれば、「外国語活動がわからない」と感じる子どももいるのであれば、指導者はこれらの幅を縮めるために、意味のある楽しい繰り返しや構造化されたトーク(structured input)など、理解を助ける工夫を重ねていかなくてはならない。本発表では8種類の動詞フレーズ(VO-combination)に焦点をあてた高学年児童のFMCsの分析データを報告し、動詞フレーズのFMCsが言語習得にどのような意味を持つのかを考察し、議論したい。

第 3会場(1階 K127)

⑤ 英語教員養成プログラムの新たな試み -台湾・アジアへの研修を通して-
相川 真佐夫(京都外国語大学)

京都外国語大学英米語学科のカリキュラムは、2年生から4年生までを、学生の興味や進路に合わせた4つのコースにわけ、語学習得だけではなく、専門知識の獲得とその応用を目指している。4コースの1つ「英語教育研究コース」は、英語教師を目指す学生のために作られたコースであり、言語学習のメカニズムや教材開発に興味のある学生も所属する。
「海外研修」と言えば、目標言語の習得を目的とした「語学研修」があるが、英語教員養成に関わった海外研修としては、英語圏にて行われる英語教授法のプログラムがよく聞かれる。そこでは、英語母語話者による英語教授法の研修が受けられ、英語圏文化、「真性の」生活英語に触れることも目的とされる。しかしながら、英語圏への研修はESL教育のための教授法を学ぶという点でEFL環境とは乖離しており、また、研修指導者が英語母語話者である場合、日本で英語教員になろうとしている者にとっては、立場が全く異なる。
そこで、同じEFL環境において英語を教えると言うことはどういうものか、との点に注目し、英語教員免許取得希望者に対し、英語に対する視点が日本と類似する東アジア圏(2009年度は台北市)への研修を試みた。研修内容は、台湾の教員養成機関の「英語教育法」の受講、プレゼンテーションの実施、小中学校の授業参観と模擬授業等である。この体験により、同世代の教員志望者の英語力の程度を知り、英語非母語話者の教員が小中学校でどのように英語を教えているのか、現地の生徒の英語力や英語学習に対する態度はいかなるものかを実際の目で確認させること等を目的とする。
本発表では、研修内容や参加学生の研修前後の信念の変化等を報告する。また、「国際言語としての英語」が英米語を標準することとは異なる考えであることに気づくこと、英語はアジアでの共通言語であることと同時に、あくまで「仮の」共通言語であることについても気づく姿勢について論じる。

⑥ 教育実習後の質問紙調査にみられる教員としての資質・能力の育成状況に関する分析
加納 幹雄(金沢大学)

1 はじめに
大学教育の質を測るものさしは多様にある。とりわけ教員養成系の学部・学科においては、学生の進路志望が明白であり、それに対応する資質・能力の養成は重要な責務である。大学における教育の機能を一層高めるためにも、である。
2 研究の目的
そのための第1歩は、大学が提供するカリキュラムと都道府県レベルの採用人事に求められる資質・能力との関係性を高めることにある。しかしながら、そのような一時的な能力のみを大学が担うのではないことは明白である。その後の教員人生において経験別に行われる各種の研修に求められる資質・能力の基礎的な部分を育てているかどうかである。この関連性を検証するのが本研究の目的である。
3 研究の内容
本学英語教室に在学する学生を対象として、平成18年度から平成21年度のそれぞれの年度の教育実習後に質問紙調査を行った。特に今回は、この調査結果を基に、学生の(英語)教師に備えるべきと考えられる資質・能力の育成状況について分析・考察する。
4 おわりに
今回は、教育実習後の質問紙のまとめを中心にして学生の資質・能力の育成状況を述べるが、今後には、大学カリキュラムと教員採用試験の内容及び都道府県教育委員会が実施する経験者研修の内容とを重ね合わせて、その関係性について検証する必要があると考える。

⑦ 教育実習経験の有無から捉える英語授業観察の視点
建内 高昭(愛知教育大学)

教員養成課程学生において教育実習は主たる教育実践の場と位置づけられている。その教育実習において、主たる活動の1つとして授業実践がある。実習生は、コミュニケーション能力の向上を目指し授業案を作成し、授業に臨むことになる。このような実習を経験した学生たちに対して、4年生後期に行う応用実習(実践的指導力を深化させるために教師としての専門的力量や研究開発能力を育てる)では、授業において「ぎこちなさ」もなく、教育実習を行った3年生後期とは大きく変容してきている。これは授業者の視点で授業を捉えることができるようになってきたことと関わっているように思える。1年生後期に行う基礎実習(教職への意欲を育てるために授業観察を行う)では、授業観察する視点や意識が必ずしも高まっていないために個々の活動と活動全体のつながりまでを見据えた授業観察に到らないことが多い。では実際に教育実習を経験した学生は、英語授業を観察する上で授業場面のどのような側面に関心を示すのだろうか。
本研究の目的は、英語授業観察及び研究協議の場を通して、教育実習経験者が捉える視点と教育実習参加予定者が捉える視点との間における比較し、授業観察での視点の違い及び特徴を探るものである。
本調査にあたり、授業観察及び研究協議会に参加した学生による「授業に関する内容」,「研究協議を通した内容」に関してのレポートを基にして研究を進めることにした。
予測される結果は、実習未経験者は実習経験者と共に協議に参加することで授業観察への意識を深めるきっかけを得られると考えられる。また実習未経験者と実習経験者が協同で研究協議に参加することで、参観者が授業目標と実際の言語活動との整合性に意識を向ける、あるいは授業目標に沿った活動について高い意識付けを持つ機会が得られるようになると考えられる。さらに教育実習経験者と未経験者との間には、異なった授業観察の視点が浮かび上がるものと考えられる。

⑧ 小学校外国語活動指導者ー大学教員養成の現状と課題ー
幸田 明子(常葉学園大学)

平成23年度から、小学校5,6年生で小学校外国語活動が必修化されることを受け、筆者の勤務する常葉学園大学でも教育学部初等教育課程において新たな教員養成プログラムを始めている。外国語活動の指導者に必要な授業指導力・英語運用能力・異文化理解能力などを育成することを目指して、平成21年度から大学4年間で継続的に学習できるカリキュラムを導入している。
現役教員研修では、目の前にある授業をこなすために即戦力となる授業指導方法・教材紹介などが求められことが多い。現場の公立小学校で授業観察をすると、指導案作成、教材研究に追われることで、授業の本質であるコミュニケーション能力の育成のための明確なビジョンにぶれを生じている授業が多い。大学での時間をかけた継続的な教員養成は急務である。
大学での教員養成の在り方、効果的な教員養成プログラムの内容を4年間をかけたカリキュラム作成、到達目標、授業内容、学生の実践的な活動、意識調査などを検証しながら、指導者としてどのような資質が必要で、どのような能力を修得すべきなのかを明確にし考察していく。

⑨ ICレコーダを利用した授業研修システムについて
近藤 泰城(三重県立桑名高等学校)

この研究は、授業研究の手法として、ICレコーダによる録音が効果的であることを明らかにしようとしている。高等学校現場では、小中学校と異なり研究授業という文化がなく、また近年の多忙化で「互いの授業を見て授業力を高める」ことは益々難しくなりつつある。授業研究の手法としては、研究授業、ビデオ録画などが考えられる。研究授業は、五感で授業を感じることが出来、最も情報量が多いと考えられる。ただ、実施に当たって、授業者、生徒・学生に見られているという通常の授業とは違う緊張を強いることになり、また研究授業のために準備をすることも多く、日常的な授業ではないことも多い。ビデオ録画は、研究授業に比較して、授業者や生徒・学生の負担は小さいが、それでも余分な緊張が生まれる。また、授業後に研究するためにテレビの前で視聴するかなりの時間を必要とする。そこで、ICレコーダで授業を録音し、自分で聞いたり同僚間で聞きあうことで、授業研究の敷居を下げ、より多くの教員が参加できるようになると考えた。音声だけだと情報量は少ないが、録音は手軽であり、授業後に研修する時も、移動中など「ながら」で出来るという利点が考えられる。本研究に参加した教員からのフィードバックを通して、ICレコーダによる授業研究と研究授業やビデオ録画を、情報量、実施の容易さ、継続性などの視点で比較し、授業研究におけるICレコーダの可能性を探る。なおこの研究はパナソニック教育財団2009年度の助成金を受けたものである。

第 4会場(1階 K128)

⑤ Celebrities in the Classroom
Bean, Casey(金沢工業大学)

I will present a lesson plan that allows students to interact with famous people (being impersonated by the teacher). This lesson integrates reading, writing, listening, and speaking. Lessons about history and culture can also be easily included. This presentation will focus specifically on musicians and live music in the classroom, but the materials discussed can be applied to a wide range of characters. Sample materials and a video demonstration will be provided.

⑥ Listeningflood: Piloting online extensive listening
Howrey, John(南山大学)

This presentation will explain a pilot program using a online listening website co-created by the presenter. The presenter will explain the rationale for extensive listening outside of the classroom, the methodology in creating the website, and how the students will be assessed. While there are many websites that offer listening practice, there is not much control for the teacher to monitor what students do. It is hoped, then, that by providing students with online listening materials, giving students some freedom in choosing which materials to use and how often, and providing a framework that is easy for the teacher to monitor that students and the teacher will be able to see improvement in listening comprehension, especially with those students opting to take advantage of the listening materials provided.

⑦ Intercultural Understanding
山田 邦子(福井県立丸岡高等学校)

In order to cultivate Japanese with English abilities, intercultural understanding helps learners to communicate in English, motivating them to listen carefully to the partner’s English and try to make themselves understood in English.
Hosting students from abroad will help Japanese students acquire an international perception if a family has never been abroad and has never been exposed to different cultures from our own.
Studying abroad, taking young Japanese students away from the comfort of their home country, culture, and language and immersing them in surroundings that are totally different, will give them good opportunities to acquire the language of the host countries where they are studying.
Thus intercultural experiences offer a broader foundation to balance on when making their perceptions of the world and gives a new extra dimension of their life. This intercultural competence in both global and domestic contexts plays an important role in developing “intercultural sensitivity”: Denial, Difference, and Minimization, where students’ own culture is experienced as central to reality, while Acceptance, Adaptation, and Integration are identified as intercultural understanding. Unless positive attitudes toward different people are developed, it might be difficult to cultivate Japanese with English abilities.
If this theory is applied to English classes, it may be easier to use English more often; that is, if both Japanese teachers of English and ALT use English in class, or if we have students from abroad in class, or if our students have some over-sea experiences; English is used by means of communication and helps to promote intercultural understanding.

⑧ Using Situational Drama to Improve Student Language Abilities and Motivation
Michaud, William(金沢工業大学)通 正徳(金沢工業大学)

For the past year, we have been running a drama club at Kanazawa Institute of Technology. This club started from an expressed need to become more fluent in English within a wide variety of situations. Before the club started, we had many students who would want to come into teachers’ offices to practice English. Although this was a good thing, the student lacked the chance to interact with other people who might be able to aid in the learning process, as well as missed out on situational English practice. We decided to form this club to address the students’ situational English needs for authentic English. We meet with the students once a week and use a wide variety of ways to practice and situational dialogues to enhance the students’ English abilities.
We have found this to be successful in motivating students and improving their fluency, pronunciation and confidence. Additional unforeseen benefits were an improvement in students’ abilities to interact in their own native language and an increase in creative thinking skills. Therefore, this drama club was and is very helpful for students to not only practice and acquire English production, but also to improve their negotiating competencies and expand their networking skills.

⑨ The role diary-keeping plays in low English proficiency college students’ English-learning
陳 淑茹(金沢工業大学)

The issue of college students with low motivation to study English has always been a critical and painstaking one for language teachers. In this presentation, a finding on how keeping a diary in English directs low English proficiency college students’ interests in learning English will be reported. The participants presented in this paper are engineering and/or science majors who are often commonly known as “English insulators”. That is not only to say most of them dislike the subject but also their chances to be exposed to an English-speaking environment is also relatively limited compared with those who are language majored. Therefore, creating these students’ chances to get involved in activities that are relevant to the use of English will somewhat increase possibilities for them to get accustomed to using the language. The choice of making students keep a diary using English is due to its feature of daily continuous use of English. Furthermore, teachers can also easily observe students’ progress with their writing fluency using English as they regularly write in their diary.
In the beginning of the presentation, both advantages and problematic issues of keeping a diary which were observed by the presenter will be presented. Next, possible suggestions for solving problematic issues will be mentioned as well. In addition, a tactic that helps motivate students to constantly write their diary will also be introduced. Finally, some suggestions for improvement for similar studies will be discussed at the end of this presentation to conclude the talk.

第 5会場(1階 K129)

⑤ 英語ライティングにおける修正フィードバックの文法項目における学習効果の違い
西田 一弘(愛知産業大学短期大学)

①直接修正に説明付き(間違った文法項目を記号で表示)、②直接修正、③間接修正に説明付き(間違った文法項目を記号で表示)の英語ライティング指導を行い、文法項目の正確性において学習者にどのような学習効果の違いが見られるかを実験し、結果を分析した。被験者は高校を卒業し、来年度日本の大学に入学するため日本語を主として学習している中国人の学生で、1グループは7~8人で6グループ作り自由英作文を課し、初めの授業と最後の授業(12週間後)の結果を比較した。統計学的に効果に有意さがあったのは、Aタイプ:進行形/ 完了形/態/不定詞/動名詞/分詞(現在分詞/過去分詞)/分詞構文/比較/関係詞(関係代名詞/関係副詞)/仮定法/時制の一致・話法/語順、における、初級レベルの学生の①直接修正に説明付きとBタイプ:接続詞/前置詞/冠詞/単数・複数、における、初級レベルの学生の②直接修正であった。なお、Cタイプ(助動詞/代名詞)における、初級レベルの学生の①直接修正に説明付きでは学習効果でマイナスの有意性を示した。A、Bタイプの文法項目の難易度としては総合的には中位である。Aタイプの文法項目は中学1年生から高校3年生までの文法の授業のほとんどを費やされる文法項目で、習得は難しいが、使用パターンは限られているので文章中で使いやすいと考えられる。Bタイプの文法項目は習得するのは楽だが、使用パターンが豊富で文章中で使いにくいと考えられる。「初級レベルの学生は中位の難易度の文法事項を正解と共に指導されると正確さが向上するが、簡単な文法事項においては説明がない方が良い」ということが結論づけられた。アンケート結果でも、初級者は英語で一番学習したいものは文法(初中級者は「会話」)であり、一番好きなものは文法(初中級者は「文法」)であり、「初級の学生はより文法に関心が高く、その指導を期待している」ことがわかる。

⑥ 学士力(英語)測定のための「大学標準英語学力テスト」の開発
大場 昌也(金沢学院大学)

「鬼のA教授、仏のB教授」という表現で大学における評価の恣意性が批判されるようになって久しい。それを受け最近では一部の大学でTOEICやTOEFLなどを導入することで学生の客観的な英語力を測ろうとする動きもみられる。
本研究では、大学における客観的な英語力評価に資するべく新しく簡便な英語力測定テストの開発を試みた。具体的には、(1)R語彙(読んでわかる語彙)サイズ、(2)L語彙(聞いてわかる語彙)サイズ、(3)G英文法の基礎知識、の3つを測るテストの開発である。
(1)ではJACET8000の頻度順5000語から50の単語を選び(50点満点、15分)、(2)では同じくJACET8000の頻度順4000語から40語の単語を選び(40点満点、15分)その意味を4つの日本語選択肢から選ばせる形とした。(3)では大場シラバス(仮称)から英文法の基礎知識60問(60点満点、30分)を4択で問う形とした。
この「大場RLGテスト」(仮称)の信頼性と等価性確保のためには、次のような工夫を凝らした。RLテストでは、間違いやすい2つのペア語(work/walkなど)のうち頻度順の低いものを問題項目とした。また、Gテストでは6つの領域から10問ずつ、上級、中級、初級問題がそれぞれ20問ずつとなるよう構成した。また、偶然正解率を下げるため第4選択肢を(a)(b)(c)のどれでもない「(d)左のどれでもない」とした。さらにそれぞれのテストにA版、B版を作成しその等価性を吟味できるようにした。このテストの等価性が保証され、TOEIC/TOEFLとの十分な相関が認められれば、大学英語教育の現場で様々な形成的利用が期待できる。

⑦ 「大学標準英語学力テスト(RLGテスト)」の信頼性と利用法
加藤 千博(防衛大学校)田島 祐規子(横浜国立大学)村上 嘉代子(芝浦工業大学)前川 浩子(金沢学院大学)

大場昌也開発の「RLGテスト」はR(読んでわかる単語)テスト、L(聞いてわかる単語)テスト、G(文法の基礎知識)テストの三部からなる。これはTOEICやTOEFLのように英語の運用力を測るテストではなく英語学習者の基礎力、つまり潜在能力・基礎体力を測るテストである。しかしこのテストからその学習者のTOEFLやTOEICの得点予測が可能であり、プレースメントテストとしての機能も持ち合わせている。またこのテストは受験者個人の学習における課題点を明らかにするだけでなく、クラス単位あるいは学校単位の学生集団の特徴を浮かび上がらせることができ、教員がテスト後に何を重点的に指導するべきかの指針にもなる。
本発表ではまずRLGテストの信頼度と等価性を検証し、次にTOEFL・TOEICとの相関を分析し、最後にこのテストの利用方法を紹介する。
信頼度と等価性はR、L、G、三つのテストのそれぞれA版とB版の両方をほぼ同じ時期に受験した約300名の大学生の得点の平均点、相関値をもとに検証する。
TOEFL・TOEICとの相関に関しては、3大学の学生を対象に行った調査結果をもとに、まずRLGテスト得点とTOEFL・TOEICの得点に関連があるかどうかについて大学別に算出した相関係数を示す。そして、RLGテスト得点からTOEFL・TOEICの得点を予測できるかどうかについて検討を行うこととする。
このRLGテストの利用方法には様々な形が考えられるがその実践例を二つ紹介する。一つは2大学の学生のスコアを比較・分析することによりそれぞれの大学の英語技能における特徴が明らかになった事例。二つ目はRに焦点を絞り、ある学習者集団のR語彙サイズを計測し、習熟度別の複数レベルにおける得点結果を比較しその特徴を分析し、大学初年度の英語クラスおよび個々の学生の語彙習得における目標設定に活かした事例。

⑧ ストラクチャー・クラスと文法指導
前田 昌寛(石川県立金沢桜丘高等学校)岡野定 孝裕(金沢学院大学大学院生)

石川県内の英語教員を対象とした英語教育に関する調査(前田 2010)によると、回答があった291名の内、約7割が英語での指導に「抵抗感や不安」があることが分かった。その理由として、大学入試に対応できるのかという率直な声が大変多かった。高校としては「英語で指導しながら大学入試に勝ち残る」ことが重要であり、入試に勝ち残るためには、語彙力、スピード(fluency)とともに、正確さ(accuracy)を育むための文法指導は欠かせない。
発表者の勤務校は文部科学省から「教育研究開発事業」(旧英語教育改善のための調査研究事業)を受け、旧態依然の文法指導を「ストラクチャー」という学校設定科目に変え、発信型文法指導を行っている。この発信型文法指導を受けた生徒の習得状況を検証するため、文法テストを開発・実施し、学力の現実を客観的にとらえることにした。
まず、語彙を約2500語以内に抑えた高校生用英文法テスト(A版・B版)を作成、2010年3月に金沢桜丘高校1年生約40名に実施した。この2つのテストの開発手順、等価性検証、実施結果について報告する。このテストは金沢学院大の大場昌也教授開発の大学生用英文法テストをもとに英文法のポイントはそのままに語彙を易しくして作られたもので、2つのテストの結果は平均点がA版で32.6点、B版では31.0点、両者の相関は0.77であった。
この等価性の高い2つの文法テストを形成的に利用することにより「ストラクチャー」クラスの成果や問題点を客観的に示せる可能性がある。本研究では実施結果を詳しく検証し、基本4品詞の区別、3単現の-s、WH疑問文、節などについてその習得状況を分析した上で、これまでの指導方法との因果関係を考察する。

⑨ 文訂正タスクによる文法形態素習得順序の検証
吉住 彩(金沢学院大学学部学生)横田 秀樹(金沢学院大学)

第二言語習得(L2A)研究において、英語の文法形態素習得順序が存在するという報告がなされ(Dulay & Burt 1974 他)、同様に、日本人英語学習者による形態素習得順序研究も多く行われた(Makino 1981; Nuibe 1986; Matsumura 1986; Shirahata 1988; Tomita 1989; 和泉他2005他)。一部を除き(Luk & Shirai 2009他)、ほぼ同様の結果を得ているが、これらの研究の大半は、「産出」データに基づくものである。
その後、L2A研究において、L2学習者が一致や時制においてエラーを犯すのは、関連する抽象素性(features)に形式(音声)がうまくマッピングできないことに起因するというMissing Surface Inflection Hypothesis(Haznedar and Schwartz 1997; Lardiere 1998a, 1998b 他)が提案された。この仮説に基づけば、習得順序の先行研究で「産出」された形態素の誤りは、「分かっているがうまく音形として出せない、または形を知らないだけ」の可能性がある。それでは、学習者はどの程度誤りに気づいているのであろうか。
本研究では、学習者は、形態素の誤りに対する「気づき」を調査することを目的とし、産出タスクではなく、文訂正タスクを用いた。初級英語学習者(大学生)を対象に、一ヶ所に文法形態素の誤りがある英文を提示し(例:He look very happy.)、(1) 誤りの箇所に下線を引くこと、そして(2)それを修正させるタスクを行った。(1)によって誤りがあることに「気づいて」いるか、また(2)によって正しい知識を持っているかを確認し、文法形態素項目によって(1)と(2)に差があるのか調査した。さらに、この(1)と(2)の結果が、先行研究の習得順序とどのように異なるかを報告し、そこから得られる教育的示唆を議論する。

第 6会場(3階 E304)

⑤ 効果的な語彙指導に関する考察:学習方法の違いによる語彙記憶と記憶保持率の比較
河田 浩一(愛知県立熱田高等学校)

一般的に「一夜づけで覚えた事柄はすぐ忘れる」と言われるが、実際に学習方法の違いによって語彙の学習効果やその記憶保持率にどのような違いがあるのだろうか。
語彙学習には、語彙学習を直接的な目的として行う意図的学習と、ある言語タスクの副産物として語彙を学習する偶発的学習がある。両者の区別は明確ではないが、それぞれの学習方法の長所・短所を理解することは、実際の教育現場での効果的な語彙指導を考えるうえで重要な示唆を与えると考える。
本研究では、偶発的学習として、ゲームを通して教科書に出てくる単語を学習する方法と、特別な語彙指導を行わず読解を通して自然に単語を学習する方法の2つを、また意図的学習として、定期考査に出題する方法を取り上げ、それぞれの学習方法での語彙の記憶と、1ヶ月後の記憶保持率を比較した。その結果をもとに、効果的な語彙指導のあり方を、授業運営・動機づけの観点と絡ませて考察する。

⑥ リーディングの事後タスクが付随的L2語彙学習に与える影響
駒井 健吾(長野県屋代高等学校)

第二言語習得(SLA)における言語形式の焦点化(focus on form)においては、あくまで焦点化されているのは学習項目の意味内容であって、学習者の注意は付随的にしか学習項目の形式面に向けられない。付随的L2語彙学習は主たる活動の副産物として生じているため、程度の差こそあれfocus on formの環境だと言える。リーディングに伴うfocus on form型の付随的L2語彙学習に関しては、テキストや学習環境の操作は多く行われてきており、その効果も確かめられているが、事後タスクの効果に関する研究は数えるほどしかない。先行研究を踏まえると、記銘対象語が事後タスクの中でどのように扱われているかによって、付随的L2語彙学習の性質と効果が変化すると予想された。記銘対象語をタスクの問題文ではなく期待される解答の中に組み込むことによって、参加者の注意をその語に向けさせることができると考えた。また、その語に向けられた参加者の注意は、使用言語がL1かL2かによって、専ら意味内容に向かうか形式に向かうかが決定されると考えた。
163名の日本人大学生を無作為に5つの群に分け、20分間のリーディングおよび事後タスクを行った。実験群タスクをL1内容理解問題、L2内容理解問題、L1要約問題、L2空所補充型要約問題の4つに設定した。統制群には記銘対象語に関わりのないL1内容理解問題を課した。修正版Vocabulary Knowledge Scale(Paribakht & Wesche, 1993)を用いた2回のテストにおいて、直後では各群間に有意差が見られたが、4週間後では有意差が見られなかった。また、直後テストではL2による解答を必須とするタスクの効果が見られたが、遅延テストではそれらタスクの優位性はほぼ消滅していた。リーディングに伴う付随的L2語彙学習については、学習者に対し初期段階で記銘対象語の形式面に注意を払わせるタスクが必要であるが、長期的な語彙保持を可能にするためには、さらに意味内容と形式とを統合するようなタスクが必要であることがわかった。

⑦ 単語認知の自動化が読解に及ぼす影響
城野 博志(三重県立四日市南高等学校)野呂 忠司(愛知学院大学)

流暢な読みを実現するには語彙が果たす役割は大きい。これまでのL1およびL2の読解研究において読解力を構成する下位構成要素として語彙知識の果たす役割は認知されてきた。語彙知識は広さと深さの2つの側面を持ち、どちらも読解力との相関は認められるが、その相対的重要度は学習者のL2習熟度(proficiency)によって異なると言われている。
語彙が読みの流暢さに果たす役割は語彙知識に限定されているわけではない。いかにすばやく語彙情報をメンタルレキシコンから検索することが出来るか、その検索の早さも読みの流暢さに影響力をもつと考えられる。読解のような複数の認知プロセスから構成される認知活動では、単語認知のような下位のプロセスが自動化されると、有限の認知資源を上位のプロセスに回せることが出来るので流暢な読みが実現しやすいと考えられてきた。
本研究ではSegalowitzの変量係数(Coefficient of Variation)を用いて単語認知の自動化ならびに自動化とと読解力・読解速度との相関を考察する。結果として、被験者全体を分析対象とした場合、単語認知の自動化は日本語をプライムとした場合のみ有意差が認められたものの、絵をプライムとする場合には認められなかった。また、自動化と読解速度の間には相関が示唆されたが、読解力との間には確認されなかった。さらに、被験者をproficiencyで上位グループと下位グループに分けた場合、上位グループよりも下位グループで自動化が進んだことが検証された。

⑧ 音読評価の観点と英語力の関係
飯野 厚(法政大学)

籔田由己子(清泉女学院短期大学)トーマス・ジョエル(清泉女学院短期大学)
本研究は、音読スコアと読解力および習熟度テスト(CASEC)の関係を探ったものである。その結果、音読スコアと習熟度テストに関しては、高めの正相関の関係が見いだされた。一方、音読と読解力との関係は全体としては、有意な相関関係は見いだされなかったが、習熟度群によって関係性に差異が見いだされた。
音読の評価に関しては、教師が学習者の音読パフォーマンスを評価する際の観点として、英検(STEP)の2次試験で活用されている①発音・アクセント、②イントネーション、③文節の区切り、④全体的な内容という4つの観点が代表的である。また、これらの音読スコアと英語力の関係を探った研究として宮迫(2002)がある。さらに、山口・清水(2009)は、①発音・アクセント、②イントネーション、③文節の区切り、④流ちょうさ、⑤全体的な内容の伝達と、観点を5つに増やして英語力にかかわる技能との検証を試みている。本研究では、評価者の認知的負担を考慮し、飯野ほか(2008)による、音声面での意識の度合いの指標として①発音の適切さ(音韻の質/調音意識)、②プロソディの英語らしさ(ストレス/リズム/イントネーション)、音声と意味の接点を示す指標として③スピードの適切さ(pauseの適切さ/内容理解度)の3観点で音読の評価を試みた。音読の音声データは短期大学1年生80名強の音読を現職の大学教員3名で評価した。個々のデータに関して評価にずれがある場合は合意に至るまで協議した。この工程を経て得られた音読スコア(3観点×各5点満点および総合点15点満点)を、同時期に行われた読解テストおよびコンピュータによる適応型習熟度テスト(CASEC)の総合点との相関分析に使用した。
発表時には、音読の3つの観点も数量的に検証した結果を含めて、音読と英語力の関係を議論する。

⑨ 家庭での「音読」は英語学習に効果的か
江口 優治(富山県立富山南高等学校)

國弘正雄(1984)や土屋澄男(2004)の言葉を借りるまでもなく、日本での英語学習において、「音読」はとても重要である。教師の多くが、音読は英語力の向上に効果が高いと考えているのではないか。しかし、音読がいかに大切と思っても、授業中に音読にさける時間は限られており、後は家庭で音読しておくようにと生徒に言うのが精一杯であろう。今時の生徒にいくら音読が重要と訴えても、具体的にどのくらい学習効果があるのか、はっきりとしないのでは、なかなか生徒もついてこない。
そこで、家庭学習としての音読は、英語力の向上や学習習慣の形成に効果が高いと考え、平成21年度入学生に家庭学習としての音読を奨励してきた。生徒には、「授業で学んだことを家庭でひたすら音読することで、より英語が定着しやすくなる」と説明し、毎月の始めに「音読マラソン記入シート」を配布し、月末にその記録シートを提出させた。生徒には、ありのままを記録してもらうため、音読時間の長短には特にコメントせず、毎日継続して実施するように繰り返し伝えた。2年生になった現在でも、継続して行っている。
今回の発表では、音読をきちんとやった生徒とそうでない生徒との英語力の推移(外部模試などでの比較)、どのレベルの生徒に音読は効果的なのか、音読に対する生徒からのフィードバック、音読を通して見える今後の英語指導などについて発表する。

第 7会場(4階 E401)

⑤ Curriculum and Community: coordinating teachers and developing English curriculum
Jarrell, Douglas(名古屋女子大学)Venema, James(名古屋女子大学)

Curriculum coordination is often a controversial topic, particularly at the university level. Part of the problem may be a lack of consensus as to what curriculum coordination means. In some institutions this might mean that teachers are required to follow a mandated syllabus, with little flexibility or opportunity to provide input. This presentation will approach curriculum coordination in terms of professional community building.
Borrowing ideas from ‘Professional Learning Communities’ (DuFour, 2005) we will look at three interrelated aspects of professional communities of teachers: establishing learning goals, facilitating communication and collaboration among teachers, and evaluating the results. The main advantages of this approach are as follows:
1. Teachers have the opportunity to provide input.
2. There is the opportunity for teachers to work together to improve their teaching.
3. There is a way to continually improve the curriculum and better respond to student needs.
The presenters will provide specific examples from their own context, an International English department, and encourage participants to reflect on how the model might be applied to their own setting.

⑥ Lithuanian teachers’ beliefs about integrating intercultural communication into English classes
Kvaraciejute, Rovena(信州大学大学院生)

Recently there has been growing interest in the field of integrating of intercultural communication into foreign language education. The objective of language learning is no longer defined just in terms of the acquisition of communicative competence in a foreign language (Sercu, 2005). Although there is quite a lot of literature about this theme, just a handful of studies discuss the teacher viewpoint. The purpose of this qualitative study, using unstructured face-to-face interviews, was to investigate two Lithuanian teachers’ beliefs about the integration of intercultural communication into English classes. It was followed by four main targets: (a) to clarify teachers’ perceptions about intercultural communication; (b) to investigate their willingness and readiness to integrate intercultural communication into classes; (c) to explore main activities used for teaching culture; and (d) to examine out teachers’ viewpoints about experimental culture learning activities, such as exchange projects. The findings revealed the following points. First, even though neither teacher could define intercultural communication as a term, each could clearly describe their perception of it. Both consider intercultural communication to be a dialog among different cultures, which includes understanding their differences and similarities. Second, both teachers are not only willing and ready to integrate intercultural communication into their classes, but they are already doing so. However, it should be mentioned that their main focus is on communicative competence with some culture points included to enhance students’ familiarity with foreign countries as well as their motivation to learn English. Third, both teachers tend to employ techniques such as teacher talk to enhance students’ knowledge of foreign countries. However, one teacher especially emphasizes project work, which encourages students to search for information from different sources and involves their critical thinking as to which information should be presented to the whole class. Lastly, both teachers are not only convinced that international projects have positive effects on students’ awareness and viewpoints regarding foreign cultures, but they also devote some their teaching time to it and have extra curricular classes for such projects.
This presentation will include not only a report of the study’s findings but also a brief description of the Lithuanian educational system.

⑦ Culturally loaded?: Reading difficulties encountered by EFL students
加藤 治子(名城大学)

It can be assumed that there are a number of reasons why an authentic reading text in English is difficult to understand for Japanese EFL learners such as university students. It is important for teachers of English in Japan to be aware of what elements of such an authentic text could make it difficult for Japanese learners of English. In this paper, I will analyse an authentic English text taken from the Sun, an English newspaper, in terms of the word class, collocation, lexical cohesion, genre and cultural schema and discuss possible difficulties which Japanese EFL learners might encounter in reading this text. A survey is conducted to students at a university and a vocational college, who are asked first to read the text and then asked about how difficult the text was for them and what in the text did make it difficult or easy to read. Follow-up interviews are conducted to some of the students. Tentative results suggest that the students feel that they lack cultural schemata, without which it is simply impossible to make sense of the text. If expressions and terms which belong to certain cultures, in this case, the British monarchy and the law court, appeared only in insignificant positions in the text, they would not make the whole text so difficult. However, these culturally loaded items appear as cohesive devices in the text in question and this may cause further problems to Japanese readers. Another reason of the difficulty of the text is likely to come from the unfamiliarity of Japanese EFL learners with the genre, which is the one of the newspaper. Some of the sentence structures which are particular to the newspaper genre might well cause some problems amongst Japanese readers. The implications of this study for reading and general English courses are clear. It is important to analyse reading materials in terms of their genre, cohesion and cultural schema to assess the texts for the purpose of their classroom use.

⑧ A Report on Extensive Reading at Meijo University
竹田 真紀子(名城大学)只木 徹(名城大学)

In March 2010, Meijo University published a full report on extensive reading (ER), which was introduced as a part of its Liberal Arts English Program (LAEP) in 2006. The ER program was promoted as a most important university-wide project and developed dramatically in the last four years. In 2008, ER room was opened being separated from the university’s library and the university currently has more than 23,000 English books for only ER on its three campuses as well as its affiliated high school. All the books are categorized according to the levels and genres so that students can easily find the books they want to read. On the main campus, more than 10,000 books are borrowed every month and more than 70% of 2,379 LAEP students thought that ER was useful for their English learning last year.
It can be said that the ER program of Meijo University is one of the best of its kind in and outside Japan in terms of its size and system. In this presentation, an attempt will be made to introduce how we have developed the extensive reading program over the four years and to show the data in the ER report which explains how and why ER can attract so many university students who are not English related majors and make them feel it useful for their English learning. A particular focus is given to explaining how ER is incorporated into the English Program and how we give guidance and support to the teachers who are novice to ER since we have come to a conclusion that individual teaches’ appreciation of ER is vital to the success of any ER program. Having teachers who have deep understanding of the value of ER and its effective teaching method is likely to result in having a greater impact on students’ motivation towards reading and learning.

⑨ Implications of a Handbook for English Education Programs in the Context of Standardization and Anti-standardization
只木 徹(名城大学)長尾 純(名城大学)

The number of universities which standardize their English education program has been increasing in recent years. Another side of the same story would be that those who lead such a reform are facing fierce resistance of anti-standardization. What is needed is a sound discussion between both camps. In such discussions, a handbook for the program can play an important role as a precious source of information because it is not uncommon that teachers and stakeholders do not know what is happening and therefore, they cannot make necessary decisions. In this presentation, we will outline the processes of an attempt of reforming the university wide English program and the development of a handbook for teachers. In so doing, we hope that there will be more constructive discussions amongst people concerned in many universities.
Meijo University has a standardized English education program called ‘Liberal Arts English Program (LAEP)’ for its six faculties involving approximately 70 teachers, most of whom are part timers. The standardization of the program has made it necessary to have a handbook for the teachers who teach with the fixed set of textbooks, syllabi, semester final examinations and assessment systems. The program is based on the Common European Framework of Reference for Languages (CEFR). This presentation will begin with a description of the processes of the development of an 83-page all English handbook for teachers followed by the characteristics of its content. This description will necessarily involve the historical background of the reform of the program. The theoretical background of the program, which is partly based on Second Language Acquisition (SLA) research and partly based on CEFR, will be another focus of the description. The data will also be drawn from te acher questionnaires and interviews. Any handbook of this kind would usually contain the content of the curriculum, which includes common textbooks, syllabi and assessment guidelines. What is unique of this particular handbook is its inclusion of FD (faculty development) sections. We will welcome comments and views on our reform of the program, which we hope will serve further discussions.

第 8会場(4階 E403)

⑤ 英語科教育で異文化への感受性を養うこと
中嶋 愛美(長野県須坂市立相森中学校)

英語科教育に、異文化トレーニングの認知面を促すカルチャー・アシミレーターを導入することが異文化への感受性を養うことにつながるかどうかを検討した。
カルチャー・アシミレーターとは、例えば、被訓練者である読み手が、異なる文化出身の個人の言動に関するスクリプトを読んだ上で、その言動の問題点を説明した選択肢を与えられ、1番望ましい選択肢を選ぶように求められるトレーニングである。1番望ましい選択肢とは、他者(異なった文化出身の人)の観点からみたプロブレム(the problem from the other’s point of view)の選択肢であり(Cushner & Landis;1996:185-186)、その後、フィードバックとなる解答を読むことで、読み手は他者の観点から見たプロブレムを理解できているかどうかを判断することができる。
また、異文化への感受性とは、個人の成長段階の中で異文化への気づき(cultural awareness)や文化的な差(cultural difference)の受容を通して、エスノセントリズムからエスノリラティビズムへと移行していくものである(Bennett;1993:22-26)。つまり、文化的な差を連続的に扱うことで、発達の要素となる文化的な差を認識できる能力を育成していこうとするものである(Bennett;1993:22-26)。勿論、異文化の感受性は単一の文化で生じることは全くないので、異文化の感受性を高めるためには、新らたな異文化への気づきとその受容の態度が必要となる(Bennett;1986:179)。
研究の手順として、エスノセントリックの段階(否定・防衛・最小化)からエスノリラティビズムの段階(受容・認知適応・行動適応)までのカテゴリーを測定する質問紙票を配布し、その回答後、3問のカルチャー・アシミレーターを行った。カルチャー・アシミレーターを行った直後、再度同一の質問紙票を配布し、回答を求め、その差を測定した。

⑥ 高校英語科における協働学習とICTの効果的な活用
田中 智恵(和歌山県立海南高等学校)

I C Tは時間と距離を超えて世界のあらゆる情報にリンクできるという利点をもつ。それ故にこれまでは個人に対応した学習ツールとしての利用価値が重視されてきた。しかし、より質の高い学びを実現させるためには、他者とのかかわりを重視した協働的な学びが必要となる。そこで、ICTと協働学習を結びつけ、両者の利点を生かした新しい学習スタイルを試みようと考えた。「個の学び」と「協働の学び」を同時に支える協働学習と、効果的なICT活用について、授業実践を通して考える。
授業実践では、ブログを用いたライティング活動に取り組み、そのなかで米国高校生との交流活動も取り入れた。高校3年生を対象に、協働学習においてICTを効果的に活用し、英語に対する学習動機を高め、コミュニケーションの活性化をはかることを目的とした。
活動を通じて「何をいかに伝えるか」「誰に伝えるか」という「伝える相手」を意識したコミュニケーション活動の重要性に気づかせることができた。活動前後の生徒へのアンケート調査で、英語学習への興味関心の高まり、英語力向上の実感等が認められ、それによって学習動機が高められたことは明らかである。ICTが提供する、より現実に近い英語使用環境によって、生徒が英語使用の必要性を感じたこともその大きな要因である。7~8割の生徒が協働学習、ICT活用が効果的であると回答した。一方、ICT環境の向上、クラスの少人数化等、課題も残されている。
課題達成に至るまでの過程で、生徒は情報検索、情報判断、手段の選択、協働学習での他者との「交渉」においてさまざまな学習ストラテジーを使用する。これは、学習者の自律性を促すことに繋がるのではないか。ICTによる情報活用、他者との協働を通じて身に着く「社会性」は、生徒が自律的な学習へと自らを導くプロセスとなる。

⑦ 第二言語習得とソーシャルインターラクション
太田 伸子(石川工業高等専門学校)

教育実践と応用言語学研究理論の連携により,英語コミュニケーション方略を獲得させる英語教育環境の構築を行ってきた。本稿では,「多様なソーシャルインターラクションによる英語表現力育成の試み」(太田2009)の継続的取り組みとして,教育現場における留学生と英語学習者とのソーシャルインターラクションに注目し,他のソーシャルインターラクションとの相乗的指導効果による英語コミュニケーション力向上を考察する。「外国語」としての英語習得について述べるのではあるが,「第二言語」習得理論に基づいて考察することとする。その他のキーワードとしては,言語自覚,英語発信力,異文化・多文化理解,留学生と世界英語,イングリッシュワークショップ,語用論的知識があげられる。本稿では,アフリカ,東南アジアからの留学生と日本人英語学習者とのインターラクションについて2003年から2009年までに行われたアンケート調査結果により,留学生とのインターラクションが英語学習者へ与える影響を考察する。また言語自覚を,外国語学習への動機付けと発信技術向上に結びつけることの必要性を示すこととする。B ICS(Basic interpersonal commmunication skills)つまり日常的な人と人との交流に機能するためのコミュニケーション技能向上への期待は大きい。機能的な英語教育環境について考察するものである。

⑧ 意見・考えを問う授業におけるインタラクションの特徴
藤田 卓郎(福井県立嶺北養護学校)河合 創(小浜町立小浜中学校)稲倉 佑真(福井市麻生津小学校)橋本 秀徳(福井市森田中学校)

第二言語習得研究において、インタラクションは重要な役割を担っており、多くの研究者によってその有効性が研究されている。また、日本の英語教育の現場でも、教師が英語で授業をすることが浸透しつつあり、英語で様々なコミュニケーション活動が行われている。
そのような現状の中、近年、意見・考えのやりとりを行う重要性が指摘されている(大下, 2009)。しかしながら、意見・考えのやりとりを意図した発問の有効性は十分に実証されているとは言えない。そこで、本研究では、中学生の授業において、意見・考えのやりとりを意図した発問を行った場合のインタラクションの特徴を、事実情報のやりとりを意図した発問を行った場合のインタラクションと比較し分析する。

⑨ 高校における英語辞書推薦の問題点
金子 次好(静岡県立磐田南高等学校)

高等学校では、入学時に学校から英和辞典を推薦して、それを教科書購入の際に一緒に購入させるのが慣例となっている。以前は、1種類の印刷体英和辞典を推薦することが一般的であったが、最近では推薦する辞書も複数になり、高校によっては、電子辞書も推薦辞書の中に含めたりするので、新入生のクラスへ授業に行っても、生徒の机上には様々な辞書が見受けられるようになった。
複数の辞書を推薦することで、生徒たちの辞書選択の幅を広げ、自分が気に入った辞書を購入する自由を与えたように思われるが、果たして現実にそうなっているのだろうか。今回の発表では、新入生に対して辞書購入に関するアンケートを実施し、実際に新入生はどのように購入する辞書を選んでいるのか調査し、その結果から現状の辞書推薦の問題点を指摘し、辞書推薦の望ましい方法について考察したい。

ポスターセッション

①③⑤説明10:30~11:45 ②④⑥説明11:45~13:00

① 小学校教師が望むハンズ・オン・アクティビティ~小中連携の教員研修の現場から~
清水 万里子(愛知淑徳大学)

小学校外国語活動の必修化を来年度に控え、昨年度から各地で市教育委員会主催の教員研修が盛んになってきている。本発表では、筆者が依頼された小学校外国語活動の研修内容から、指導現場で即使えるハンズ・オン・アクティビティを紹介する。いくつかの研修には中学校教師も参加しており、小学校、中学校の英語教育内容の連携も含めた簡単な活動を望む声が多く聞かれた。これらを基にした活動やアンケートの声を発表するとともに、人とのコミュニケーション能力を育てるために小学校でできることを意識した内容の発表する。

② シンガポール日本人学校における「外国語活動」の試み
柳 善和(名古屋学院大学)

この研究の目的はシンガポール日本人学校における「外国語活動」の試みを紹介し、シンガポールの言語状況、また日本人学校の児童たちがおかれている環境、などを概観することで、日本の小学校で導入される「外国語活動」を、その教育的意義を含め、より広い視点から検討することである。
 シンガポール日本人学校は小学校2校、中学校1校から構成され、児童・生徒数は1700名で日本人学校としては規模が大きい。シンガポールでは英語、華語、タミール語、マレー語の4か国語が使われるが、共通語としての英語の役割は大きく、現地の小学校でも一部の教科を除いて英語で授業が行われている。日本人学校でも英語には重点を置いており、小学校1年生から、児童の英語能力に応じて10~15段階の編成で、British Councilの協力の下に週に数時間の英語の授業を行っている。実際に児童の英語能力も、日本から来たばかりでほとんど英語が使えない児童から、両親の一方が英語の母語話者で、ほとんど母語話者と同じ英語能力を持った児童まで同じ学級にいる。その一方で、日本人学校は基本的に学習指導要領に即したシラバスを編成する義務があり、2011年度から導入される「外国語活動」をどのように実施するかが、目下の検討課題である。
本発表では、日本人学校で行われた「外国語活動」の研究授業を紹介し、英語能力に大きな開きがあるホームルームクラスで「外国語活動」を行う意義を論じる。研究授業では児童の能力差に対応するように様々な工夫がなされていたが、英語の技能を伸ばすためだけであれば、このような能力差が極端なクラスで授業を行うことは意味がないかもしれない。しかし、教育的な観点を考えると大いに意味があるとも言える。実際にこの授業の児童の感想を見ると、積極的にこの授業を評価する声が多く寄せられた。このような観点から日本の小学校英語教育に示唆するところまでを扱う。

③ 「中学校英語教育へ繋げるための外国語活動における語彙指導:シンガポール日本人学校の英語教育から」
高橋 美由紀(愛知教育大学)

本発表では、日本の幼稚園・小学校の子供達のコミュニケーション能力を育成するために、シンガポールの日本人学校の幼児から小学6年生までの英語の授業を紹介し、その事例研究から、英語教育における語彙指導に焦点をあてて、語彙の導入、語彙の定着を図るためのタスク、コミュニケーション活動での語彙の活用法等、日本の小学校外国語活動に示唆できる点を述べる。
シンガポールでは、英語は公用語の一つであり、英語の普及率は高い。したがって、家庭や学校でほとんど日本語を使っている、日常生活では英語に晒される機会が日本とは比較にならないほど多い。この様な英語環境の元で、日本人学校の子供達は、母語話者が指導している英語コミュニケーションスキルを育成するための授業と日本人教師が指導している外国語活動の授業を受けている。前者は子供達の英語能力に応じて、13レベル程度に別れて一クラス数人で指導されており、後者は一クラス40名程度でレベル差がある子供達を一斉に指導している。
この点はコミュニケーション能力の「素地」の養成を目指し、その中で体験的な語彙指導を想定している日本の小学校外国語活動とは異なっている。
本発表では、まず、コミュニケーション活動における語彙指導について、Teaching Young Language Learners (Pinter 2009)から、語彙指導の重要性とその在り方を述べ、次に、新学習指導要領から中学校の英語教育へ繋げるためにも小学校段階で語彙指導が必要であることを述べる。さらに、日本人学校の英語教育と外国語活動の指導において、語彙の指導方法や指導内容について述べる。最後に、子供の外国語教育として、効果的に語彙を指導する在り方についてまとめ、日本の外国語活動の指導として活用できる点を論じる。

④ 小学校英語教育が中学校以降の英語教育に与える影響:小学校英語教育経験者のアンケートをもとにして
柴田 里実(常葉学園大学)

小学校英語教育を進める上で、小学校での英語教育から中学校での英語教育へと円滑な橋渡し、「小・中連携」が重要であるということは多くの研究者によって議論されている。本研究では、事例研究を通し、学習者の視点に焦点をあて、小・中連携の在り方の一つを提案する。
大学教育機関で外国語学部英米語学科に所属しながら、英語に対し苦手意識を持っている学習者、さらには英語嫌いである学習者は少なくない。2010年度入学の大学1年生は、小学校での英語教育の経験のある学習者、経験のない学習者、さらには経験がある学習者の中にも小学校での英語教育に肯定的な印象を持っている学習者、反対に否定的な印象を持っている学習者と多種多様である。そこで、本研究では、2010年度4月に入学した外国語学部英米語学科の大学生を対象に学習歴を調査するためアンケートを実施した。その結果、小学校での英語学習経験にばらつきはあるものの、小学校英語教育が中学校以降の英語学習に与える影響の肯定的傾向および否定的傾向の両面が示唆された。
ポスターセッションでは、アンケート結果の詳細、および日本の大学教育機関に在籍する学習者が、自身の英語学習経験をどのようにとらえているかを、小学校英語教育が中学校以降の英語教育に与える影響に焦点を当て、考察することを試みる。さらに、大学生学習者が小学校、中学校でどのような英語学習を経験することが、有効であると感じているかを学習者の視点から考察する。最後に、小・中連携を目指し、小学校英語教育を実施する上で、教員が留意すべき点を学習者の視点に焦点をあてて提案する。

⑤ A Case Study of Dictionary Instruction: using verb pattern information in dictionaries
窪田 裕江(麗澤大学)

Dictionaries are useful tools for language learners. However, some learners cannot use all the information presented because they lack the required skills. Some dictionary skills can be self-taught, particularly by learners with higher proficiencies. However, many of the students at the beginner's level in a university were not able to utilize grammar information in dictionaries. Furthermore, a survey conducted on such students shows that formal dictionary instruction for understanding grammar information is rare.
This poster session presents a case study of instructions on how to use verb pattern information in dictionaries. The learners are university students at the beginner’s level. The presentation offers materials for instruction and results of surveys on dictionary use. It also provides results of dictionary skill tests, which suggest an improvement in learners’ dictionary skills in recognizing not only verb patterns but also adjective phrases.

⑥ 大学生の筆記体リテラシーの実態調査
佐藤 雄大(名古屋大学)大澤 聡子(鈴鹿医療科学大学)Tanner, Paul(愛知文教大学)

現在の中学校学習指導要領の筆記体指導についての記述は「文字指導に当たっては、生徒の学習負担に配慮し筆記体を指導することもできること」となっている。筆記体の指導は指導要領が改訂されるたびに指導に対する縛りがゆるくなり、それに伴って中学校の英語授業で筆記体指導がなされなくなっていった。その結果、現在多くの中等教育、高等教育機関の英語学習者は筆記体を書けない、読めないようになってきている。この状況は英語教育に携わっている教育関係者にとっては周知の事実であるが、社会的には認識されておらず、他学科の教員から驚きと共に「学生が筆記体を読めない」ということを報告されることもあり、「どうして筆記体を教えないのか」ということを聞かれることもある。また専門領域によっては筆記体のリテラシーが必要であり、英語の授業の中に筆記体指導を導入してほしいという声も聞かれる。
このような現状を踏まえ私たちは以下の項目について調査・研究を順次開始することとした。
1.大学生の筆記体リテラシーの実態(質問紙などによる調査)
2.アメリカにおける筆記体リテラシーの実態(文献調査)
3.英語教育における筆記体指導の役割
私たちは現時点で「1.大学生の筆記体リテラシーの実態」を終えたため、現段階でわかってきたことを今回のポスターセッションで報告したい。報告内容は実態調査として行った「質問紙調査」(筆記体指導の有無や筆記体を必要と感じたことがあるかなどの意識調査)と実際筆記体を読んだり、書いてもらったりする「筆記体リテラシー調査」の概要と分析結果である。調査対象は中部圏内の大学生300名で、様々な専攻(英文学、国際英語、経済、薬学)の大学生を対象とした。また引き続いて「2.アメリカにおける筆記体リテラシーの実態」を調べるべく文献にあたりはじめているため、現時点において確認できたことも当日報告したい。

英語教育研究法セミナー

コーディネーター: 浦野 研(北海学園大学)
発表者: 田中武夫(山梨大学)
     本田勝久(千葉大学)
     高木亜希子(青山学院大学)

(全体の趣旨)

 本セミナーは、英語教育に関する研究をこれから始めようとする方や、既に研究を行っているものの、課題設定の仕方や研究手法等に自信の持てない方を主な対象に、研究を行う上で注意すべき点や取るべき手段など、特に研究方法に焦点を当てて提案、議論することを目的としています。また、既に英語教育研究を数多く行ってこられた方々にもぜひご参加いただき、活発な意見交換や質疑応答を期待しています。今年度は3つのセミナーを同時進行で行います。これから新たに研究を始めようとしている方はセミナー1に、すでに研究テーマをお持ちの方はセミナー2または3にご参加いただくことをおすすめします。昼休みの開催なので、昼食と共にお聞きください。

(発表要旨)

セミナー1.研究テーマの見つけ方・深め方 (会場 E403)
田中武夫(山梨大学)

 どのように研究テーマを見つけ、どのようにテーマを深めていけばよいかという課題は、研究を行う者であれば誰もが直面する。研究テーマを見つけ深めるプロセスとしては、(1) 情報収集の段階(情報を収集する、情報を取捨選択する、情報を組み合せる)、(2) 絞り込みの段階(焦点を絞る、現状・課題・解決を見出す、論点を見つける)、(3) 思考整理の段階(考えを書き出してみる、仮説や問いをもつ、主張することを決める)などが考えられる。これまでの卒論指導や修論指導を通して気づいたことや、自分自身の反省などから感じていることをまとめ提示してみたい。

セミナー2.量的研究デザインの方法 (会場 E304)
本田勝久(千葉大学)

 英語教育の研究を行うとき、もし研究者が、実証主義的な視点 (positivist) に立てば、客観性、予測、反復可能性を重視し、科学的一般化や現象を説明する法則を明らかにすることが目的となる。そのため、実験研究や質問紙調査などの方法論 (methodology) を選択し、測定や選択式質問紙などの量的手法 (method) でデータを収集して、統計的な分析を行うことになる。
 本発表では、具体的な研究テーマを例として、量的手法で研究を行う場合の研究デザインについて提示する。具体的には、(1)リサーチ・クエスチョンの設定、(2)データ収集の方法、(3)データ分析の方法、(4)研究の評価に関して、それぞれ提示していく。
 また本年度は、統計的検定における検出力 (power) に基づくサンプルサイズの設計方法について触れる。検出力やサンプルサイズの設計は、統計的検定を行うにあたって基本的な概念であり、重要である。英語教育における量的手法では、自由度(n-1)のt分布の両側5%点より大きければ「有意差あり」と判定し、「帰無仮説を棄却して対立仮説が成り立っている」と判断することがある。しかし、検出力とサンプルサイズの関係を検討すれば、実質的な意味のある差について考察することができる。
 ・対立仮説が成り立っている→サンプルサイズ(大)、検出力(高)
 ・帰無仮説が成り立っている→サンプルサイズ(小)、検出力(低)
 本発表では、正規分布、t分布、χ2分布、F分布の分布関数を計算できる(例えば、表計算ソフトExcelなどを使って)ことを想定している。統計的検定におけるサンプルサイズの設計では、検出力の考え方と計算方法が密接に関連している。サンプルサイズや検出力を検討することで、量的研究デザインの方法について議論したい。

セミナー3.質的研究デザインの方法 (会場 E401)
高木亜希子(青山学院大学)

 英語教育に関する研究を行うとき、研究者は、まずどのような理論的視点に立ち、研究を行うか明確にした上で、研究計画を立て、目的に合った研究手法を選択することが必要である。大きく分けて3つの理論的視点があるが、これまでの日本の英語教育の研究分野では、実証主義的な(positivist)視点に立った量的研究が主流であったので、本発表では、質的研究の方法論について理解が深めることを目的とする。
 具体的には、解釈的な (interpretive)、および批判的 (critical) 視点に立った研究者のために、(1)研究課題の設定、(2)データ収集の方法、(3)データ分析の方法、(4)研究の評価という観点で、質的研究デザインの方法を提示する。質的研究の具体的方法として、ナラティブ研究、現象学的研究、エスノグラフィ、グラウンデッド・セオリー、事例研究など様々な方法論がある。前半は、全ての質的研究に共通する、研究対象者の選択方法、データ収集法、倫理的考慮及び量的研究の信頼性、妥当性に相当する質的研究の信頼性(credibility)、移転性(transferability)などについて概観する。後半は、昨年筆者が指導した修士課程の学生が行った事例研究をとりあげ、グループ面接、記述式質問紙などの質的手法によるデータの収集とコーディングとカテゴリー化を用いた分析方法を紹介する。
 本発表では、量的研究の枠組みにおける量的データの補完としての質的データは取り扱わないが、今回提示するデータ収集と分析方法を応用することは可能である。具体的な事例を用いて、質的な研究方法を紹介することで、質的研究を行いたいと考えている人の理解を深めるとともに、既に質的研究を行っている参加者とは、質的研究のあり方や方法について意見を交換したい。

中部地区英語教育学会設立40年記念シンポジウム

中部地区英語教育学会40年を振り返り英語教育の未来を展望する
―英語教育学発展のために―

司 会: 青木 昭六(兵庫教育大学名誉教授)・大下 邦幸(福井大学)
提案者: 佐々木 昭(静岡大学名誉教授)・渡邉 時夫(清泉女学院大学)・
平野 絹枝(上越教育大学)・酒井 英樹(信州大学)

中部地区英語教育学会は1971年に産声を上げ、本年2010年に設立40年を迎えた。本シンポジウムは学会設立40年を記念して行うもので、記念という意味から、テーマを表記のように掲げた。学会が歩んできた長い歴史を振り返る中で、本学会が英語教育学発展のためにどのような役割を果たしてきたのか、また積み重ねてきた歴史と伝統を踏まえた上で今後どのような方向に進むべきか、さらには英語教育そのものがどのように発展していくのかを明らかにしようというものである。
 本シンポジウムでは、趣旨に沿うように、ベテラン、中堅、新進気鋭の4名の方々に提案をお願いした。本学会の生みの親の佐々木昭先生には,これまでの学会の歩みを中心に現在との連続性について、学会の理論面でのリーダーである 渡邉時夫先生には、時流の回顧と展望を行う中で、研究や実践についての認識を新たにするような提案を、手堅い研究で定評のある平野絹枝先生、新進気鋭の酒井英樹先生には、現在と将来の連続性を踏まえながら、将来についてのできれば夢のある展望を提案していただけるのではないかと期待している。

英語教育目的論ふたたび~何のために英語を教えるのか
佐々木 昭(静岡大学名誉教授)

吉田松陰曰く「人心が正しければ国家は、内政面でも外交面でも安泰である。これに反して人心が正しくなければ、政治は腐敗し、商倫理は地に堕ち、教育は荒廃する」(村井、1985)。
全国英語教育学会初代会長、鳥居次好先生は、ある開所式で次のように述べておられる。
1.小学生が英語を学んだために、日本語がいっそうじょうずに使えるようになった、と言われるように計画すること。
2. 小学生に英語を教えたために、英語を知らない他人を軽蔑したりするような軽薄な人間を生んだ、と言われないように計画すること。
 この2つのことは、幼稚園や小学生の英語教育だけでなく外国語教育全般について言えることである。外国語教育の究極の目標は、言語に対する鋭い感覚を持った重厚な人間を育てあげることにある。外国語教育が、ただその外国語を使えるようになることだけに目標を置いている限り、学校教育における外国語教育の位置はますます低いものになっていくであろう(鳥居、1972)。 私は、わが国の政治、経済は教育界に注文を出しすぎ、そのためかえって教育を枯渇させていると思う。教育は人間の本質として精神を直接に問題とするものであり、本来、他の働きによって限定されるものではなく、いわゆる自己規定的なものである。ところが政治や経済は、この世において、時間的空間的に自己を実現していく実証的な機能であるから、結局、他によって規定する他はない。つまり、政治や経済に真の内面的な基盤を与えるのは人間であり、そのような人間に働きかけるという意味で、政治と経済に対する教育の優越性は、理論上、打ち拒み難いものであることを知らなければならない。いつの時代でも、どこの国でも最も根本的なものは、人間絶対尊厳の思想である。人間は何者によっても手段となるべきものではなく、一切の上に君臨する権利がある。政治や経済が人間を作るのではなく、かえって人間が政治や経済を作るのである。
以上のことは、世界の二大教育思想の長い葛藤の歴史に裏付けられている。
引用文献
鳥居 次好(1972)『英語教育』第24巻 第2号 開隆堂出版。
村井 実(1985)『教育思想』日本放送出版協会。

英語教育 --- 回顧と展望
教員の(英語使用力の)資質向上と優れた研究の集団的継続的実践の必要性
渡邉 時夫(清泉女学院大学)

1.英語指導原則への疑問
英語指導原理の史的変化の分析と考察を行い、指導原理として信頼できる要素を指摘する。(Audio-Lingual Approach, Twaddell’s Five Steps of Foreign Language Learning, Communicative Approach, KrashenのInput Hypothesis , RiversのInteractive Approach, など英語指導原理の変遷について触れ、何を残すべきかについて簡潔にコメントしたい。
2.より確かな指導原則と実践への対応
     --- 「生徒とのInteractionの多様化」を基本に据えた指導法の提案---
(a) より確かな指導原則
 《インプットか、アウトプットか、或いはInteractiveか》などについてCommunicative Ability を高めるという視点から考察する。 その上で、学習者の積極的な英語使用を促すために必要な授業手立てについて具体的に述べる。
  戦後65年を費やして指導法や指導技術の改善を繰り返してきた現在も、学習者の英語使用能力という点で、抜本的な変化がみられないのはなぜか、考えてみたい。
(b) 実践への対応
① 学習者のCommunicative Abilityを高めるためには、授業者(英語教員)の授業力の向上が不可欠 --- その上で、product-oriented からprocess-orientedへと英語授業の方向を一層大きく変えていく必要を訴えたい。
② 教員の英語使用のためのヒントとしてMERRIER Approach を取り上げ、具体的な応用の仕方を紹介 
③ 教員の英語力を磨くための研修法について考える(学習者のawareness-raising, 学習内容について、学習者に深く考えさせる questionsの有り方、補助教材の作成とMERRIER Approach,      その他 )
3.学会での発表とfollow-up--- 継続的な実践--- について述べる。

本学会紀要における研究(1990年 – 2010年)のレビューと展望
平野 絹枝 (上越教育大学)
 
英語教育学が学問として認知されるようになってから久しいが、本学会のシンポジウムのテーマを振り返ってみると、今から20年前の第2 0回中部地区英語教育学会(静岡)大会(1990年開催)のシンポジウムでは、「これからの英語教育はいかにあるべきか」がテーマとして取り上げられ、英語教育学のあり方について論じられた。提案者の一人である松川禮子氏は、再度英語教育学の学としての性格付けを論じるために、中部地区英語教育学会紀要3号(1974)から18号(1989)の16年間の自由研究論文を対象として紀要論文の傾向を調べた。研究の蓄積を振り返り、どんな研究領域で、どんな研究方法で行なわれているかを報告して、英語教育学の現状を把握しようとした (松川,1991)。
 さらに、10年前には、中部地区英語教育学会第30回(石川)大会 (2000年開催)では、学会設立30周年を記念し、「シンポジュウム:英語指導における理論と実践の相互作用を目指して ― 英語教育学のあり方を考える ― 」が開催され、鈴木基伸、大下邦幸、佐野正之の3氏の提案があった。
本発表では、本学会紀要3号 (1974)から紀要18号 (1989)に掲載された論文の研究傾向を考察した松川 (1991)の継続研究の形をとり、本学会紀要19号(1990年)から39号(2010年)までの21年間の紀要に掲載された論文を概観して、それらの研究領域と研究方法(理論的研究、実証的研究、実践的研究の分類を基準)の傾向を報告したい。そうすることによって本学会の英語教育学研究の実態を把握し、およそ20年前とその後から現在に至る研究傾向を比較してどのような変化があるかを考察して、今後の英語教育学研究への示唆や展望について述べたい。

英語教育学に関わるジレンマの克服に向けて
酒井 英樹(信州大学)

研究者として、大学教員として、指導者として、英語教師として、さまざまなジレンマを感じることがある。例えば、英語教育学の学術的な貢献を目指して研究を行うときには、(ポスト)実証的主義を採用するのか、それとも解釈主義によるべきなのだろうか。英語教育学の専門家として教師たちと協同研究する場合、英語教育学の言語のみを用いて「助言」や「コメント」するべきか、あるいは、責任は持てないが現在の「私」の総合的な言語による「助言」や「コメント」は許されるのだろうか。自らの英語教師としての力量を高めたいと願うときには、理論的な知を学ぶべきなのか、またはすぐれた実践者のことばに耳を傾けるべきなのだろうか。英語教師たちに学会への参加を呼びかけるべきか、それともかえって負担を増加させていないだろうか。
これらのジレンマは、英語教育学の特質に起因するものと思われる。英語教育学が研究の対象とする「英語教育」という現象は、複雑で不安定で不確実な営みである。さらに、この現象においてどのように問題を切り取るのか、またどのようにその問題に対処しようとするのかという方法も多様である。この多様性にも関わらず、合理性に基づく判断を行おうとするときにジレンマを感じることになると考えられる。英語教育学を1つの科学として捉えることの不十分さは、第4回中部地区英語教育学会の「英語教育学の発展をはばむもの」と題するシンポジウムにおいてもすでに指摘されている(藤掛, 1974)。
本提案の目的は、第一に、Schön (1983) の実践的認識論を援用して、専門家である教師の英語教育実践の点から「英語教育学」を捉えなおし、「英語教育という一つの目的達成のための学問体系の中に位置づけていくこと」(本学会設立趣意書)を試みることである。第二に、実践者による研究 (practitioner research) としての探求的実践 (Exploratory Practice: Allwright, 2003, 2005a, 2005b) について考察することである。これらのことを通して、ジレンマの克服への道を模索し、英語教育学の発展の手かがりを得たいと希望している。